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自分らしく
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彼方から 第四部 第五話

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 ――『あの』罅割れが出来ている

 いつの頃からあったのかは、覚えていない。
 だが、『子供』のころから両腕にあった鱗のような罅割れが、今度は背中に、出来ていた……

 ――一体……
 ――どうなっているんだ
 ――おれの体は

 眉根を寄せ、己の背を見やる。
 昨夜の、祭の催し物での出来事が、脳裏を過る。
 不意に背なに奔った、あの一瞬の『痛み』……とても、無関係とは思えない――

「………………」

 腕を、じっと見詰める。

 ――あの時……

 三ヶ月前の『あの日』が、蘇る。

 ――ノリコが駆け寄ってきて
 ――おれに抱きついた、あの時……

 奪われたノリコを取り戻す為、
 彼女を生贄として化け物に捧げる為に、その命を奪おうとする連中から奪い返す為……
 自ら【天上鬼】の力を解き放ったあの日。

 ――【天上鬼】となりかけていた、おれの体は
 ――もとの人の姿に戻ったどころか
 ――それまで
 ――ずっと付き纏っていた腕の罅割れまで
 ――消えてなくなっていた
 
 自我を失いかけていたあの状況の中、唯一人、ノリコだけが――
 彼女の存在だけが、『我』を取り戻す切っ掛けと、なってくれた……

 綺麗な、何の痕も残っていない己の腕。
 あの日の出来事が、そして、今、この背にある罅割れが、何を意味しているのか――――
 ただただに、思案に暮れる。
 
 ――『心』……だろうか

 不意に湧く、想い。

 ――何か
 ――おれの『心』に関係があるんだろうか
 
 それは『確信』に近く、だが……取り留めのない想い。
 ……故に――

 ――…………だとしても
 ――何をどうしていいのか

 ――分からん

 イザーク自身の考えだけでは、結論に至ることは出来なかった。

 床に落とした上衣を手に取る。
 踵を返しながら袖を通し、隣の寝所へと爪先を向ける。
 先刻よりも、少し明るさの増した寝室のベッドで、健やかな寝顔を浮かべる彼女の傍らへと、歩み寄る。

 ――強く、なりたい…………

 純粋に、心の奥底から抱く、願望。
 サイドテーブルに乗せた掌に、無意識に力が籠る。

 ――おれが
 ――こんな頼りない思いでいては
 ――彼女を守れない

 ノリコを、愛する唯一人の女性として、想うが故に……

 ――強くなりたい

 願わずにはいられない。

 ――何事にも揺るがない
 ――強い心が、欲しい

 思い悩むほどに強く欲し、求めずにはいられない……
 ……ゼーナの屋敷で交わした、バーナダムとの約束が――あの時の彼の瞳に宿った強い光が、脳裏に蘇る。

 ――あいつなら、きっと……
 ――余計なことを考えたり、悩んだりなどせずに

 ――只管にノリコを守ることだけを、思うのだろうな……

 単純で……いや、自分の想いに正直で真っ直ぐな、そして、『血気盛ん』な彼の性格が、少し羨ましく思える。
 規則正しく安らかな、ノリコの寝息。
 安堵しきったその寝顔を、いつまでも……守ってやりたい。
 …………この、腕で――――


     ( にへ〜〜〜 )


 ……唐突に……
 とても嬉しそうで、そしてとてもだらしない笑顔が浮かぶ。
「…………」
 普段、見せたことのない彼女の『笑顔』に、今の今まで悩み、思い詰めていたことも忘れ思わず…………見入ってしまっていた。
 
          ***

「……うーーーん……」

 目覚めたばかりの、緩慢とした動き……
 ノリコは無意識に手を額に添えながら――
「あ――イザーク……」
 瞼を開き、最初に瞳が映し込んだ彼の人の名を、口にしていた。

     クス クス……

 直ぐに――
 笑い声が零れる。
「あのね、今、夢みてたの」
 瞳を、少し見開いて……
 見詰めてくるイザークに笑った理由を言いながら、とても可笑しそうに、そして、とても楽しそうに……
 ノリコは今、見ていたというその『夢』の話を、ベッドに横たわったまま話し始めていた。

「バラゴさんが出て来てね、あたしに就職、紹介してあげようとか言うのね」

 彼女の、『夢』の話に耳を傾ける。

「いいって言ったら、バラゴさんが何人にも増殖して、周り、囲まれちゃうの」

 この花の町で、彼女を無理に連れて行こうとした、あの『口入れ屋』の男のことが、元になっているのだろう……
 知っている人間が出てくるところなどは、やはり、『夢』ならではと言っていいのかもしれない。

「ふと見たら、カルコの町で見た、出っ歯の兵隊さんに変わってるのね」

 話の展開が支離滅裂な所も……

「そしたらね、イザークが出てきて『これはおれのだから』とか言って、あたしを抱きかかえて連れ出してくれたの」

 自分に都合良く、話が進むところも……

「まわりで、この町の女の子達が『いいなー、いいなー』って騒いでいてね……変な夢でしょ」
 
 少し、『願望』のようなものが入っているのも……
 楽しそうな『夢』であるところなど、如何にもノリコらしい――そう思える。

 『運命』を変える為、二人で始めた逃避行。
 この三ヶ月……
 彼女はいつも笑顔で、いつも、楽しそうで……
 いつも、ありふれた何気ない日常を、与えてくれる。
 『一人』では知ることの出来ない『二人』での日々。
 それを与えてくれるノリコは己にとって、何者も代わることなどできない存在……

 ――ノリコ……

 彼女の『笑み』に、愛しさが募る。
 顔を寄せ、額にそっと、唇で触れる――
 少し……
 はにかんだ笑みを見せるノリコ……
 もう一度顔を寄せ、優しく――

「おはよう――」

 イザークは彼女と唇を、重ね合わせていた……



     彼方から 第四部 第五話 終わり

           第四部 第六話に続く