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本日はお日柄も良く、絶好のお葬式日和で

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 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 冨岡義勇死去の報が禰豆子と善逸のもとに届いたのは、十月半ばのこと。義勇がくれたでんでん太鼓で、双子をあやしてやっていたときだった。

 赤ん坊が生まれる少し前から、義勇の手土産は子供の玩具ばかりになった。流行はやりのセルロイド人形だのガラガラならまだしも、ゴムボールやらメンコ、飛行機玩具などは、赤ん坊には早すぎるだろう。それなのに、義勇は律儀に毎回子供の玩具を持参する。しかも必ず二人分だ。もうたくさんいただきましたからお土産なんて気にしないでいいんですよと、そのたび禰豆子は言うのだが、義勇はなかなか聞き入れてはくれない。
 二人で街を歩いていると、義勇さんはすぐに双子への玩具を買い込んでしまうんだ。そうぼやいて炭治郎は苦笑していたが、炭治郎にも止めるつもりがあるのだか疑わしいものだ。禰豆子と善逸が手にしていたでんでん太鼓も、義勇と炭治郎からの土産である。前日に外食に行ったおり、ちょっと見るだけと入った玩具屋で、小一時間も二人して吟味して買ったものらしい。
 禰豆子同様、質素倹約が身についた兄である。義勇の散財にもっと小言を言ってもいいようなものだが、甥っ子たちのこととなると日頃の節約もどこへやら、義勇のことをどうこう言えぬ程度には歯止めがかからなくなるようだ。
 炭治郎の鴉が飛び込んできたときにも、そんなあれこれをちょうど善逸と話していた。
 いつもは生意気なほどに口やかましい鴉が、常にはない静かな声で伝えてくれた訃報は、すぐには理解できなかった。だって、このでんでん太鼓をいつもの無表情で土産だと義勇がくれたのは、つい昨日のことなのだ。
 今朝がた義勇が亡くなった? なんのことだ? 言葉の意味がよくわからない。こんな穏やかな昼下がりに聞かされるには、あまりにも唐突すぎるその言を、禰豆子はうまく飲み込めなかった。
 いったいこの子はなにを言っているんだろう。ぽかんとして言葉もない禰豆子と善逸に、いつものように偉そうな文句を言うでもなく、鴉はお館様のもとへもお知らせに行くと口早に言い残し、飛び立った。
 先に我に返った善逸にせかされ、子を抱きかかえ二人で駆けつけた水屋敷で、炭治郎は褥(しとね)に横たわる義勇のかたわらに座ったまま、静かに微笑んでいた。

 突然だったよ。

 言った声もとても静かで、あぁ兄と義勇は、この日を覚悟したうえでともにいたのだものなと、禰豆子は静かに泣いた。享年二十四。刻々とその日が迫ることに禰豆子は内心ずっとおびえていたが、兄たちはいつ逢っても必ず笑顔を見せてくれた。
 早朝に倒れ込んで立ち上がれなくなった義勇は、それでも笑ったという。それじゃまたと笑ってくれて、それきりだったよと炭治郎は微笑む。
「約束してたんだ。最期の時には笑ってそれじゃあまたって言おうって。義勇さん、約束守ってくれたよ」
 そう言った顔は晴れやかですらあった。
 それでも兄は泣いたのだろう。義勇にそれじゃまたと笑い返し、その後できっと泣いた。身を引き絞られんばかりに。鴉を送り出すまでずっと、身も世もなく一人慟哭をあげ続けたのだろう。禰豆子たちに向かって笑う目に涙はなかったが、泣いた跡がありありとわかる顔と、枯れた声をしていた。
 泣きじゃくる善逸をなぐさめすらして、炭治郎は笑っていた。それから今まで、炭治郎はずっと笑っている。静かに、空元気でもなく幸せそうに、ずっと微笑んでいる。

 鴉から訃報を聞いた産屋敷家から、遣いがくるまでさほど時間はかからなかった。慌ててとんできた後藤に、お悔やみを言われたときにも、炭治郎の顔から笑みは消えなかった。葬儀の子細をたずねられ、にぎやかに送り出してあげたいと、うれしそうに笑っていた。

