セブンスドラゴン2020 episode GAD2
Chapter1 the Warcry
Phase1 謎の声
鎧を纏ったような姿の深紅のドラゴンが、数多の配下を引き連れ、都庁屋上へと下り立った。
交戦するトウジとリアンであったが、力の差は歴然であり、二人はあえなく敗れてしまう。
「う、ううう……!」
「し、四季、お前だけでも、身を、隠せ……!」
二人が地に伏してしまった瞬間、シュウは、全身がすくんで動けなかった。
ーー私も戦わなきゃ……でも、あの二人でも敵わない相手に、私が……ーー
シュウは、完全に戦慄していた。どうあがいても目の前の敵には勝てない。やがてやって来るであろう死の予感に、体を震わせるしかできなかった。
ーー……何をしているーー
恐怖に包まれたシュウの心に、ふと声が届いた。
その声は、シュウの反応を待つことなく続ける。
ーー汝は『狩る者』。この星を幾億もの遠き宇宙より来る侵略者から救う力を持つ存在。抗う力は備わっているーー
「うっ!? くうう……!」
次の瞬間、シュウは全身に熱を帯びた。
ーー戦え。抗え。そして全ての侵略者、『竜』を狩り尽くすのだーー
シュウは、この声を聞いたのを最後に、自我を失った。その後、シュウは圧倒的な力を以て深紅のドラゴンと戦い、その片腕を弾き飛ばす深傷を負わせた。
その後、シュウは意識を失い、倒れたのだった。
次にシュウが気が付いたのは、どこまでも広がり、星々の瞬く宇宙空間のような所だった。
足下には地面らしいものもなく、そこにも星がいくつも煌めいている。
シュウは、まさしく宇宙空間に放り出されたような状態となっていた。
「ここは……何? まさか私、死んで……!?」
どこからともなく、シュウに声が伝わった。
ーー汝は、未だ死なず……ーー
「誰!? どこにいるの!」
シュウは立ち上がり、辺りを見渡した。しかし、どこまでも広がり続ける宇宙に、億兆の星が瞬くだけの風景がいつまでも続くだけである。
ーー汝は『狩る者』。星の守護者……ーー
どこからともなく聞こえる声は続ける。
ーー汝、戦いより逃れること能わず。これは宿命であるーー
「戦いから逃げられない、って一体何を言ってるの!? 私はどうなるのよ!」
ーー運命は既に動いている。理解せよ。汝が戦わねば、この星は宇宙の塵と消えようーー
「星が、消える……?」
ーーこの星の命運は、汝の決断に委ねられる。ゆめゆめ選択を誤らぬことだーー
シュウは、不意に目眩を感じた。
ーー目覚めの時は近い。汝の選択に星の全てが決まる……ーー
これを最後に、シュウに届く声は止んだ。それとほぼ同時であった。シュウの意識が遠のき、その場に倒れたのは。
Phase2 くすぶる生命
体と心が、ずっと遠くにあるような感じが、次第に覚めゆく意識とともにはっきりしていく。
シュウは、ゆっくりと目を開けた。真っ白で、無機質な天井が真っ先に目に入ってくる。
「……ここは?」
鈍い目眩を振り払いながら、シュウは自身が寝ていたベッドから体を起こした。
辺りには、同じようなベッドがいくつも並んでいた。入院患者の使うそれに違いなかったが、この場所は病院にしては、あまりにも閉鎖的な空間であった。
「……う、うう……」
ふと、同室のベッドに横たわる、負傷した自衛隊員がうわ言を言った。
「ドラゴンが……ドラゴンが来る……!」
自衛隊員の青年の傷は広範囲に渡っており、全身に巻かれた包帯の隙間から垣間見れる傷は、ひどくただれた火傷であった。
シュウは、見たこともないほどの火傷を負った自衛隊員を見て竦んでしまった。
