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ワクワクドキドキときどきプンプン 一日目

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 けどまぁ、と宇髄は思う。先日の出来事に対して不穏な懸念はあるにせよ、ひとまずはこの穏やかさを楽しんでもいいだろう。楽しむときには全力で楽しまなければもったいない。
 大きすぎる体躯を窮屈に縮こまらせて助手席に収まりながら、ワイワイと騒がしい子供たちの笑い声に、知らず微笑んでいた宇髄だった。

          ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 道場に布団を運び入れた一同を迎えたのは、大興奮の炭治郎の声だ。
「本当に凄かったんだ! 義勇さんがシュッてしたらパーンってなってビリビリッてして! すっごくすっごっく格好良かった!!」
「うん、全然わからん。おまえ派手に説明下手すぎだろ」
 呆気にとられる宇髄に煉獄が大きな声で笑う。どうやら義勇の一人稽古を見ていたらしいが、炭治郎の説明ではなにがなにやらさっぱりだ。
 しかしまぁ、煉獄もかなり上機嫌なところを見ると、義勇の剣技はやはり並々ならぬものなんだろう。先の一件でも、剣道などさっぱりわからない宇髄でさえ、容易にその片鱗は窺い知れた。
「面にしろ小手にしろ、まるでお手本のように洗練された剣捌きだったぞ! 見事の一言だった! とくに胴は美しかったな。胴打ちは苦手な者が多いが、冨岡の得意技はもしかして胴か?」
「義勇は返し銅も引き胴もきれいに決めるぞ。面打ちしてきたところを抜き胴で決めることも多いな」
 煉獄の問いに答えたのは義勇ではなく錆兎だ。自慢げな声に宇髄は思わず苦笑する。
「ほほう、それは凄いな! それで一本取れる者は高校生でもそうそういないのに、さすがだな。相当な修練を積んだんだろう!」
 煉獄の称賛に、どこか居心地悪げな義勇が、道場の真ん中に据えられた打ち込み台を見た。
「……ムザンくん相手だと、いくら打ち込んでも足りない気がするから」
「は? ムザンくん? なんだそりゃ」
 思わず訊き返した宇髄が打ち込み台を指差し、もしかしてあれの名前かとさらに聞けば、錆兎と真菰がそろって深くうなずいた。
「爺ちゃんが作ってくれたんだが、名前を付けようってなったとき、なんとなくムザンって名前が浮かんだんだ。ムザンくんで稽古すると気合の入り方が違う。なにがなんでも負けるものかって気になる」
「もう限界って思ってもね、倒すまでは絶対にやめないって思っちゃうの。鱗滝さんも、ムザンくんの名前つけてから打ち込みの回数が増えてたよ」
「先生と俺で一回ずつ壊した。あれは三代目ムザンくんだ」
「……名前の通り派手に無惨な目にあってんのな、ムザンくん……」
 うんうんとうなずきあう三人に、宇髄は呆れてげんなりとしたが、じっと打ち込み台を見ていた煉獄の感想は異なるらしく、錆兎たち同様に強くうなずいている。
「なるほど。不思議だが俺もその名を聞くと、壊すまで打ち込んでやるという気になってくるな。よし! うちの道場の打ち込み台もこれからはムザンくんと呼ぶことにしよう!」
「……俺も、名前を聞いたらなんだか頭突きしたくなってきました」
「禰豆子も……ムザンくん、なんか嫌」

 いやいや、名前一つでそんな大袈裟な。と、思いはするのだが。

「……ヤベェ、なんでだ? 俺もムカつくわ……派手に投げ飛ばしてぇ」
 うん、なんか駄目だ。すげぇな、ムザンくん。名前一つで滅茶苦茶腹立つわ。

 一同からジトッと睨まれた三代目ムザンくんは、窓から差し込む初夏の日差しのなか、ただ静かに立っていた。