想い、届く。
突かれれば突かれるほど、官能の波が押し寄せてくる。
ぶわ、と全身に快感の熱が巡り、腹が微かに痙攣した。
「ああっ、…う、…ッ」
「…杏寿郎、腰が動いているぞ。……いま、どんな顔をしている?」
「だ、ダメだっ…」
前触れなく強引に身体をぐるりと反転させられ、仰向けになってしまう。
愉悦と羞恥による生理的な涙の膜が張る目元を慌てて隠し、彼から顔を背けた。
「き、杏寿郎…手をどけろ!顔を見せろ!」
「絶対に嫌だっ」
拒絶も虚しく手首を掴まれ、剥ぎ取られてしまう。
嫌だと言ったのに、と相手を睨みつけるが、返ってきたのはごくりと生唾を飲み下す音。
「ああ……お前は最高だ。本当に美しい…」
「っん…あ、今は……やめっ、」
ぐいと膝裏を持ち上げられ、勢いよく腰を打ちつけられる。
ごりごりと奥を擦られると、いつの間にか勃ち上がっていた雄から歓喜の雫が滲み出てくる。
見かねた猗窩座がそれを捉え、腰を休めることなく扱き上げてくる。
「杏寿郎……杏寿郎、杏寿郎…!」
「ッ、……あ、猗窩座っ…もう…っ」
激しく奥を嬲られ、限界まで追い上げられた雄が果てる寸前。
腕を思いきり伸ばして猗窩座の首を抱き寄せ、肩口に顔を埋めて白濁を放った。
その瞬間息を詰めた猗窩座も、それから少し遅れて雄を後腔から抜きこちらの腹に欲をぶちまけた。
獣じみた二人分の荒々しい息遣いが部屋を満たす。
「……なんだ、最後の馬鹿力は…。魔羅がちぎり取られるのかと思ったぞ…。首は折れるところだった…」
「…それは……すまない」
呆然としたまま、猗窩座の抗議に謝罪を返す。
射精後の余韻に脱力していると、むくりと桃色の頭が起き上がった。
「よし。もう一度だ」
「……」
完全に体力を回復したらしい鬼は、爽やかに笑ってこちらの逸物に手を伸ばしてくる。
一瞬事態についていけず思考が停止したが、がっしとその手を掴み捻りあげた。
「馬鹿なのか!君は!」
「…たった一度で音をあげるのか!?…というか、イったばかりだというのになんという力だ…!」
「い、一度すれば十分だろう!体力無尽蔵の君と同じにするな!」
「人間も何度も続けてするだろう!」
「それは人同士の話だ!鬼である君との一回は、人同士の十回分と思え!」
「そっ、…え?……どういうことだ?」
ようやく落ち着いた相手の手を解放してやる。
ふー、と呼吸を整え、煉獄は座り直した。
「ろくに身体を鍛えていない者が君のひと突きを受けてみろ。脳震盪を起こし、最悪死ぬ」
「はっ、そんな馬鹿なことあるわけないだろう」
「走る列車を腹で止めるのと同等だぞ。腹の中は秒単位で交通事故だ」
「……本気で言っているのか?」
「無論だ。今の俺は満身創痍だと思ってくれ」
さすがに走る列車は大袈裟な喩えだったかもしれないが、駆け込んでくる馬くらいの威力はある。というかその認識を持ってほしい。
猗窩座は神妙な表情で逡巡してからそそくさと居住まいを正し、すみませんでしたと静かに頭を下げた。
うむ、とひとつ頷き、煉獄は手拭いで適当に身体を拭って衣類を身につける。
「さて、銭湯にでも行かないか。汗を流したい」
「なっ……その肉体を他の男どもの眼前に晒すというのかっ?」
「言い方に難はあるが、間違いではない。君が行かないなら俺は一人で行くが?」
「い、行く!行くから待てっ」
てきぱきと支度を整えて廊下に出ようとするこちらを、穿きものに片足を突っ込みながら猗窩座が慌てて制止してきた。
「雨はどうだろうな。君、傘は?」
「匂いがしないから降っていないだろう」
「そこは匂いより音に頼るものではないのか?」
襖を開けて待っていると、服を着るなりせっせと律儀に乱れた布団を整える姿が意外で、関心しつつ眺める。
取り戻した記憶と共に几帳面な性格になったのだろうか。
「風呂のあとは何か腹に入れたいところだな」
「俺がここに来るときに、宿の前に焼き芋屋が出ていたぞ」
「なに!好物だ!」
他愛無い会話をしながら、二人連れ立って一度宿を出る。
煉獄の尻への激痛、そして腰の鈍痛が出現するのは、その翌朝のことだったとか…
fin.