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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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「禰豆子、上まで行ったら俺たちが降ろしてやるまで待っていろ! 落ちるなよっ!」
「うんっ!」
 煉獄に言われ早速フェンスを登りだした禰豆子は、手にしたカメラが邪魔そうで、見ているだけでもハラハラする。けれど禰豆子は、義勇の心配に反してグングンとためらいなくフェンスを登っていく。炭治郎のすばしっこさや体力ばかりに目がいきがちだが、禰豆子も運動神経抜群だ。とくに足腰の強さは、もしかしたら炭治郎以上かもしれない。
 わかっていたはずなのに、一番小さい禰豆子を過小評価してしまっていた。それは禰豆子に失礼だろう。
 禰豆子はきっと大丈夫だと確信した義勇は、炭治郎を抱え上げるとフェンスを登らせた。錆兎や真菰はもう禰豆子を追い越し、フェンスの頂上にたどり着いている。竹刀を背に差しているというのに、器用なことだ。
 さすがに降りる前には地面に竹刀を投げたが、こればかりは致し方ない。普段なら竹刀にそんな扱いをすればすかさず叱るところだが、非常事態だ。注意をする気は義勇にもない。
「義勇、杏寿郎っ! 竹刀投げろ!」
 地面に降り立った途端に怒鳴った錆兎の声に煉獄とうなずきあい、義勇はいくらか後ろにさがった。義勇にとっては何物にも代えがたい大事な竹刀だ。乱暴な扱いなんてしたくない。けれど躊躇している暇はなかった。それに、錆兎と真菰ならきっと受け止めてくれる。
 槍投げのように助走をつけて、煉獄と二人して同時に竹刀を投げた。距離はいらない。必要なのは高さ。はたして、二人ぶんの竹刀はグンッと空を切り、フェンスを越えた。
「ナイスキャッチッ!!」
 錆兎と真菰の手に収まった竹刀に、フェンスのてっぺんにたどり着いた炭治郎が、明るい声をあげる。
「危ないから、禰豆子は煉獄さんたちが降ろしてくれるまで、しっかりつかまって待ってるんだぞ?」
 お兄ちゃんらしく禰豆子に言った炭治郎が、フェンスを降りだすのを見守り、義勇たちもフェンスに手をかけた。炭治郎が降りるまでは、下手に登るとフェンスが揺れて危険だ。義勇の視線には焦りがにじむが、運動神経のよさを発揮した炭治郎の動きは素早く、危なげがない。
 背後から乱闘の声が聞こえてくる。不死川が奮戦してくれているうちは、まだ余裕があるが、いつまでもつかはわからない。不死川に立ち向かわずに、こちらへ向かってくるやつらもきっといるだろう。モタモタしている暇はなかった。
 炭治郎が無事着地したと同時に三人一斉に登りだせば、上背のある煉獄や宇髄はたちまちフェンスの頂上だ。宇髄にいたっては背の高さを活かして五秒とかかっていない。よっ、と軽い声をあげて飛び降りた宇髄が手を伸ばし禰豆子を受けとめたのと、二人から一足遅れて義勇が着地したのは、同時だった。
「っしゃ! ひとまず駅までな!」
「おうっ!」
 先ほどまでと同じく、煉獄は禰豆子を、宇髄は錆兎と真菰を抱えて走り出す。
「炭治郎」
「あ、あのっ、俺自分で走れます! 長男なので!」
 広げた両腕に首を振る炭治郎に、思わず義勇の眉根が寄った。
「冨岡っ、ぐずぐずしてんな!」
「義勇、早くっ!」
 宇髄と真菰が急き立てる。義勇は、ふぅっと小さく息を吐くと、走り出そうとした炭治郎を有無を言わせずつかまえ、抱き上げた。
「……俺は、ヒーローなんだろ?」
 おまえを守るのは俺の役目だと伝えたくて額をコツリとあわせて言えば、一瞬きょとんとした炭治郎は、パァッと顔をかがやかせ「はいっ!」と大きくうなずいてくれた。
「しっかりつかまっていろ」
「はいっ、義勇さん!!」
 走り出した背に「いたぞっ! こっちだ!」と怒鳴り声が投げつけられる。フェンスの内側からじゃない。声は道の端から聞こえてきた。きっと新手だ。けれど怯んでいる暇なんてどこにもない。体力不足は気力でカバーしろ。動けなくても根性で走れ。
 さぁ、追いかけっこ再開だ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 走り出してすぐに、義勇たちはルート選択を誤ったことを悟らずにいられなくなった。
 なにしろ今は、ゴールデンウィークの昼下がり。遊歩道には公園に向かう子供連れや、犬の散歩中の人も歩いている。疾走する一団というだけでも迷惑なことこの上ないのに、新手のやつらがまだまだいるのだ。歩行者を気遣うやつらじゃないのはわかりきっている。このまま走りつづければ、関係ない人を巻き込んでしまう可能性は十分にあった。
「チッ、しかたねぇ。鱗滝さんちに戻るにしろ、あいつら引き連れて駅に向かうわけにはいかねぇからな。そこから住宅街のほうに出るぞっ」
「それはいいが、そのあとはどうするっ。住宅街にも歩行者はいるだろう!」
「この時間に人通りがない場所なんてあるかなぁ。最悪の場合は、分かれて追手を巻くしかないかも」
「真菰、それはさすがにやめといたほうがいいと思うぞ。あいつら、下手したらまた仲間を呼ぶかもしれないしな」
「派手に同感っ。とにかく、どこかに逃げ込めりゃ、あとはどうにかできる! このままじゃ、こっちは助太刀の連絡網回すこともできやしねぇ!」
 とにかく遊歩道はアウトだと判断した宇髄の指示で、住宅街へ出る道へと進んだはいいが、このまま闇雲に走り回るわけにもいかない。交番に逃げ込むという手もあるが、騒動を大人に知らせる気はないのだろう。とにかく逃げ切りが宇髄が下した結論らしい。
 休日の昼日中。多少迷惑な連中が走り回っても、あまり問題にならなそうな場所。そんなところあるだろうか。考えた瞬間、義勇の心臓がドクンとひときわ大きく鳴った。

