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ワクワクドキドキときどきプンプン 一日目

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 ビックリ顔の炭治郎に義勇はうなずいているが、おそらく竈門少年が想像しているものと冨岡が言いたいことには、かなり差があるだろうなと、煉獄は思わず笑った。
「実際にやってみせたほうがわかりやすいだろう!」
 言いながら煉獄は立ち上がった。
「おぉ! キャスターもついているのか。これならぶつかり稽古もできそうだな! いい出来だ、鱗滝殿は器用だな!」
 歩み寄ってまじまじと検分した人形を、カラカラと音立てて炭治郎たちの元へと運ぶ。ストッパーがしっかりかかったのを確かめ、煉獄は、炭治郎たちへと向き直った。
「竈門少年、今、人形の腕は上を向いているだろう? これが上段の構えだ。冨岡、まずは胴からでいいだろう?」
 わずかに眉を寄せている義勇に笑いかけ、煉獄は、ほら、とうなずいてみせた。
 炭治郎にきらきらと期待のこもった眼差しで見られては、断りづらかったのだろう。義勇が少しばかり戸惑いを見せつつも、打ち込み台に向かって立った。人形に向かい礼をすると、ゆっくりと中段の構えを取る。
 息を吸い、深く静かに吐く。ぶれぬ剣先。晴眼の構えに力みはない。凛と伸びた背中。その佇まいは凪いだ水面のように静かで、けれど、細い体躯からじわりと立ち上ってくる闘気が見えるようだ。
 そんな義勇の姿を、煉獄は惚れぼれと見つめる。竹刀を構える義勇は、どれだけ細く頼りない肢体であっても、勇ましく凛として、美しい。

 不意に、大音声が静寂を切り裂いた。刹那、義勇の体がかすかに沈み、竹刀が素早く振りかぶられる。同時に、義勇が跳ぶように大きく踏み込んだ。

 パァンッと、道場を震わせるようにひびいた踏み込みの足音。気勢のこもった「胴!」の声は同時。振りかぶられていた竹刀は、流れる水のようになめらかに素早く斜めの軌道を描き、疾風迅雷の鋭さで打ち込み人形の胴をとらえた。
 瞬間、道場にひびき渡った高く乾いた打突音とともに、義勇の体躯が人形の右脇をすり抜け、静かに止まる。

 それはまばたきする間も惜しい素早さでの一撃。空気を震わせた音たちの余韻が消え、静寂が満ちた。

 ああ、なんて流麗な飛び込み胴だろう。剣撃は鋭く苛烈でありながら、剣の軌道と体捌きのなめらかさは優美とすら思える。
 同年代の少年の剣を、美しいと思ったのは初めてだ。

