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あの子ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう

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 スパ、っと。
 落ちるボールに、歓声が轟く。無理と思えたパスを通し、無謀と思えたボールを盗む。繋ぐ攻撃はゴール下から、フリースロー・ラインから。笑えるくらい決まるシュートと、相手チームのぎこちないディフェンス、遠慮がちなオフェンスのおかげで、点差はあっという間に跳ね返された。
 嘘みたいな逆転の光景だった。
 まさか、相手チームが突発性集団食中毒を起こしたわけではあるまい。一体どんな魔法を使ったというのだろう。試合は誰の目にも明らかなほど、折原臨也ただ一人の存在にかき回されていた。
 正確無比なプレイと爽やかなルックスをセットで見れば、臨也ならそれを可能にするのかもしれないと思うところはある。だが、直感と経験則的に、静雄は臨也流の”裏技”を確信していた。
 具体的な手段と、動機は不明だけれど。
「すごいな、折原のやつ。一人で何得点稼いでるんだ? 途中、急に相手チームの動きが鈍くなったけどあれは――平和島?」
 隣に並ぶ静雄を振り返って門田はぎょっとする。つまらなそうにバスケットコートを見下ろす静雄の、その手元、まるで飴細工のようにぐにゃりと、鉄製の手すりがひん曲がっているのだ。
 ちょっと引いてしまっている門田をよそに、静雄は低く呟く。無関心に含まれる微かな嫌悪感。まるで道端で犬の糞を見たという風に、
「くだらねえ。」


 勝算は初めからあった。来神高校に入学が決まった時点で、臨也は生徒を始め教員やその親類縁者に至るまで必要とされるであろう情報を集めていた。それは現在も継続中で、データベースは日々最新版へアップグレードされている。明確な目的などありはしないし、ひょっとしたら一生活用することのないハードディスクの肥やしかもしれない。いや、むしろその確率のほうが高いだろう。だが、億が一にも”その情報が必要とされる場面”が訪れる可能性があるならば、そのための備えをしないわけにはいかなかった。
 上気した頬に温い汗が伝う。さすがに十分間走りっぱなしは身体がきつい。緩いドリブルでボールを弾ませながら、臨也はコートの中を見回す。自分に手が出せないと見るや、相手チームは臨也を孤立させる布陣に出ていた。
 赤ゼッケンの選手と対峙した瞬間、臨也はそれぞれに爆弾を仕掛けていた。他人からすれば、取るに足らないような”情報”。しかしそれも使いどころによっては、強力な切り札となる。
 誰にだって人に知られたくない秘密はある。隠し持ったカードをちらつかせて、揺さぶって。たかが球技大会のために破滅したいのかと脅しをかければ一発だった。ディフェンスは甘くなりオフェンスには勢いがなくなる。イージーモードでNPC相手に戦っているようなものだ。
 試合時間は残り三十秒。後半から出たおかげでまだ体力も残っているだろう飯田にバウンドパスを出す。上がる息を殺して臨也は走り出す。運ばれるボールの到達点を目指して、汗で滑りそうな体育館シューズを前へ踏み出して、マークを振り切りスリーポイント・ラインぎりぎりへ。
 男女も学年も入り混じったような声援が背にかかる。だが、そんなものはどうでもよかった。学校行事もクラスメイトも勝敗も関係ない。そんなものに心血注ぐ柄ではない。
 ただ、平和島静雄が見ている。
 そのことだけが、最後まで臨也の心に引っかかった。
 赤ゼッケンの猛攻を押しのけパスが放たれる。両の掌にボールを収め、臨也はシュートモーションに入った。
 ただ、静雄の反応が見たかった。
 もしも自分が、物語の主人公のように奇跡の逆転劇を作り上げ、スター性を遺憾なく発揮して一年生の人気者となったら。嫌われ者でのけ者でどこへ行ってもよそ者で一人ぼっちな平和島静雄は、どんな顔をするだろうか。
 呆れるか、妬むか、劣等感に襲われるか嫌悪感を剥き出しにするか。いずれにしてもその反応はエキサイティングだ。ヒーローとなった自分は静雄の目にどう映るのだろう。あのモンスターの心にどんな影響を与えるのだろう。考えれば考えるほど胸は躍って、球技大会ごときで“情報屋折原臨也”を安売りすることにも悔いはなかった。
 歓声の中膝を曲げ、腕を伸ばし。疲労などまるで知らぬげに心底楽しそうな表情で、きらきらと目を輝かせて。
 臨也は、ゴールリング目掛け綺麗なロングシュートを打った。
 体育館二階観客席。静雄が退屈そうに試合を眺めていることなど、まだ知らない。どんな手段を用いてヒーローとなろうがヒールとなろうが、自分の存在が静雄の心を動かすことはないのだという事実に、一年の五月、臨也はまだ気づいていなかった。