 ある。あそこはきっと、この時間に人通りは少ない。でも、あの道は。

 錆兎と真菰も、義勇と同じ場所を思い浮かべたのだろう。宇髄に小脇にかかえられたまま、そろって不安げな顔で振り返った。
「学校……は、門が閉まってるか」
「開いてても、学校で喧嘩するわけにゃいかねぇだろうよっ、剣道部主将! てめぇ大会控えてんじゃねぇかっ!」

 あるんだ。この人数で逃げ込める、やつらが知らない場所も。俺は知ってる。誰よりも、よく知ってる。

 先を走る煉獄と宇髄に告げなければと、義勇は息を乱しながら思う。けれど、どうしても声が出なかった。だって行きたくない。あそこはまだ怖いのだ。近寄りたくない。考えるだけで、吐き気がしてくる。あぁ、でも。
 息が苦しい。体力はもう限界に近かった。あの場所のことを考えるだけで、気力すら萎えそうだ。それでも、止まるわけにはいかない。へたり込んでいる場合じゃない。
 だって腕のなかには炭治郎がいるのだ。なにをおいても守るべき幼子が、ここにいる。大事な、大切な、炭治郎が、この腕のなかには、いる。
「義勇さん、大丈夫ですか? やっぱり俺、自分で走りましょうか?」
 こんな危ない目に遭っているのに、心配そうに瞳を揺らせて案じるのは義勇のことばかりな炭治郎に、義勇の決心は固まった。男なら。ヒーローなら。覚悟を決めろ。

「この先、右っ」

 乱れて苦しいかすれ声を振り絞り叫ぶように言えば、錆兎と真菰の目がギョッと見開かれた。
「義勇っ!?」
「駄目だよ! 右に行ったら……っ」