二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

天空天河 六

INDEX|8ページ/8ページ|

前のページ
 

 武功のあった林殊ならば、一滴も零さず、飲み干せただろう。
 長蘇の様に、笑う気にはなれなかった。
「、、愚かな遊びだ。」
 靖王の心に、少しの後悔。
 長蘇から、盃を受け取り上げ、酒に濡れた指を、手巾でそっと拭いた。
「私は少し、ムキになりすぎた。
 愚かな真似をした、すまぬ。」
「いいさ。昔の様で楽しかった。
 ふふふふ、、、景琰が靖王府に移ってからは、子供のくせに、二人でよく飲み明かしたな。
 度々、父上の酒をくすねて、、、。」
「あはは、、靖王府は小殊の別宅だったからな。」
「父上には出入りを控えろと、林府で見張りまで付けられて、、、蒙哥哥が見張っていた事も、、。
 まぁ、私が大人しく、林府に居る訳が無いが。あんな楽しい場所、他に有るか?。。」
「ああ、、そんな事もあったな、、。」
「あぁ、懐かしいな。ふふ、、、。」
 長蘇は遠い昔を懐かしむ様に、外に目を向けた。
 戸の隙間から、屋根の上に昇った、光の雫が見えた。
「、、、、ぁ、、、花火が、、。」

 ドン

 遅れて花火の音が響いた。

 
「見に行こう。
 蘇宅のここからは、見えるのだろう?。」
 靖王は、長蘇の手を取り、立ち上がるのを助ける。
 そして長蘇を、縁側の方へと導いた。
「恐らく、蘇宅のここからなら、大きな花火なら見える。
 、、、靖王府からは見えないのか?。留守番の配下は残念だな。」
「いや、そうでも、、、今年は巡防衛として、金陵の警護に当たっている。
 従者にも、今日は暇を出したし、留守の者は、屋根に登って、花火を楽しむそうだ。
 皆、楽しみにしていたよ。
 戦英達は、花火がどうと言うよりも、巡防衛として、金陵の人々が楽しんでいる姿を見るのが、嬉しいのだと。
 我が王府の配下も、武人らしくなっただろう?。
 民が武人を成長させるのだな。」
「そうだな。靖王府は覇気に満ちている。郊外の東屋で会った時とは、目の色が違っている。
 今宵は、金陵の平和を楽しもう。」
──夏江が、金陵に戻ったと、、、。
 飛流を隠す為、『魔』の退治を中止させて、琅琊閣へ行かせた。飛流は渋々だったが。
 夏江が来た途端、金陵の空気が、少しずつ重くなっている。
 私の闘いが終わるまで、穏やかな日は、もうこないかもしれぬ。
 、、今は楽しもう。景琰との瞬(とき)を。──
「小殊?。」
「ん?。」
 じっと見つめる、靖王の視線。
 長蘇は心の中の不安を、読み取られそうになり、長蘇は急いで、視線を外した。
「小殊、、不安があるなら、私に話して欲しい。」
「、、ん。
 景琰が傍にいるのだ、私には何も不安は無い。」
 長蘇はそう言って、靖王を見た。
 長蘇の瞳の中は、先程の不安は綺麗に消えていた。
「、、、、、隠したな、小殊。」
「ん?。」
 惚(とぼ)ける長蘇。
「、、まぁ、、いいさ、。
 小殊が言わなくても、分かっている。」
「さすがは靖王殿下です。」
「、、、コイツッッ、調子に乗りすぎだ。」
 そう言って、長蘇の頭を、指で軽く小突いた。
「あははは、、。」

「寒くはないか?。部屋に戻ろう。」
「いや、、、もう少し、見ていたい。」
 空を見上げながら、長蘇が言った。
 次々と上がる花火。
 長蘇の瞳に映る、色とりどりの光。
━━小さい頃、小殊は、特別に皇宮に呼ばれ、この同じ瞳で、目を輝かせて、花火を見ていた。━━

