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ワクワクドキドキときどきプンプン 一日目

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4:錆兎



 布団を道場の隅に置いて着替えを済ませれば、いつもの休日通り、稽古にいそしむ。入念な準備運動には炭治郎たちも加わった。そのあとは、素振りを中心にした稽古だ。
 煉獄も一緒に輪になっての素振りは、知らず識らずのうちにいつになく熱が入った。カメラを回す宇髄の隣で炭治郎と禰豆子は、凄い、格好いいと、そりゃあもう大興奮だ。それこそ、錆兎や真菰までもがつい照れてしまうほどに。お陰で一足先に家へと戻った鱗滝には、午後からは集中するようにと呆れられたけれども、それはともあれ。
 素振りと一口に言っても種類は様々あるし、早素振りはそれなりに迫力もあるから、初めて見る炭治郎たちも楽しかったことだろう。実際、義勇の素振りは素人目にもきれいなはずだ。それでなくても炭治郎は、義勇がなにをしても凄いと興奮するのかもしれないけれども。
 クスっと笑った錆兎は、自分の隣で道着をはだけて汗を拭く煉獄を、目線だけで見上げた。

 中学生とは思えないほど体格がいい宇髄の隣にいると、細く小さく見えがちだが、煉獄も上背があり平均身長は超えている。きっと百七十センチはあるだろう。筋肉も無駄なく綺麗についていて、まだ少年らしさは残るが十分に見惚れる体躯だ。
 義勇とはタイプが違うが、こいつの素振りもきれいだったもんなと、錆兎は素直に感心する。
 煉獄の素振りも、振り下ろした剣先がとにかくぶれない。振り下ろす軌道はまっすぐだ。腕の力だけで竹刀を振るとこうはいかない。きちんと腰が入っている証拠だ。
 手で打つな足で打て。足で打つな腰で打て。稽古中しばしば鱗滝から言われる言葉だが、まだ体力筋力ともに乏しい錆兎や真菰は、稽古も終盤となると、どうしても腕だけで竹刀を振ってしまいがちだ。竹刀の重みに頼ってしまう。
 義勇も最初は錆兎たちと変わらなかったが、あっという間に錆兎や真菰を追い越してしまった。中学生と幼稚園児ではしかたないが、やっぱり少し悔しかった。でもそれ以上に誇らしかったのも事実だ。
 どうだ、俺の弟弟子は凄いだろう。義勇の剣は誰よりもきれいだろう。大会で義勇の試合を見るたびに、真菰と一緒に興奮したものだ。
 今の義勇は、あのころにくらべれば、やっぱりスタミナ不足が否めない。食事はとれるようになったものの、以前よりずっと少食になってしまったから、どうしても体力が追いつかないようだった。眠りだってまだまだ浅い。

 もっと食ってくれるといいんだけどな。せめてちゃんと茶碗一杯分。

 今の義勇は茶碗半分ほどを完食できればいいほうだ。大好物の鮭大根でさえなかなか箸が進まない。
 宇髄ほど大柄にとは言わないまでも、煉獄ぐらいには義勇も大きくなるだろうと、錆兎は思っていた。けれども姉の事故以来、義勇の成長はピタリと止まってしまったようにも見える。
 きちんと食事をしきちんと眠る生活に戻れば、ちゃんとまた成長するはずだ。心配するな。鱗滝はそう言うが、同じ中三の煉獄や宇髄と並んだ姿を見てしまうと、やっぱり不安になってしまう。

