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天下分け目の大戦。
関ヶ原の戦いは、開戦前に張り巡らされた伏線により、呆気ないほど早く収束した。

その間、柳生宗矩は主たる徳川秀忠率いる大軍と共に、上田城の攻略にあたっていた。

真田を降してから関ヶ原の本隊に合流する。
言うのは簡単だが、相手はあの戦上手の真田。
片手間に終わらせられるほど甘いはずがないとわかっていながら、宗矩は苛立ちを隠せない様子の主にあえて注進することはなかった。
理由などというものは、漠然としていて自分自身定かではなくて。

このあと、東軍が勝利したとの報を聞いて、痛いほど思い知ることになる。


「…間に合わなかった……ち、父上になんと申し開きをすれば…」

「…秀忠様。撤退の下知を。本戦の勝敗が決まった以上、ここで犠牲を増やすわけには参りませぬ」

「あ、ああ…。てっ、撤退せよ!東軍は勝利した!撤退じゃ!」


青ざめる秀忠に号令を促し、法螺貝が吹き鳴らされると同時に宗矩は己の馬を引かせた。


「拙者も秀忠様の御為、手柄を上げて参りまする」

「い、今からか…?もう終わっているのであろう?」

「本隊が討ち漏らした将を拙者が討てば、秀忠様の咎も幾分かは」

「な、なるほど!頼んだぞ宗矩!」


早口に思いつきの言を述べると、勢いに乗せられたのか秀忠も小刻みに首肯し同じく早口に返してきたので、次の言葉が飛んでくる前にと宗矩は鞍に足を掛けて馬の腹を蹴った。

馬を駆る宗矩の脳裏には、ひとりの男の姿があった。
時勢を読む炯眼と、劣勢をも覆す頭と、鬼と恐れられる腕っぷしを持った男の姿が。

石田三成の軍師、島左近。

彼の首は、まだ見つかっていないらしい。
しかし、三成を逃すため殿を務め、砲撃の雨の中討ち死したという早馬の情報はある。
それを頼りに家康はすぐに大規模な捜索隊を送り今もなお継続しているという。

生きているとは思えない。
が、死んでいないような気もしていて。


「……」


こうなるのが嫌だったから……面倒だったから、信州くんだりの上田への寄り道に付き合ったというのに。
死ぬなら死ぬで、こちらの与り知らぬところで疑う余地なく綺麗に死んで欲しかった。
生きているかどうかの曖昧な情報で、自分が少なからず揺らぐことは想像がついていたから。
同じ戦場で振り回されるよりは、離れたところで結果だけ知りたかった。
だから秀忠の真田攻めに随行したのだ。

討ち死したというなら首を上げてからにしろ、と報を寄越した者に理不尽な怒りを覚える。


「…やれやれ、遠いなァ。……関ヶ原」


馬をかの激戦地にひたすら走らせながら、途方に暮れたように嘆息混じりに呟いた。


+++


合戦から既に四日ほど経過しているにも関わらず、そこには濃い硝煙と血の匂いが沈澱していて。
戦に関わらなかった全ての者を拒んでいるかのように、重く静まり返っていた。

折り重なって事切れている数えきれないほどの亡骸がそこかしこに放置され、その屍肉は烏の慰みにされている。
死臭がする前に来ることができてよかった、などと他人事のように考えつつ適当に辺りを見渡してみるが、物盗りや捜索の兵が多すぎてとても混ざろうとは思えなかった。

近くにいた兵卒に島左近の首の件を確認してみるが、やはり未だ見つかっていないという。そして今日も見つからなければ引き上げるらしい。
戦後からこれだけの人数が散々捜して見つからないとなると、当然目立つところに目的の人物がいるわけがない。


「普通に考えたら…山、だよねェ」


宗矩は少し離れたところにそびえる松尾山を見遣るが、軽く目を細めて思案する。

骸が見つかっていない以上、どこかでぷっつり死んだとは思えない。
現在の生死は置いておくとしても、どこかに逃げ込んだのは確かだろう。そしてそこには間違いなく水があって、朝と夜は冷える気候を加味すると周りを何かに囲まれている、寒さを凌げるところだ。

…普通に考えたら山だ。
しかしあの切れ者の軍師がそんな読めるところに身を隠すだろうか。


「……」


宗矩は、おもむろに馬首を巡らせて西軍の本陣があった方角に馬を歩かせた。
あの男なら、どれだけ瀕死でも。
更に命を削ることになろうとも。
死を覚悟でやりかねない。

瀕死の重傷を負い、討ち死の報も出ていて四日…
いよいよ生存率は低いだろう。
この地には着いたばかりだが、当てが外れたら素直に帰ろう。
つい衝動で出てきてしまったものの、上田の戦後処理も待っているのだ。

本陣跡も通り過ぎ、そのまま西進する。
左近は三成を生かすために残った。つまり、再起を図らせるためだ。
それには本拠地である佐和山に引き返す必要がある。
過保護で世話焼きなあの男のことだ。
たとえ動けない体を引きずってでも、心細い思いをしているであろう三成のもとへ向かおうとするだろう。
傷が落ち着くまでひと所にじっとはしていまい。

佐和山への道中の山や森、小川をしらみ潰しに当たりながら進んでいると、意外なことに半日ほどで捜していた男を発見した。

正確には、見つけられたことに対して意外だったというだけで、距離的には思っていたより近かった。
関ヶ原で出た死人の中に島左近がいないかひとつずつ確認しているのだろうから、為替の数がもう少し少なければ、捜索の手もここまで伸びていただろう。

鬱蒼と茂る山の中腹に佇む簡素な造りの山小屋に、男はいた。
窓のない丸太造りの小屋は一見すると温かそうに見えたが、引き戸を開けて足を踏み入れると悪寒がするほどひんやりしていて。

冷たい暗闇に紛れるように、壁に背を預けて項垂れたままぴくりとも動かない男に、ああ手遅れだったのかと諦観の念を抱きかけた宗矩だったが、数歩近づいてみてまだ辛うじて息があることに気がついた。


「…起きてるかい、島殿」


両足を投げ出して座る相手の正面にしゃがみ込み、ぼそりと訊ねてみると、微かに肩が反応した。

作品名: 作家名:緋鴉