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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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 それは、まばたきする間もないほど、瞬間的な出来事だった。

 煉獄の大きな体が飛ぶように義勇に迫ると同時に、素早く振りかぶられた竹刀が、気迫のこもった「面!」の声とともに義勇の頭に打ち下ろされた。義勇の動きは、炭治郎にはよくわからなかった。あまりにもなめらかで素早いその動きに、なぜだか川みたいだとふと思う。滔々《とうとう》と流れる川に似た奔流のような義勇の剣。泣きそうになったのはなぜだろう。懐かしい。そんな言葉が一瞬だけ炭治郎の脳裏をよぎって消えた。
 無駄な動きなんて、きっとひとつもなかった。すっと体をかたむけ義勇が煉獄の竹刀の軌道を避けるのと、振り上げられた竹刀は同時。そして。気がつけば長く尾を引く胴の掛け声とともに、パァンッと高く鳴った打突音と足音が響き――。

「一本っ!」

 鱗滝が声とともに腕を振り上げた。
 道場を満たす、音の余韻。空気が震えている気がする。試合は終わったのに、息を吐きだすことすらためらってしまうぐらい、道場は静まり返っていた。
 静寂のなか、ふぅ、と小さなため息が聞こえた。
 煉獄が構えを解き、竹刀をおろす。義勇は、動かない。煉獄の横をすり抜け振り返ったその姿勢のまま、まだ竹刀をかまえている。だがそれもわずかな時間でしかなく、義勇の竹刀もやがてゆっくりとさげられた。
 最初の位置に戻り、義勇は静かに立っている。煉獄もゆっくりと戻り、互いに礼との鱗滝の声で、二人の頭がさげられた。
「……すごい」
 炭治郎が詰めていた息は、そんな一言ともに吐き出された。
 次の瞬間にぶわりとわき上がったのは、はち切れそうな興奮だ。
「すごいっ! 義勇さんも煉獄さんも、すっごいカッコイイ! すごいです!!」
 炭治郎の喉も心も、すごいって言葉でいっぱいだ。それしか出てこない。きっと禰豆子も同じなんだろう。我慢しきれなかったのか、弾かれるように立ちあがり、義勇と煉獄のもとへ駆け寄っていく。
「ぎゆさんも煉獄さんもすごいねっ! 禰豆子も二人みたいに強くなれるっ!?」
「おぉっ、もちろんだ! 禰豆子の手本になるなら、俺も今以上に鍛錬しなければな!」
 負けたのに、面を外した煉獄は快活に笑っている。
 錆兎と真菰は、グッと拳を握り、小さくガッツポーズをとっていた。視線は義勇たちから一瞬も離さない。義勇と煉獄の手合わせは、二人にとっても強く響くものがあったんだろう。宇髄も軽口をたたくことなく、満足そうに笑いながら錆兎と真菰の頭をポンポンとなでていた。
「今日の稽古はこれまで!」
 鱗滝の声に、あわててみんなで正座する。神棚と鱗滝に礼をしたら、稽古はおしまい。素振りもすり足もしていないけれど、なぜだか今日の見取り稽古のほうがずっと体が疲れたような気がする。でも、それ以上に炭治郎は、ドキドキと高鳴る胸が抑えきれなかった。
「今日で炭治郎たちの宿泊もおしまいだ。バスの時間までゆっくりするといい」
 少し苦笑交じりに言った鱗滝が道場を去っても、なんだかいてもたってもいられない。
 いつか、あんなふうに自分もなれるんだろうか。いったいどれくらい稽古すれば、義勇や煉獄と同じくらい強くなれるんだろう。今はまだ、見当もつかない。でも、諦めるのは嫌だ。
「冨岡」
 面や小手をしまっている義勇に、煉獄が声をかけた。振り返った義勇がなにを考えているのか、いつもの表情のない顔つきからは読み取れない。あんなすごい試合をした後なのに、静かな瞳だった。
 ゆっくりと義勇の元へ歩み寄り、煉獄が真剣な顔で言った。
「冨岡、君が君自身をどう思っていようと、俺は君を尊敬する。君は、立派な剣士だ。終生ライバルとしてありたいと思っている」
 ピクリと、義勇の肩が揺れた。ほんのわずかに眉根が寄っている。それは、なにを言われているかわからないと言ってるみたいだった。
 ふっと煉獄が笑った。強い目が、やわらかくたわむ。
「君がどう思おうとかまわん。俺も宇髄に倣って、エゴをとおさせてもらおう。俺は、何物にも代えがたいライバルとしても、大切な友人としても、選ぶのなら君がいい。君と切磋琢磨し剣の道を歩みたい。覚悟してくれ。次は負けん!」
 笑う煉獄はお日様みたいだ。義勇をまばゆく照らしている。
 義勇もきっと、その笑顔をまぶしく思ったんだろう。パチリとまばたきしたあとで細められた目は、少しとまどいつつも、笑っているように見えた。


