人肌に勝るものなし
「ふうん…。それは……宣戦布告、かな?」
低い声に、肌が淡い期待を抱く。
こちらが何か返答をする前に、宗矩の腰の動きが変わった。
危うい快感を得る一点を加減して突いていたものから、陰茎全体で肉壁を引きずりつつ奥を穿つものになり、身体の芯を揺さぶる衝撃は数段強くなる。
射精感は一層高まり、逸物の先端からは白濁がたらたらと流れ出て止まってくれない。
「んんっ……は、ぁ…」
「ッ……島殿、腰…あげて」
間断なく押し寄せる強烈な愉悦の波に耐えかね、腰がびくびくと小さく跳ねながら落ちてしまう。
骨盤を支えられて姿勢の保持を助けてもらいながら、左近は飛びかける意識を枕の生地を噛むことで繋ぎ止めていた。
後ろだけで、と言ったとおり前には一切触れようとしてくれない。
自分で触ろうにも、今肘を抜けば間違いなく肩から布団に崩れ落ちる。
「島殿の一番深いところ……挿れさせてもらうよ…ッ」
退っ引きならない状態に、もう出してしまおうかと負けを認めかけたとき。
一定の間隔で叩きつけられていた奥の壁を、宗矩の肉棒が膜を破るように暴いた。
ごりゅ、と狭い隙間を固いものが無理矢理押し通る音と同時に、暴力的な快感が怒濤の勢いで全身を犯していく。
「く、…ぅ、ぁああッーー!」
意志に反して身体が大仰に跳ねる。
呆気なく果てるが、射精を終えても尚痙攣は治まらない。
背後で宗矩が息を詰め、そのまま中に熱いものを放ったこともわからないほど、強すぎる快感に翻弄されていた。
「…無事かい?」
「……」
とても返事をする気力もない。
肩で息をしつつ、徐々になりを潜めてきた痙攣にようやく平常心を取り戻してきたというのに、今度は後腔からずるりと肉棒が引き抜かれる感覚にまた身体が震える。
更に追い討ちをかけるように、注がれた種子たちが栓の抜けた出口に向かって逆流してきた。
ゆっくり垂れてきたものが、大腿を伝っていくのがわかる。
「うわ……島殿の尻は目に毒だよねェ…」
「見なきゃいいでしょうが…」
「無理。見ずにはいられない魅惑の尻ってやつだもの」
「目ぇ潰しましょ。それで万事解決だ」
「え、怖」
笑顔を引き攣らせていそいそと距離をとる男に構わず、左近は力の入らない腰を庇って立ち上がろうと試みる。
が、腕を立てて四つん這いになったところで不可能を悟った。
「あー……、まずい」
「ふっふっふ、拙者の手管で腰砕けだなんて、本当に相性いいと思わない?」
宗矩は離れたところからしたり顔で笑いつつ、こちらの身動きがとれないと見るや否や、悠々と歩み寄り背中に布団をかけてきた。
相性云々というより、単に無理を強いられただけという気もする。
そもそも明日に響かない程度に、という事前の口約束はどこの空に飛んでいってしまったのだろう。
まあ意地を張って最後に反抗した自分にも非がないといえば嘘になるだろうから、そこは言及しないでおくとして。
「…そうですね。お粗末な動きってのは撤回しときます」
「うんうん、まだ拙者若いからねェ。なんならもう一回いけちゃうよ?」
「そんなに元気なら泊まる必要もなさそうですね。もう帰ったら如何です?」
「あいたたた!急に身体中に激痛が!これじゃあ一歩も歩けないから島殿の部屋で寝るしかない!」
「……この大根役者め」
痛いと全身で訴えるために、あっちこっちを手で押さえてもがきつつ棒読みで叫んでみせる男を冷めた目で見て、早く服着てくださいと投げやりな口調で斬り捨てた。
しかし慣れたものなのか、宗矩は意に介した風もなくけろりとした様子で着物を拾い上げて身につけていく。
「島殿、湯浴みはこれからかい?」
「そのつもりだったんですが……動けるようになったら適当に拭きますよ」
「良かったら背負ってくけど」
「全力で遠慮します」
ぴしゃりと跳ね除けると、宗矩はしゅんと長身を縮こめて古傷が走る眉を下げた。
まるで反省している大型犬のようで、こういうときばかりは可愛く見えてしまう己も大概なのだろう。
あしらいきれない自分に呆れつつ、左近は相手に聞こえるか聞こえないかくらいの声でぼそりと呟いた。
「……今拭いてくれるなら、お願いします」
「!」
宗矩はぱっと表情を明るくして、ひとつにまとめた長髪を尻尾のように振りながら軽い身のこなしで立ち上がる。
「湯で締めた手拭いを調達して参る」
天下に轟く大剣豪は、無駄のない体捌きで手拭いを貰いに向かった。
背中にかられた布団を頭の上まで引き上げて、左近は宗矩のあまりの張りきりっぷりにこっそり苦笑を漏らす。
いつの間にか火鉢の炭は白くなり崩れ落ちていたが、不思議と寒さは感じなかった。
fin.