不意に、部屋の外から警報音が鳴り響いた。続けざまに数名の人が駆けていくような足音がする。
何事かと思ったシュウは、部屋から出ていった。
部屋の外は、まるで突貫工事で造り上げられたような武骨な風景であった。
警報音は相変わらず鳴っていた。警報器は廊下にあり、その音量は倍以上に感じられた。
「一番隊はシェルター入口まで先行しろ。二番隊は後方支援だ。ドラゴン一匹、いや、アリンコ一匹通すんじゃねェぞ!」
指示を受けた自衛隊員たちは、素早くシェルターから出ていった。
シュウは、自衛隊の動きに、何が起きているのかと、呆けてしまっていた。
「あン? なっ、お前、シュウじゃねェか!?」
自衛隊に指示を出していたのはガトウであった。呆けてしまっていたシュウは呼ばれた事にすぐに気づけなかった。
「……ガトウさん?」
ひどく驚いていたガトウに、シュウは確認を取る。
「目ェ覚ましたのか!? だったら話がある。一旦医務室に戻れ」
ガトウに言われ、シュウはガトウと共に医務室へと戻る。
互いに向き合えるベッドに、二人は腰を下ろした。
「体はもういいのか?」
「はい、寝起きで少し眠いくらいですけど」
「一晩寝たくらいの感じか。普通眠気が残る程度じゃあすまねェぞ。一体お前の体はどうなってやがる……」
「それよりもガトウさん。一体何が起こっているんですか?」
「そうだな、さてどこから話したもンか。訊いて驚くンじゃねェぞ。世界はドラゴンの支配下になっちまった……」
ガトウによると、シュウは一ヶ月間ずっと眠っていたとの事だった。
シュウの眠っていた間に、日本、いや全世界がドラゴンの襲撃を受け、最早地球は滅亡の危機に瀕していた。
「一ヶ月、お前が寝ている間世の中はすっかり様変わりしちまった。外じゃ何億人死ンだか分からねェ。選抜試験の日に、あちこちに咲いてた花の毒とドラゴンそのものにな……」
ドラゴンの支配下に咲くフロワロには、一輪で何十万人もの人を殺傷する猛毒があった。
しかし、全ての人間が殺されるわけではなく、十万人中百人ほどがフロワロに耐性ができ、今でもシェルターで避難生活をおくっている。
「この新宿御苑地下シェルターにもドラゴンの奴らが進行してきやがるようになった。ここがいつまで保つか、時間の問題だ」
シュウは、全てを一度に理解できず、閉口してしまっていた
「悪りィな。こんな突拍子もないこと、急に信じろったって無理だよな。そんな顔になるのも仕方のねえこった」
シュウは、まるで夢を見ている気持ちだった。
「……今までの話、全部本当なんですね?」
「あァ、全て事実だ、残念な事にな。お先真っ暗てやつだ」
このままドラゴンに震えつつ食糧がなくなるまでいるか、ドラゴンにシェルターを破られ、その牙にかかるか。残された人類にできることがあるとは思われなかった。
「ただしだ。この状況でなンにもできねェかっつったら、まあ、できることが
ないわけじゃねェ」
ガトウの言うできる事とは、ドラゴンとの徹底抗戦であった。自衛隊、ムラクモ機関との共闘でドラゴンに挑み、人類の居場所を奪い返すのである。しかし、勝算はかなり低くもあった。
「ドラゴンと戦うなンて死に急ぐ真似をしたくねェなら、それもいい。食糧が尽きるまで寝て過ごすのもシュウの自由だ」
「私の……自由……?」
「あン? オレか? オレはそんなのはゴメンだ。いつまでもドラゴンどもにいいツラさせておくつもりはねェ」
ガトウは、ベッドから立ち上がった。
「あァそうだ。トウジとリアンだが、一ヶ月前、お前が寝てた頃に回復して作戦に参加してる」
作品名:セブンスドラゴン2020 episode GAD2 作家名:綾田宗