「一人でいることが多かったけど、義勇さん本当は人が楽しそうにしてるのが好きなんです。みんながにぎやかに笑ってくれてるほうが喜ぶはずだから」

 ニコニコと言った炭治郎も、さすがにこれほどまで人が集まるとは思ってもみなかったのだろう。続々とやってくる元鬼殺隊の面々には、見慣れた顔も見知らぬ顔も入り混じっている。交流下手な義勇の死を、ともに悼みたいという者がこれほどまでに多いことに、炭治郎は喜びつつも少々面食らったようだ。
 鬼殺隊が解散してからもう四年になろうかとしている。それぞれ新たな人生を歩んでいる鬼殺隊の面々が万障繰り合わせやってきたのは、通達を引き受けてくれた産屋敷家への義理などではないと、その顔を見れば容易に知れた。
 誰も彼も心から義勇の死を悼み、悲しんでいることは明白であった。同期だった村田などは、泣くのをこらえるあまりかなり変な顔をしていて、周囲の泣き笑いを誘っていたものだ。
 今年は例年になく残暑が厳しい。遺骸をそのままにはしておけず、埋葬だけは先に済ませたから、義勇本人はもう水屋敷にはいない。花であふれた祭壇に棺はなく、義勇はほかの鬼殺隊士たちと同じ墓所に眠っている。
 棺の代わりだろうか、祭壇には鬼殺隊が解散したおりにみんなで撮った写真が飾られていた。その小さな写真のなかの義勇は、穏やかにやさしく笑っていた。

 葬儀というよりも、もはや宴会の様相を呈してきたのは、率先して差配した宇髄ゆえだろう。地味に辛気臭い顔してんじゃねぇぞと、三人の嫁ともどもテキパキと指示を飛ばす様子は、なんだか楽しそうなほどだった。
 悲しみはあるだろう。忸怩たる思いもあっただろう。それでも、泣いて歳若な元同僚の死を悼むより、炭治郎の願いを優先してくれたのだということは、禰豆子にもわかった。
 産屋敷家からの通達を受け取ってすぐに、飛び出してきてくれたに違いない。息を切らせて駆けつけた宇髄は、お悔やみの言葉もそこそこに炭治郎の笑みをじっと見据えると、全部俺様にまかせとけとニヤリと笑った。
 そうして今、水屋敷はかつてないほどのにぎやかさに満ちている。雲一つない秋晴れの空の下、いっちょ派手に送り出してやろうじゃねぇかと笑う声が快活にひびいた。

 いいようにこき使われて泣き言三昧な善逸や、手伝いよりも盗み食いに精を出す伊之助に苦笑しているうちに、不死川に伴われた輝利哉たちもやってきて、葬儀という名の宴会の準備はどうにか整ったらしい。
 始めるぞとの宇髄の声に、喪主挨拶しろ、乾杯の音頭取れと、あちらこちらから声が上がる。疲れきった顔でよろよろとやってきた善逸に、腕のなかの赤子を起こさぬように預けると、炭治郎は立ち上がりみんなの前に進み出た。

「えーっと、本日はお日柄も良く絶好のお葬式日和で」
「葬式なのにお日柄良くていいのかよ……」

 ちょっとあきれたように言う善逸の声は、宇髄や伊之助の「堅苦しい挨拶はいらねーっ!」とのヤジにかき消され、炭治郎は苦笑しながら手にした盃を高くかかげた。
「義勇さんの旅路の無事を祈って! 乾杯!」
 乾杯との大合唱とともにかかげられる盃。禰豆子もかたわらの善逸と、かちりと盃をあわせ乾杯と小さく微笑んだ。
「こんな葬式、鬼殺隊じゃなきゃ絶対に無理だよなぁ」
「常識外れもいいとこだよね」
 クスクス笑いながら言えば、善逸も眉を下げつつも笑う。それでも、みんなに囲まれ顔をほころばせている炭治郎を見やる視線は、少し気遣わしげだ。