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ワクワクドキドキときどきプンプン 3日目

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 正座して凛と背を伸ばした煉獄に、義勇が戸惑っているのがわかる。錆兎たちもなにごとかと固唾を呑んで見守っていた。
「冨岡、頼みがある。明日の鍛錬では、ぜひとも俺と手合わせしてほしい」
 煉獄の声は静かだったけれど、顔は真剣で、目が強い光を放っていた。
「体調がすぐれないなら諦めるよりないが、問題がないのならばどうかお願いする」
 そう言って深く頭を下げる煉獄に、炭治郎も驚いたけれど、義勇の驚きは炭治郎とはくらべものにならないくらい大きかったんだろう。どうしたらいいのかわからないと言いたげに、オロオロとしている。
 錆兎と真菰はなんにも言わない。宇髄も口をはさまず、じっと煉獄と義勇を見ていた。
 なにか言わなければと思ったんだろう。煉獄の眼差しから逃げるみたいにうつむいた義勇が、小さな声で言った。
「……先生のほうが、ためになる」
「俺は、君がいい」
 きっぱりと言いきられ、困惑しきった顔でそろそろと煉獄を見る義勇の瞳は、昼間の勇ましさなんてどこにも見られない弱々しさだ。

 なんでだろう。どうして義勇さんは、こんなにも自信なさげなんだろう。あんなに強いのに……。

「冨岡、俺は、君がいい」
 繰り返す煉獄に、義勇の目が苦しげに細められる。けれど、もう断ることはなかった。小さくこくりとうなずいた義勇に、煉獄はいかにもうれしそうに笑った。

  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 お泊り最後の朝。今日も目覚めて最初に炭治郎が見たものは、義勇の顔だった。
 結局あの後、じゃあ寝るか! とカラリと笑って言った煉獄に誰もなにも言わず、早々に布団にもぐりこんだのだけれど、義勇だけはなかなか寝つけなかったみたいだ。
 一緒に眠った炭治郎は、心配しつつもどうしても眠気に勝てなくて先に眠ってしまったから、義勇がどれぐらい起きていたのかわからない。でも、起き抜けの義勇は、なんだか疲れているように見えた。
 稽古に出られないほどではないみたいで、朝ご飯だって炭治郎と半分こしたぶんは、ちゃんと全部食べてくれた。とはいえ、昨日の疲れも残っているんだろう。昨夜にくらべ、食べるスピードはずいぶんとゆっくりだった。
 煉獄との手合わせに気がふさいでいるのが、ありありとわかる。そんな義勇を見ているのは心配で、ちょっぴり煉獄が恨めしい。それに、こんな状態の義勇を、錆兎と真菰が止めないのが不思議だった。おまけに、話を聞いた鱗滝も深くうなずいただけで、炭治郎たちに今日は見取り稽古だと命じてくる始末だ。

「煉獄さんはなんであんなに義勇さんと手合わせしたがるのかなぁ」
 炭治郎のつぶやきが、少し不機嫌な声になってしまったのは、しかたない。だって義勇が嫌がっているのがわかるんだもの。自分だけは義勇の味方になってあげたいじゃないか。
「さぁな。煉獄には煉獄なりの考えがあるんだろうよ」
 錆兎と真菰のあいだであぐらをかいている宇髄はこともなげに言うけれど、その考えとやらがさっぱりわからないのが困るのにと、炭治郎は少し唇をとがらせる。
 炭治郎たちの視線の先で、煉獄と義勇は、昨日酷使したそれぞれの竹刀を丁寧に点検している。慣れた作業だからか、どんなに義勇が戸惑っていても、手入れに時間はかからなかった。

