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本日はお日柄も良く、絶好のお葬式日和で

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1 禰豆子視点



「おいっ、こっち酒足りねぇぞ! 酒樽ちゃんと数えたのかっ?」
「おーいっ、ここ鮭大根出てないぞ村田ぁ!」
「あーもうっ、せかすなよ! こんな大量に作ったことないんだから!」
「その花そっちじゃないって! こっち!」
「なぁ、写真の位置曲がってねぇ? もうちょっと右側下げろよ」
「いや、これ、花でそもそも見えないんじゃねぇか? やっぱりさぁ、肖像画のほうがよかったんじゃないかなぁ」

 わいわいがやがやとにぎやかな声が響く。何度となく訪れた水屋敷だが、この屋敷にこんなにも大勢の人が集うのを見るのは初めてだ。
 広大な敷地を誇るお館様のお屋敷ほどではないにせよ、山育ちの禰豆子からすれば、水屋敷だって呆気にとられるほど堂々たるお屋敷だ。だというのに、これほどまでに多くの人が動きまわっていると、なんだかやけに狭く感じてしまう。
 縁側に腰かけた禰豆子は、せわしなく動きまわる人たちをながめていた視線を、かたわらに座る兄に向けた。
「本当に手伝わなくていいのかなぁ」
「うーん、支度は任せておまえら遺族は上げ膳据え膳されてろって、くぎを刺されちゃったからなぁ」
 苦笑する炭治郎の顔に憂いはない。遺族という一言は、あまりにも自然で、禰豆子も小さく微笑んだ。ちらりと視線を落とせば、腕のなかですやすやと眠る赤ん坊の顔がある。
「この子たちがいるから助かるといえば助かるけど、なんにもしないのもかえって気疲れしちゃいそう」
 善逸さんは働かされてるのにと、禰豆子は肩をすくめた。
 先程まで一緒に赤ん坊をあやしてくれていた鱗滝も、子らが眠ったのを機に、祭壇の設営を手伝いに行ってしまった。炭治郎と自分だけがこんなふうにのほほんとしていて、本当にいいんだろうか。
 そんな禰豆子に炭治郎もちょっとだけ困ったように笑ったけれど、今日はおとなしく皆の好意にまかせるつもりのようだ。
「俺もちょっと落ち着かないや。でも、全部やらせてほしいって気持ちもわかるからなぁ。今日はお言葉に甘えよう。それにしても、この子らはこんなにうるさいのによく眠ってるな。将来大物になりそうだ!」
 こちらも腕に抱いている赤ん坊の寝顔をのぞきこみ言う炭治郎は、本当にうれしそうだ。
「勇治郎も炭義(すみよし)も、そろそろ起きると思うけど……泣かないでいてくれるかなぁ」
「ややが泣くのは当たり前! きっと誰も気にしないよ」
 それに、と続けた炭治郎は、義勇さんは二人が大きな声で泣くほうが喜ぶかもと笑った。
「抱っこしてるときに泣き出すとオロオロしてたけど、そうじゃないときはうれしそうだったもんね」
 思い出した在りし日の面影に、ふふっと禰豆子も笑う。こんな日に思い出すのが、情けなく眉を下げた困り顔だなんて申し訳ないような気もするが、あの人はけして怒りはしないだろう。
「この子らが大きな声で泣いてるのを聞くと、生きるぞ! って全身で主張してるみたいでうれしいって、義勇さん言ってたから。俺もそう思うよ」
 あまり泣かれても禰豆子と善逸は大変だろうけど。ちょっとだけ困ったように笑う炭治郎に首を振って答え、禰豆子はなんとはなし空を見上げた。
 広い庭を囲む生垣に張り巡らされたクジラ幕が、風にはためいている。裏手に広がる千年竹林の葉も風にゆれ、さわさわと静かにひびいていた。せわしなく立ち働く人たちのなかで、のんびりと縁側で日向ぼっこ。そんなちぐはぐな昼下がりに、炭治郎の恋しい人の葬儀は行われる。

「いい天気になってよかったね」
「うん、絶好のお葬式日和だ」

 兄妹並んで見上げた秋の空は、底抜けに青く、彼の人の瞳のように澄んでいた。