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籠の中の鳥

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夜、いつも通り二人寄り添った暖かなベットの中でツナは問いかける。
「どうして俺をここにつれてきてくれたんですか?」
嫌なんかではないものの、やはり理由は気になった。
ヒバリはツナの髪をそっと撫でながら答えた。優しい声だった。
「二人で過ごしたかったからだよ」
「どうして二人で過ごしたかったんですか?」
「……子供みたいだね。質問ばかり」
「だって」
「自分で考えてごらん」
「えー」
ツナは考えようとするが、そのうちに眠気がさしてきて、抗うことなく眠りにつく。その様子を見てヒバリは淡く笑む。寝息をたてるツナの体を少しだけ寄せて、腕を回した。体温も子供のように暖かい。
「君を忘れるためだよ」
呟いたヒバリの声は、ツナの耳には届かない。


いつ好きになったのかなんてわからない。気がついたら引き返せないところまできていた。しかし自分は彼が好きなのだと、そう理解すると同時に怖くなった。自分のこのねじまがった愛情は、彼を傷つける凶器でしかない。純潔で、まっすぐな瞳の彼に惹かれたのに、この気持ちを言ってしまったら彼を変えてしまう。未来も壊してしまう。そもそも自分のこの想いを、受けとめてもらえるはずがない。そう思った。
だからヒバリは、自分の気持ちにふんぎりをつけるために、最後の我侭を貫いた。彼を忘れる為に。
そう、これが最後だ。これ以上一緒にいたら、自分の気持ちすらセーブをできなくなってしまうから。


「ねぇヒバリさん、今日は一緒に花を買いにいきましょう」
「花?」
「だって、せっかく花壇があるのに。何か種植えましょうよ」
「あぁ、そうか」
「ね、約束」
「……うん」
ツナはその約束だけを楽しみにして、ヒバリの帰りをまだかまだかと待っていた。
しかし帰ってきたヒバリが最初に言った言葉は、ツナが予想だにしていなかったものだった。

「帰ろう」
いきなりの言葉にツナは意味をつかみ損ねる。
「え?」
「君の友達が僕を勘繰ってる。今日もつけられていた。もちろん途中でまいたけど」
「ヒバリさん…?」
「奴らに壊される前に、僕は自分で終わらせたいんだ」
「何言って……」
「支度が出来次第、帰ろう。…今日までつきあってくれてありがとう」
そう言って、優しく微笑んだ。ツナも笑おうと思って失敗する。胸がざわついた。あまりに居心地がよかった。そう、幸せだった。楽しかった。それが今日で終わる。約束も果たせぬまま。
確かに一週間以上も留守にしていたら心配するだろう。その気持ちもわかる。そうだ、たまにならいい。休日とかを利用して、また今回みたいに泊まりに来れば。
そう考えたら心が軽くなった。ヒバリとはいつでも会えるのだから。
「あ、じゃあ、また来てもいいですか?俺、すごくここ気に入っ」
「だめだよ」
ツナの言葉を遮って、ヒバリは諭すように言った。断られるとは思っていなかったので、ツナが唖然とした顔をする。
「もう、会わない。君を忘れるために、この時間をもらったのだから」
「え?」
「今までありがとう。本当に楽しかった」
(そんな)
そんな言い方しないで。まだ一緒にいたい。
なんでそう思ってしまうのかはわからない、だけどツナはヒバリと別れることに、今までに感じたことのないくらいの焦燥感を感じた。
「や、いやです」
「綱吉」
「やだ。ここにいます。迷惑かけませんから」
もう二度と二人で会ってくれないというなら、ずっとここにいる。
必死に言うツナをなだめようと、ヒバリは腕をつかんだら振り払われた。ツナは戸惑う。わけもなく気持ちがたかぶる。失いたくない気持ちでいっぱいだった。
「綱吉」
「やだぁ!」
ツナは子供のように駄々をこねた。そんなツナを見て、ヒバリはどうしたらいいかわからなくなる。あっさり帰ってしまうものだと思ってた。なのに目の前の想い人は、涙目になって必死でそれを拒否する。
「ヒバリさん、ヒバリさんっ」
「綱吉……」
ヒバリはツナを柔らかく抱きしめた。ツナは抵抗せずそれにしたがう。
「綱吉」
彼を、閉じ込めて、ほんの一時でも自分のものに出来れば、満足できると思っていた。そして自分の気持ちを終わらせようと、そう思っていたのに。
一緒にいればいるほど貪欲になる自分にひどく困惑していた。これが最初で最後だなんてどうして思えたのだろう。始まってしまえばもう、引き返せないことなど明らかだったのに。本当はこのままずっと彼を閉じ込めていたい。離したくなんかない。
「……」
ヒバリさん、とか細い声が自分の名前を紡ぐ。
絶対に言うまいと決めていた言葉。歯止めがきかなくなる。
どうにでもなれ、ヒバリはなかば投げやりな気分で思った。

「好きだよ」

一瞬、ツナの思考が止まった。
予想もしていなかった言葉に、驚いて、それから。
(あ、わかった……)
その言葉で、やっと自分がもてあましていた感情に名前をつけることができた。ツナは戸惑うことなく、それをあっさり受け入れる。だってこんなにもあったかい気持ちが、いけないことなわけないから。

「俺も、好きです」

これには、今度はヒバリの思考が止まった。
(何を言って……)
だってそんなはずがない。そう、叶うはずのない恋心に終止符をうつため、そのためにこの時間をもらったんだ。
「ヒバリさん」
「……」
「泣かないで」
みっともない、そう思いながらも止められなかった。当たり前だ。反則だろうこんなのは。まさか想いが伝わるなんて。
最強だと恐れられた男の、これが本性だ。自分で自分がばからしい。

「……また泊まりにきてもいいですか?」
きつく抱き締められた腕の中、もう一度聞けば、
「今度は、我慢なんかできないからね」
そう言って、額に優しくキスをくれた。


来た時と同じように手をつないで帰路につく。互いに何も言わず、手はつないだまま電車に揺られていた。
ツナはただただ安堵していた。この人を失わなくてよかったと。
ヒバリは安堵すると同時に、やはり何かひっかかるものを感じていた。本当にこれでよかったのだろうかと。そう思って、あわててヒバリはその考えを改めた。いいのだ、こうなる運命だった。自由に空を飛びまわる鳥を、やっとつかまえた。かごの中に。大切に。誰にも傷つけられないところに。自分が、守る。

「ここまででいいです」
家まで見送ろうと思っていたヒバリに、改札をでたところでツナは言った。
「ヒバリさん、また明日ね!」
満面の笑みで、ツナはヒバリを振り返る。
駆け出した背中を、ヒバリは複雑な思いでみつめる。
また、空を舞う鳥。籠の中からとびだして、飛ぶ。その真っ白な羽で。
(つかまえただけでは……)
だめだ。羽がある限り、何度でも鳥は飛ぶ。空を目指して。羽をもぎとってしまわなければ。

ヒバリはそこまで考えて、自嘲の笑みをこぼした。
あたりはいつのまにか暗くなっていた。
作品名:籠の中の鳥 作家名:七瀬ひな