「綺麗だ。」
 遠い花火を見ながら、長蘇が言った。

 靖王は、長蘇の横顔を見ていた。長蘇に見蕩(みと)れていたのだ。
 そして、景琰に向けたその顔は、子供の頃の林殊そのもので、靖王は胸がどきりとする。

「、、あぁ、、綺麗だ。」
━━花火ではなく、小殊が。━━
 
「寒いだろう。」
 そう言うと、靖王は外套を外して、長蘇に掛けた。
 長蘇は自分の物と、靖王の外套、二枚を羽織ってしまったが。
──暖かい、、。
 景琰の温もりが、、。──
 長蘇の、胸の中まで、温まりそうだった。
「だが、景琰が寒いだろ?。」
「小殊に、寒い思いはさせたくない。」
「なら、二人で入ろう。一人だけで、外套二枚というのも、、、。」
「ふふ、、、。」
 長蘇は、靖王の外套を広げて、靖王を入れた。
「あはは、、、。子供の頃みたいだ。」
「一枚の外套を、分け合った事もあったな。」
 長蘇を引き寄せて、二人寄り添って、温めあった。
「暖かい。」
「小殊と私の『聖なる夜』だ。
 誰も邪魔は出来ぬ。」
「ん。」
 靖王の唇が、長蘇に寄せられる。

「、、、、がッ、、。」
 長蘇は右の掌で、靖王の口を塞いだ。

「、、、ぅ”〜、、、。」
「、、景琰、、何考えて、、、、。
 外なのだぞ。丸見えなのだぞ。
 誰かに見られたら、、。」
 靖王は、長蘇の手首を掴んで、口元から手を外した。
「、、今更。
 誰かって、誰だよ。
 私は小殊との事を、金陵中に知らしめたい位なのだが、、。
 蘇宅の警備が厳し過ぎて、私達の事を、誰も知らぬのだ。残念だとは思わぬか?。」

「、、うわっ、、、。」
「、、、ぅ””〜、、」
 懲りずに唇を求める靖王。
 今度は左の掌で、靖王の口を塞いだ。

「景琰、お前、酔っ払ったな、、。これだから、酔っても変わらぬ奴は面倒臭い。」
「ふふ、、私は小殊に酔ってる。
 責任を取ってもらおうか。」
 長蘇は両の手首を掴まれて、自由が利かなくなった。
「景琰の馬鹿力め。」
「、、ふふふ、、小殊。
 私は酔ってなんかいない。」
 靖王は長蘇を見つめ、長蘇の手を離し、そしてふわりと抱きしめた。
「ぎゅ。」
「、、、はぁッ、、。」
 抱き締められて、長蘇の胸が熱くなる。

──景琰は嬉しいのだ。
 私だって、嬉しい。
 正体を明かし、こうして昔を語り、酒を酌み交わせるとは。
 私にとっては、これ以上の幸せは無い。
 これが良い事かは、今は分からぬが。
 景琰ならば、越えていける筈。──

「小殊を慈しむ!。」
 そう言うと、靖王は長蘇をだき抱えた。

「け、、景琰!!。
 私の言ってる事、分かってるか?。」
「分かってる。大丈夫だ。」
「景琰、何が大丈夫なんだ!。
 もー、あんな強い酒、持ってくんな!。
 持ち込み禁止だ!。」

「さ、小殊、慈しみ慈しみ〜。」
「景琰の馬鹿ッ、この酔っ払いッ。」
 抱き上げられたまま、じたばた抵抗する長蘇だが、靖王の前には、抵抗も無意味だった。

 靖王は長蘇を抱えて、書房の奥へと消えた。
 程なく、一人、戸を閉めに来たのは、靖王らしいと言えば靖王らしい。



 軋んでいく世界の中の、このひとつの空間だけは、ただ二人だけのものだった。


 聖なる夜を 二人は 語り明かした。



─────幕間4 聖なる夜 終─────
作品名:天空天河 六 作家名:古槍ノ標