「……美しいな。そう思わないか? 竈門少年」
 義勇は人形の背面で向き直り、構えを取っている。残心の姿にも隙がなく、みなぎる覇気が目に見えるようだ。
 炭治郎は声もなく、うんうんと強くうなずいている。大きく見開かれた赫い瞳は、輝きながら一心に義勇を見つめていた。まろい頬が興奮に赤く染まっているのが愛らしい。
「剣道は音も大事だ。発声と踏み込んだときの足音。これらは試合や昇段試験では大事な武器になる。今の冨岡のように、両方そろって大きな音を出せる者は、俺たちぐらいの歳ではあまりいない」
「そうなんですか?」
 うなずきで答え、煉獄は、炭治郎の腹に手を当てた。
「臍下丹田(せいかたんでん)、ここに力を入れて腹の底から声を出す。気合のこもった掛け声で相手を威圧する。打突の際に打突部位を呼称するが、その声も、先ほどの冨岡のように気勢が充実していなければならない。踏み込みで大きな音が出るのは、腰の入った打突だからだ。剣道の基本だが、修練が足りない者はどうしても腕の力だけで振りがちになるから、ああはいかない。飛び込み胴は有効打突になりにくいから、試合では滅多に見かけない技だが……冨岡の飛び込み胴はまるでお手本のようだった。いいものを見せてもらったな!」
 あの鋭さなら確実に一本だと教えてやれば、炭治郎の瞳が、ますます義勇への尊敬と憧憬に輝いた。それを微笑み見ていた煉獄が視線を感じて顔を上げると、構えを解いた義勇がじっとこちらを見つめている。
 思わず煉獄はくくっと喉の奥で笑った。
「義勇さん格好良かったです! すっごくすっごくきれいで格好いいです!」
 視線に気づいた炭治郎がはしゃぐ声で告げた、嘘偽りのない素直な称賛に、義勇がほんの少し顔を逸らせた。顔こそ無表情のままだが、きっと照れているのだろう。煉獄はそれを感慨深く見つめた。
 ほんの少し前までの義勇は感情を失っていたらしいと宇髄から聞いたのは、義勇の剣を初めて見た翌日のこと。たしかに、それまで教室で見てきた義勇と目の前の義勇では、まるで違う。
 初めて教室で逢った義勇は、まるで秀麗な姿をした動く人形のようだった。血も肉もない、きれいなだけの人形だ。
 だが今の義勇はどうだ。その顔には、かすかにではあってもちゃんと感情が見える。まぁ、かすかすぎてわかりにくいことに変わりはないが、それでも、人形ではなく血の通った人の姿をしているではないか。

 そして、そんな義勇の変化は、炭治郎との出逢いがもたらしたものなのだ。

「冨岡、やきもちを妬く必要はないぞ! ご覧の通り、竈門少年は君しか目に入っていないようだからな!」
 からかうように言えば、炭治郎がぱちくりと目をしばたたかせた。煉獄の言葉の意味を悟ったか、照れて淡く染まった顔をしてもじもじと、でもうれしそうに義勇を見た。

 やきもちは、好きだから。独り占めしたくてやきもちを妬く。

 そう炭治郎に教えたのは義勇だ。義勇が煉獄にやきもちを妬いたのなら、それはつまり義勇が炭治郎のことを好きだから。炭治郎を独り占めしたいから。

 互いの好意に照れ合っている姿は、言葉はなくとも、大好き、うれしいと、言い合っているように見える。
 よもや恋愛感情というわけではないのだろうが、なんともこそばゆい二人だな、と、煉獄はつい苦笑してしまった。
 不快感はまるでない。この二人は見ているだけで微笑ましく、煉獄の心を浮きだたせる。
 照れ合う二人に苦笑したまま、煉獄はふたたび打ち込み人形に近づくと、背面のストッパーを動かし人形の腕を中段に据えた。
「竈門少年、この打ち込み人形はこんなふうに腕を動かして使うんだ。相手の構えに合わせて打ち込む稽古をするために、腕を動かせるようになっている。人形自体が動き出すわけじゃないぞ!」
 煉獄が言えば、炭治郎はきょとんとしたあとで、あははと笑って頭を掻いた。
「その人形が勝手に動いて練習相手をしてくれるのかと思っちゃいました」
 炭治郎の言葉に義勇が小首をかしげている。さっきそう言っただろうと言いたげなその様子に、煉獄は思わず噴き出した。
「冨岡は言葉が足りんな!」
 大きな声で笑う煉獄に、義勇が心外と言わんばかりの顔をしたのを見て、炭治郎も笑った。義勇が感情を表すのがうれしくてたまらないのだろう。煉獄もうれしくなるが、機嫌を損ねてこれで終わられても困る。炭治郎も義勇の剣をもっと見たいだろう。煉獄だって見たい。
「さて竈門少年、剣道の有効打突は、胴だけではない。面、小手、突きもある。中学生の試合では突きは禁止なのだが、先日の冨岡の突きをまた見たくはないか? 面や小手もしっかりと決まった一本は美しいぞ! 冨岡ならどれもお手本になると思うが……どうだ、見たくはないか?」
「見たいです! 義勇さん、俺、突きも見てみたいです!! えっと、面と小手も!」
「だ、そうだぞ? 冨岡」