「準備はできたか?」
 鱗滝の声がした途端、道場の空気がピリッと張り詰めた。
「はい!」
「……はい」
 ハキハキとした煉獄の声にくらべて、義勇の声はいまだに困惑気味だ。それでも、向き合って礼をする姿は、凛としていた。
 真っ白な道着に、黒い袴。面をかぶっているから、顔はよく見えない。愛用の竹刀をかまえた義勇は、不思議といつもより大きく見える。初めて逢ったときの、ハチからかばってくれた背中と同じように。
 ピリピリと肌をさすような緊迫感。誰も口を開かない。禰豆子でさえグッと口を引き結んだ真剣な顔で、向きあう二人をじっと見てる。
 朝の陽射しが道場に差して、磨かれた床板が光っていた。ピチチチチと表で小鳥が鳴く声がする。静かな朝だ
 ゴクリと鳴らした喉の音が、やけに大きく聞こえて、炭治郎は膝の上でギュッと拳を強く握りしめた。
 なんで煉獄が義勇と手合わせしたがるのかは、わからない。義勇の強さは、昨日の喧嘩でも十分わかっているはずなのに。
 でももしかしたら、これは義勇にとってとても必要なことなのかもしれないと思った。だって、錆兎たちや宇髄も、鱗滝さえもが、止めようとしない。みんな、義勇のためになると思うから、なにも言わないんだろう。

 もっと……もっといっぱい、いろんなことがわかるようになりたいな。もっと大人になりたい。みんなと同じように、もっと、もっと、義勇さんの手助けができるように。

 義勇は炭治郎にとってヒーローだけれど、ヒーローだって疲れたり、悲しくなったりするのだ。炭治郎と同じように泣いたり笑ったり、いろんなことにワクワクして、ドキドキして、ときどきプンプンと怒ったりもする。そうなってほしいと、強く思う。
 だから炭治郎は、みんなと同じようにしっかりと背を伸ばして、道場の真ん中に向かい合って立つ義勇と煉獄を真剣に見つめた。

 強くなるんだ。義勇さんを助けられるように。義勇さんみたいに。宇髄さんや煉獄さんみたいに、錆兎と真菰みたいに、強くなる。守られるばかりじゃ駄目だ。ヒーローにだって手助けする相棒がいるじゃないか。えっと、たしかサイドキックとか、バディっていうやつ!
 うん、俺はいつか絶対にそれになるんだ! ヒーローの義勇さんの隣に立って、一緒に戦うバディに絶対なる!

 そのためにも、見取り稽古だって大事な稽古だ。
 なにひとつ見逃さないぞと、息をつめて、炭治郎はグッと身を乗り出した。

「義勇の体力を鑑み、今回は一本のみの勝負とする。――始めっ!」

 鋭く響いた鱗滝の声と同時に、大音声で煉獄が吼えた。ビリリと空気が震える。義勇は無言だ。面の下の顔は見えない。でもきっと真剣な面持ちで、煉獄を見据えている。
 じりっと煉獄の足が間合いを詰めてくる。二人とも剣先はまったくブレていない。
「読みあいしてるな……」
「……うん」
 錆兎と真菰の声がかすれている。試合の邪魔をしないためにか、二人ともささやき声だ。
 どういうこと? と、たずねる必要はなかった。炭治郎は剣道を始めてまだ三日目だ。剣道のことなんて、まだ全然わからない。でも、そんな炭治郎ですらわかる。煉獄と義勇の間で、目に見えずとも目まぐるしい攻防戦が繰り広げられていることが。
 昨日の喧嘩で、義勇も煉獄もほとんど止まっていなかった。それはきっと、敵の動きが単純だったからだ。とにかく殴ればいい。つかまえればいい。相手はそんな単純な動きばかりだった。だから二人ともそれに合わせていたんだろう。

 でも、煉獄さんと義勇さんじゃ、そうはいかないんだ。

 観見の目付ってやつで、ちょっとの動きから相手の次の手を読むのだと、煉獄は言っていた。鱗滝ほどになれば、目線や息づかいだけでもわかるとも。それを今、炭治郎は見ているのだ。ゴクリと、誰かの喉が鳴った。止まったかのような時間が、その瞬間、動いた。
 煉獄が、ふたたび吼えた。義勇も空気を切り裂くような大きな声を出し……そして。