 でも今日は炭治郎が一緒だ。もしかしたら義勇もいつもより食べてくれるかもしれない。

 なにしろ炭治郎は、錆兎たちがいなくても義勇にパンを食べさせることに成功している。義勇を気遣う錆兎たち三人の前でなければ、義勇は自らなにかを口にすることなどなかったのに、だ。
 初めて炭治郎と禰豆子に逢った翌日にも、義勇はめずらしくお土産のパンを二つも食べた。びっくりした錆兎たちに、「炭治郎においしかったって言ってやりたいから」とぽつり言った義勇は、やっぱりまだ無表情だ。けれどまとう雰囲気が、以前の義勇と同じくやわらかでやさしかった。
 それが錆兎たちにとってどんなにうれしかったか、きっと炭治郎にもわかるまい。クロワッサンを噛みしめる義勇に鱗滝が涙ぐむ横で、錆兎たちも泣きたかった。
 もっと食べて。もっともっと元気になって。そして、以前のように笑ってほしい。そう思ってつい、もっと食べろとせがんでしまいそうになったけれど、義勇はあまり食べると体調を崩してしまう。どうしても身体が受けつけないのだ。
 心配する錆兎たちに、義勇はそのたび申し訳なさそうにするから、無理は言えない。でも、今日は少しだけ期待してしまう。
 宇髄が言い出したことではあるけれど、今回のことはいい機会になるんじゃないかと、真菰と一緒に考えたのだ。炭治郎が一緒に泊まるなら、義勇ももう少し、食べたり眠ったりすることに意欲的になってくれるんじゃないかと期待した。

 煉獄まで加わったのはちょっとだけ不安ではあるけれど、一緒に稽古するのはいい経験になりそうなので、良しとする。
 義勇の稽古相手をするには、残念ながら錆兎や真菰では小さすぎる。義勇がちゃんと稽古できるようになったら、煉獄と稽古できるのは義勇にとってもいい経験になるはずだ。

 宇髄が撮った動画を覗き込みながら、キャッキャと楽しげに笑っている炭治郎と禰豆子を、錆兎はちらりと見やる。せがまれて説明する真菰に感心の声を上げながら、炭治郎は何度も義勇へと顔を向けては、義勇さんは凄いと繰り返していた。義勇の顔はいつも通りなんの感情も浮かべていないように見えるけれど、錆兎の目には、照れてちょっぴり戸惑っているのが丸わかりだ。
 思わずクスリと笑えば、いつの間にか近寄ってきていた宇髄が、唐突に錆兎の頭をぐりぐりと撫でた。
「お前は混ざらねぇのかよ」
「真菰のほうが説明が上手だ」
 ウザいと手を除けた錆兎は、ふむ、と腕を組んで宇髄をつくづくと眺めまわした。
「……天元はなにを食ってそんなに大きくなったんだ?」
 中学三年生の平均身長など優に超えて、明らかに百九十センチはありそうな宇髄は、身長に見合う筋肉もしっかりとついているのが、緩めの服装の上からでもよくわかる。とても中学生には見えない見事な体格だ。
「なんだよ、チビなこと気にしてんのか?」
「俺はまだ小学一年だぞ。背が小さいのは当たり前だ。それにちゃんと平均身長はある!」
 ニヤニヤと笑われて少しだけムキになってしまったけれど、錆兎は自分の身長についてはあまり心配していない。祖父の鱗滝だって同年代のなかでは高身長だ。叔父である真菰の父も上背があるから、血筋でいけば錆兎だってそれなりに高身長となるはずである。

 だから心配なんてしない。本当に。気にしてないったらない。男ならば、そんなささいなことでくよくよ悩んではいけないのだ。

「俺より義勇のほうが心配だ。まだあまり食えないし、夜もよく眠れないことがまだまだ多いんだ……もしかしたら、このまま成長が止まったままかもしれない……」
 言葉にはせずにいた心配が、なぜだかスルリと口をついた。なんでこんなことをと内心で錆兎は少しあわてた。
 そんな錆兎の焦りと混乱に気づいているのかいないのか、顎に手を当てじっと義勇を見つめていた宇髄が、義勇に近づいていった。やおら義勇をひょいと持ち上げるように立たせると、宇髄はペタペタと義勇の身体を触り始めた。
「────っ!?」
 言葉もなく義勇がカチンと硬直する。瑠璃の瞳が驚愕で真ん丸に見開かれていた。炭治郎と禰豆子も、真菰でさえも、驚きにぽかんと口を開けている。錆兎だってフリーズ状態だ。