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お見舞い申し上げる。

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「やれやれ、歳だなァ」


失礼なことをぼやきつつ、宗矩は腰を上げて一度退室した。

宗矩の指摘はもっともだ。
…ああいや、俺が歳をとった云々ではなくて。


豊臣と徳川。
力だけでいえば、その両者は拮抗する。
それでも豊臣が天下を治めたのは、平たく言えば秀吉と家康の性格の差がもたらした結果に過ぎない。

信長の背を追い続けた、改革派の秀吉率いる豊臣軍。
これまで苦汁を舐め続けた、慎重派の家康率いる徳川軍。
秀吉の手腕を認めているが故に、家康は甚大な被害が自軍に生じる前に身を引いたのだろう。

秀吉と家康、その強大な存在であるどちらかが潰えれば、拮抗した力はたちまち傾く。
日和見主義の大名たちはこぞって存命している側につくはずだ。


そして秀吉亡き後。民に対してはともかく、各地の将からの人望が薄い三成が孤立してしまうであろうことは想像に難くない。
早い段階で三成周辺の地盤を固めようと左近は奔走しているが、なかなか若い頃のように身体は追いつかないらしい。

目を閉じて思考を巡らせ、そのまままた眠ってしまいそうになったとき、すっと障子が開いた。


「はーい、お待たせー」


こちらが反応する前に、ぺしっと顔面に冷たいものが落とされる。


「うっ……ん、ああ…手拭いか。…わざわざどうも」


のろのろと手拭いを額に乗せなおし、とりあえず簡潔に礼を述べておく。
少し離れたところに水の入った桶まで持ってくるあたり、意外と世話焼きな一面があるのかもしれない。


「よし。あとは任せてよ、島殿」

「……。…何かありましたっけ?」


人に頼まなくてはいけないようなことがあっただろうか。
相手を見上げると、真剣な面持ちでおじさん頑張るからねなどと言いながら布団を捲ってくる。


「……柳生さん、」

「うん」

「寒いです」

「うん」

「というか、俺疲れてるんで」

「うんうん」


いやうんうんじゃねえよ。

腰の上に馬乗りになるなり、宗矩はこちらの着流しの襟に手をかけると極自然な動作で肌を晒していく。

如何わしい腕を押しのけようと試みるが、万全な状態ですら不意を突かないと一撃を入れられない大剣豪が相手だ。
力の入らない今の己では敵うはずもない。

諦めて抵抗を放棄すると、ちゅ、と音を立てて軽く唇が重ねられた。


「島殿はそのままでいい。汗をかけば熱も下がるさ」

「…もっともらしいこと言ってますけど、全然有り難くないです」

「ははは、優しくするから許してよォ」


節くれだった固い手が、するりと脇腹を撫でるだけでぴくりと腹に力が入った。
宗矩は小さく笑うと、首筋に鼻先を埋めて肌の薄い部分に舌を伸ばす。


「んっ…」

「…熱い。しんどそうだね」


空いていた手が隆起した胸板を優しく撫でては、時折り飾りを指先に引っ掛けた。
胸では特に快感は感じないが、彼らしからぬ遠慮がちな触れ方に意識が変に集中してしまう。

脇腹にあった手は、腰を辿って先程から大腿部をさすっている。
その触れ方も、やはりいつもと違う。そんなところ普段は構いもしないくせに、今回ばかりは趣向が異なっていた。


「…ちょ、と……柳生さん、」

「まだ、寒いかい?」

「いや……寒くは……ッんん!」


かぷ、と胸の飾りを口に含まれ、肉厚な舌がなぶってくる。
しかしそれも決して性急ではなく、ねっとりと丹念にほぐすような動きだ。
こそばゆさに、吐息が漏れる。

宗矩との情事に前戯などほぼないに等しい。
突然逸物を握り込まれることが当たり前といった有様だ。
それが…こんな女にするような手管、逆に勘弁してもらいたい。


大腿部の手が、今度は内側に滑り込んでくる。
肌はしっとりと汗ばみ、相手の手のひらが引き締まった内腿に吸い付く感覚。
下穿きの生地の上から、双球を指先が擽った。


「ふっ……、くっ」


もどかしくて、顔を軽く背ける。
とうにぬるくなった手拭いが、額から落ちた。

作品名:お見舞い申し上げる。 作家名:緋鴉