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やきもちとヒーローがいっぱい

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 憎々しげな視線を向けられた義勇はといえば、そんなものまったく気にかけていないように見えた。黙ったまま義勇が竹刀の袋を肩に担いだと同時に、少年の仲間が脱兎のごとく逃げだしたのにも、関心を向ける素振りすらない。

「あーあ、お仲間は派手に逃げちまったぜ? てめぇはどうすんだ?」
「……うるせぇ! 関係ねぇやつが口出しすんじゃねぇよ! 冨岡ぁ! てめぇ生意気なんだよ! ちょっと面がいいぐらいでチヤホヤされていい気になって、偉そうに俺に説教なんかしやがって! 親なしのくせに……みなしごならみなしごらしく、惨めったらしくしてろってんだ!」

 小馬鹿にした言葉に怒鳴り返した少年の吠えるような怒鳴り声と、憎しみに歪んだ顔は、醜悪そのものだ。その憎しみは、一心に義勇に向けられている。
 なんでそんなに義勇さんのことを目の敵にするんだと、炭治郎の胸にもまた怒りが湧いた。

「義勇は格好いいだけじゃなくて頭もいいもん! 前の学校じゃ、ずっと学年十位内だったんだから!」
「剣道だって大会じゃほとんど優勝だったぞ! 走るのだって早いし、おまえなんかよりずっと凄いんだからな!」
 真菰や錆兎が胸を張って言うと、少年の顔がますます歪む。
 義勇さんはやっぱり凄いんだなぁと炭治郎は素直に尊敬を深めたが、少年が抱いた感想は、炭治郎とは真逆らしかった。
「だからなんだってんだよ、このクソガキが! そいつはみなしごなんだぞ! いくら勉強や運動ができたって無駄なんだよ! しょせんは親もいない惨めなみなしご野郎じゃねぇか! なのに先公もクラスのやつらも、冨岡くん冨岡くんってうるせぇんだよっ!! でも、もうそれもおしまいだけどなぁ。姉貴が死んで頭も狂っちまってよ。もう誰もてめぇをチヤホヤなんてしねぇよ、気狂い野郎がざまぁみろ!!」
 ゲラゲラと嗤いだした少年の言葉が信じられず、炭治郎は、大きく目を見開いた。

 なんで……なんでそんなひどいこと言うんだ。なんでそんなことが言えるんだ。父さんや母さんがいないのは義勇さんのせいじゃないのに。大好きなお姉さんが死んじゃって、義勇さんがどれだけ悲しかったか、ちっとも知らないくせに!

 こんなひどいことを言う人がいるだなんて、信じられない。今まさに目の前にいてさえも、信じたくもない。グラグラと頭のなかが煮え立つようで、体が勝手に震えだす。こんなに怒ったのは生まれて初めてで、炭治郎は耳の奥がガンガンとしてきた。
 けれど、怒鳴りたくても声が出ない。あんまり怒りが大きすぎると、言葉も出なくなるのだと、炭治郎は初めて知った。

「なーんだ、ただの嫉妬かよ。くだらねぇ」
「まったくだ! 冨岡に嫉妬して攻撃したところで、君が冨岡より優れたことになるわけではないのがわからないのか? 自分の力が劣っているならば、努力すればいいだけのことだろう。冨岡自身ではどうにもできないことでしか自分を誇れないとは、惨めなのは君のほうではないのか?」