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君が幸せであるように

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「由来が近しいくせに鍛刀結果を出せない僕を近侍から外したじゃないか! 白山吉光なぞせいぜい第四部隊で祈りを捧げるのだけがお似合いの剣だろう!」
清麿の目が釣り上がる。僕と清麿が出会って初めての喧嘩だ。他の男士を口撃するのを初めて見た。焦りで背中に汗が流れる。
「白山は関係ないだろ。清麿もわかってるはずだ。新たな戦力を投入するためにできる努力があるなら、手を抜くべきじゃない」
「鍛刀以外に身が入ってないんじゃないか? ……あれだけの資源を消費しておいて綺麗事を並べるなよ。なにがなんでも江戸三作をコレクションしたいって言え。でもおあいにくさま、一角は崩れてもう揃わない。大体あいつは一体何をしているんだ。お前がいたら水心子が折れることなんてなかったはずだろう。あははは」
吐き捨てたあと首がぐるりと上を向いて傾げられ、見開かれた目で顔を覗き込まれる。
「ねえ君、僕の心配をしてくれているフリをしているみたいだけれど、もしかして自分が壊れていないとでも思っているのかい?」
「フリじゃねえよ……もう主とも呼んでくれないんだな」
「親愛なる君を、僕はとても心配しているよ。綺麗に洗って汚れを流して壊れた部品を取り替えて元通り、それは君が作ったおもちゃの話。刀工の修行を積んだ君が審神者になって毎日毎日、時には一日何百と自分で作った刀を刀解するってどんな気持ち? 研究成果が出るわけでもないのに、お気に入りと同じ顔をしているまっさらな名刀を刀解したあとまた素知らぬ顔で同じ顔をした刀を汚して刀解してさ。我が子を間引いたり、痛めつけて殺すようなものなのかな。そんな生活を続けて正常なわけないじゃないか。お優しい君の魂の在りかたとかけ離れているはずだよ。報いを受けた水心子より、よほど穢が溜まっている」
言ってくれる。怒りとも悲しみともつかない冷たい視線から投げつけられる言葉はどんどん速さを増して流れて出る。心当たりがないわけでもない僕に返す言葉など出てこない。
「しかも君には穢を移す依代なんてないんだよ。人間なんだもの。審神者も男士も所詮使い捨て。僕らは暴走した本能の奴隷になって政府は新しい本丸を生やす。終わりのないイタチごっこの永遠機関。親愛なる君はそれを納得していて、お気に入りの刀に囲まれている。憧れの刀に出会えて嬉しかったよね。そんな今がとても充実しているようだから、僕が少しでも長く続くようにしてあげるよ」
届く言葉は少しも穏やかではないものの、声のトーンだけはやわらかく戻った。
「今は僕のことはどうでもいい。どんな形でも清麿にここにいてほしいんだ」
ようやく絞り出した言葉がどんなに残酷なのものなのかはわかっているはずだった。清麿に届くわけがない。
「どうして? 僕なら、君の穢を引き受けられるんだよ? 君は水心子が血を流して確立させた新々刀の技術を受け継ぐ刀工だもの。刀工はすごいんだよ。この世界を守る力がある。君が才能ある刀工でよかった。せめて僕が政府刀のままなら墜ちた君と検非違使で同僚になりえたけれど、夢物語だったね。僕は道を切り開く。君も助けてあげられる! みんな幸せだ! ……ねえ、あと少しなんだよ。その穢を僕にちょうだい」
清麿の左手がぼうと光る。僕の胸に迫る。身体から風が吹き出すような錯覚。
「ほらやっぱり。移せるじゃないか」

光が離れた瞬間、僕の願いが叶って時間が巻き戻っていたのかと思った。見慣れた笑顔が見える。
「今、やっと人間から穢を移すデータが取れた。こうでもしなきゃ主は穢なんか渡してくれないよね」
巻き戻ってなんかいない。目の前の身体がみるみる形をなくしていっている。
「さっき僕がローカルに上げたデータ、政府に回収される前にコピーして大慶と南海先生に渡してほしい。僕のアイデアが通用するかはわからないけれど、穢の防御ワクチンプログラム理論、思いついたんだ。僕のような異常個体には、対応できないだろうけど、あいつは水心子を超える弟子だもの、なんとかするかもしれない。あと主と僕のバイタルデータも、審神者の浄化研究は、だれか、に」
置いて行かないでくれ。喉がくっついて声が出ない。まだありがとうを言えていない。出会ってから一度も。
「僕が墜ちるのは、主のことがなくても今日だった。僕は納得しているし、気にしないでほしいな」
いつもと変わらないほころんだ口元。赤い輝きを増した目。目を合わせたまま逸らせない。服の落ちる音。ピアスが床に跳ねる。効果音の見えるが如き黒い霧。鍔鳴り。笠を被る音。気配が消える。動き続ける通信機。



「あるじさま。付喪神の反応を確認。鍛刀、完了しました。打刀、大慶直胤」



報告
報告者:■■国■■本丸No.■■■近侍白山吉光

■■■■年■■月■■日■■時■■分■■秒■■
■■国■■本丸No.■■■通称源清麿リアルタイムバイタルデータの途絶

於■■国■■本丸史実記録通信室
当該地点にバイタル調整処置の形跡あり。
別項にて同清麿バイタルデータの写し、■■本丸審神者■■■■バイタルデータの写し、関係者聴取記録、政府調査員報告書、同審神者■■■■による覚書の5点を添付。

固有残留物
途絶地点にて内番着、ピアス、ヘアピン
同源清麿居住部にて鞘、制帽、戦闘服、手袋、靴、内番用靴、和服、長袖シャツ、帯、足袋、草履、ペンダント、日誌、未完成報告書、研究ノートを確認。
上記を政府聴取担当第■課へ即時提出。

以上



報告
報告者:政府■■省第■課■■班No.■■■■■山姥切長義
■■■■年■■月■■日
固有残留物消滅確認

■■■■年度物証保管庫結界保存群整理点検に於いて管理No.■■■■■■■■源清麿鞘及び戦闘服一式の消滅を確認。同源清麿固有残留物を政府合祀舎へ移管とする。

以上









報告
報告者:政府■■省第■課■■班No.■■■■■和泉守兼定
■■■■年■■月■■日〜■■■■年■■月■■日
■■国■■本丸接続履歴在所放棄された世界並びに合戦場全般に於ける編成妨害機構及び中傷コントロール機構停止報告付項


元政府所属■■省第■課■■班No.■■■■■通称■■■■について
■■■■年■■月■■日
史実データベースの特定項を誇張したデータを作成し、同史実データ当該箇所を改ざん。同史実データベース内複数箇所にコピー。史実通信接続の本丸所属特定刀派並びに特定所属履歴在所刀複数に送信拡散
■■■■年■■月■■日
■■国■■本丸ローカルデータベース書き込み権限入手。同本丸作成3Dデータを再生可能偽装ウイルスに書き換え
■■■■年■■月■■日
リアルタイムバイタルデータ途絶
■■■■年■■月■■日
史実データベース上の活動履歴を第■課が確認。結界保存固有残留物の特別監視を決定
■■■■年■■月■■日
改ざんされた史実データ及び元資料データ群を有害指定の上隔離を決定。削除の方針を検討
■■■■年■■月■■日
青野原出現検非違使部隊所属通称放免3Dデータ照合。刀型完全一致。破壊ののち同日監視指定戦闘服の消滅を確認。


以上
作品名:君が幸せであるように 作家名:さかな