静雄の扱い
「どうでもいいよ。つまらない話だなあ」
その顔に薄笑みが浮かべられている。元が整った顔であるためか、そうやって笑うとき、彼はひどく残酷そうな雰囲気を帯びる。
「おれはシズちゃんなんか大嫌いだから、そんなことはどうでもいいよ。想像したくないし、知りたくもないね」
いや、でも、さっき、嫌いだからなんでも調べたって言ったよね? 嫌いな相手の弱点ならどうでもいいってことはないんじゃないかな?
なんでも知っておきたいんじゃ……と口に出しかけ、新羅は寸でのところで飲み込んだ。
なんとなくわかってしまったのである。
なんで気づいてしまったんだろう。よけいなことを知ってしまった。
まあ、確認したところで臨也がイエスと言う日はこないだろうし、そもそも確認する気もないから別にかまわないんだけど。
「帰るのかい?」
玄関に向かう臨也に問うと、彼はコートのポケットに両手をつっこみ、軽くおじぎするような仕草をした。
「セルティが戻ってこないなら、いても仕方ないからね」
その顔はもういつもの通りだ。爽やかな笑みは、彼の内面を知る者が見ると果てしなくうさんくさい。
「きみが来たことは伝えておくよ。帰り道に気をつけて」
「ああ、シズちゃんに出くわさないようにせいぜい遠回りしていくよ」
送りに出た新羅に、臨也はやはりうさんくさい笑みを向けて言った。
しかし新羅は知っていた。
臨也はこのあとおそらく、いや確実に、静雄と鉢あわせるだろう。何もそこを通らなくても、と思うような路地をわざわざ選んで。静雄に見つかり、名前を叫ばれ、追い回される。そして彼は「死ねばいいのに」とつぶやいて、口の端を笑みに似た形にゆがめるのだ。
去っていく彼の背中、ひるがえるコートの裾、閉ざされる扉。それらを見つめながら、新羅は思った。改めて。
----どこまでも屈折した男だよ。