汚れない特別訓練
足の付け根に唇を押し付けて皮膚を吸い上げられ、腹筋がびくびくと痙攣した。
「ぁあッ……、宇髄…や、やめ…っ!」
「…なんで?」
柔らかな皮膚を喰みながら、宇髄が上目遣いに視線を投げてくる。
慣れない快感に苛まれ、目元にじんわりと熱の膜が張っていく中、煉獄は片手で口を覆った。
「お、おかしく……なり、そうだ…」
「……」
自分が自分でなくなりそうな不安感。
気を抜けばどうなってしまうかわからない恐怖。
そしてそれを遥かに上回る性的な興奮。
精を放ちたいという男の本能が暴れまわっている。
宇髄はじっとこちらを見つめたあと、「あーもう」などと言いつつがしがしと自身の髪を掻き回して仏頂面を向けてきた。
「お前ほんと可愛い。俺がどんだけ我慢してるか少しは察しろよな。」
苦虫を噛み潰したような渋い表情で溜め息を落としたかと思うと、小さく笑みを浮かべた。
「もっと焦らして泣かせて、それこそおかしくなるくらい悦がってもらいたかったんだが…。今日は勘弁してやる。イけよ、煉獄」
不穏な発言が随分混ざっていたような気がしたが、その後また逸物を口に咥えられて思考は霧散してしまう。
蟻の門渡を指の背でなぞられ、乱暴なくらいの勢いの口淫を甘受する。
吐息は荒く乱れ、無意識に腰が動き、身体が不規則に跳ねた。
…このままでは達してしまう。
宇髄に離れるよう伝えなくては。
射精感を伴う危険な快感の波に身震いして、足の間に顔を埋める男の髪にそっと触れる。
「も、もうッ……口を、離してくれ…」
「……」
「…っ、宇髄!」
聞こえていないはずはないのだが、宇髄の動きが止まる気配はない。
遠慮がちに銀の髪を引いても、むしろ更に激しさを増してこちらを限界の淵に追い詰めてくる。
まずい。さすがにこれ以上はもたない…
そうこうしているうちにも腰がびくびくと跳ね、煉獄はぎゅっと目を瞑った。
「んんっ、ぅ……ッーー!」
本能に抗えないまま相手の口腔内に呆気なく精を放つ。
下腹部が痙攣し、心地よい解放感が全身を駆け抜けた。
無意識に止めていた息を吐いてそっと瞼を押し上げると、宇髄がゆるりと身体を起こすところで。
煉獄ははっとして彼の肩をがっしと両手で掴んだ。
「す、すまない宇髄!吐き出せ!」
言いながらどこに吐き出してもらおうかと、忙しなく手拭いか何かを求めて視線を走らせる。
咄嗟に卓上のおしぼりに手を伸ばし、広げて宇髄の口元に当てがったのと同時に、相手の喉仏がしっかりと上下に動いた。
「ッ!?」
「ご馳走さん」
口に押し付けられたおしぼりを受け取り、平然と手を拭いている色男に言葉を失う。
何度か口をぱくつかせ、隠しきれない動揺をそのままに声を絞り出した。
「君っ……の、飲んだ、のか…?」
「ああ。汚れなかっただろ?」
宇髄はしれっとなんでもないことのように言ってのけ、妖艶な笑みを浮かべてみせる。
確かに寝具は汚していない。
人様の家で情事に勤しんだ形跡は、ひとまずない。
強いて挙げるなら最後に使用したおしぼりくらいだが、あのくらいなら手揉み洗いで十分綺麗になる。
だが…それならいいのか?
汚さないようにするが為に今、宇髄の体内には俺の子種が…
「おーい、煉獄。大丈夫か?」
沈黙するこちらの顔を覗き込み、眼前でひらひらと手を振る宇髄。
まったく気にしている様子はないが、これは誰がどう考えても一大事だ。
「……吐け」
「ん?」
「今すぐ吐け!俺が喉に指を突っ込んでやろう、さあ厠に行くぞ!」
「む、無茶言うなよっ」
即座に身なりを整え、宇髄の胸倉を掴み上げる勢いで引き摺り立たせると、落ち着けとばかりに肩をとんとんと叩かれた。
しかし落ち着いてはいられない。
そうこうしている間にも、俺の子種は宇髄の身体の一部になってしまうのだから。
鬼気迫る様相のこちらに宇髄は苦笑すると、不意に己の下の方を指で示した。
意図がわからず視線で指先を追い、煉獄はぴたりと動きを止める。息すら止まった。
「俺が部屋から出られないんだわ」
「……なるほど」
そこには何故か、臨戦態勢をとった雄の象徴が着流を押し上げてそそり立っていて。
いつからそうなっていたのかはわからないが、男の精液を飲み下していながら全く挫けた様子のないその逸物に、最早恐ろしさすら感じる。
煉獄が無意識に後退りすると、宇髄は神妙な面持ちで口をひらいた。
「なあ煉獄、頼みがある」
「俺はしないぞ」
「えっ、えええぇぇぇ…」
すぐに察して即答した。
がっくりと項垂れる宇髄を残して、廊下に続く襖に手をかける。
「水をもらってくる。吐き出せないなら希釈しろ。なんなら吐き戻すくらい水を飲むといい」
「な、なんかお前、すげえ怒ってないか…?」
怖々訊ねてくる宇髄ににこりと笑みを返し、煉獄は退室した。
これからどれだけの量の水を飲まされることになるのか、考えるだけで処理をせずとも逸物が縮こまっていく宇髄だった。
fin.