「それじゃ、お世話になりました!」
「ありがとうございましたっ!」
 鱗滝の家の前で、煉獄たちと並んでペコリと頭を下げる。宇髄は自転車で帰ることになったから、帰りは煉獄と炭治郎たちでバスに乗る。行きと同じく、持ちきれなかった荷物は煉獄が持ってくれた。花冠は潰れないよう、洋服が入った紙袋の上にふたつ重なってちょこんと入っている。家に着いたらお母さんに習って、ドライフラワーにするつもりだ。
 楽しかったお休みも、これでおしまい。ゴールデンウィークの残り一日は、お店の手伝いや竹雄たちの子守りで終わるだろう。宿題だってしなくちゃいけない。でも。
「義勇さん、次の稽古もよろしくお願いします!」
「お願いします!」
 禰豆子と一緒に炭治郎は、兄弟子兼指導役の義勇に、ぴょこんと頭を下げた。手にはしっかりと竹刀を持って。
 これから毎週、道場に通うのだ。ゴールデンウィークは終わっても、炭治郎の剣道は始まったばかり。義勇と一緒に戦えるぐらい強くなるって目標に向かって、頑張らなくちゃいけない。だから家でも毎日素振りするつもりでいる。
 こくんとうなずいてくれた義勇に、まだまだワクワクドキドキな日はつづくんだと思って、炭治郎のドキドキはますます高まる。
「一緒に試合に出られるよう、頑張ろうな」
「昇段試験もだよ。禰豆子ちゃん、頑張ろうね」
 笑って言う錆兎と真菰に「うんっ!」と禰豆子と声をそろえて元気よく答えたら、それじゃあまたねと手を振る。
 宇髄が自転車にまたがり、煉獄と一緒に炭治郎たちも歩き出そうとしたそのとき。
「……またっ、学校、で」
 聞こえた尻すぼみな声は、義勇のもの。
 グッと唇を引き結んが顔は、どことなし泣き出しそうで、少しだけ握りしめた手が震えている。それでもまなざしは、そらされることなくまっすぐに宇髄と煉獄に向けられていた。
 目を見開いた宇髄と煉獄の顔に、満面の笑みが広がった。
「うむっ! また学校でな!」
「そろそろ教室で受ける授業ふやせよ~」
 笑って大きく手を振る煉獄と、パチンと音がしそうなほどにきれいにウィンクしてみせた宇髄に、義勇は、こくりとうなずいた。
 その口元は、小さく笑っていたように見えた。
 錆兎と真菰は、チャラいってつぶやいてたけど。


 笑って泣いて、大暴れもした、ゴールデンウィーク。締め括りは、義勇の照れくさそうな、友達に向けた小さな笑顔。
 終わり良ければすべて良し。
 炭治郎の小さな胸には、収まりきれないぐらいのワクワクとドキドキが、まだまだあふれていている。