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あの子ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう

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 不意に移る臨也の視線に、新羅もつられる。体育館の端から相手チーム、観客のクラスメイト、バスケゴールへと流れて二階、卓球場近く。手すりに持たれかかり、試合を観戦する二人組。
 恰幅の良い男子生徒と長身の黄色信号は嫌でも目立った。門田恭平と平和島静雄。話題の渦中であるその人が、臨也たちの遥か頭上、来神高校体育館二階観客席に、いた。
「あれ。静雄くんと門田くんじゃん。あっちはもう試合終わったんだね。勝ったのかな負けたのかな」
「シズちゃんが待ち構えるサッカーゴールに、ボールをぶち込む勇気のある奴なんていると思う? 終わったんならさっさと帰れば良いのに、物好きなことだね」
 言って、臨也はポケットから手を抜きその場を離れる。
 壁にかけられた時計の秒針は着々と時を刻み、ハーフタイムを削っていく。前半戦は適当に指示やパスを出すだけで過ごしたため、これといって体力や精神力に消耗はない。たかだか学校行事の球技大会にかける情熱など、折原臨也は持ち合わせてはいなかった。試合で大活躍して女子にキャーキャー言われたいという願望もないし、スポーツを通じて同級生と親睦を深めたいとも思わない。わざわざ球技大会などというイベントを引っ張り出さなくとも、笑顔と当たり障りのない会話だけで、他人と距離を縮めることは出来たから。
 でも。
 未だぐだぐだやっているチームメイトに近づき、肩を抱く。相手チームとの点差は二十点。跳ね返すには、徹底した攻撃が必要だ。たとえ多少ダーティな手だったとしても。
「みんな、耳貸して。――提案があるんだ。後半十分、ボールは俺に集めてくれないか。パスを回して、取ったら俺が速攻決める。これでもシュートの決定率はいいほうだし、多分、俺は相手からがちがちにマークされることもない。勝算があるんだ」
「勝算って、なにを根拠にそんな、」
「試合に勝ちたいんだろう? 大丈夫、俺を信じてよ。俺は、あの平和島静雄を手玉に取る男だよ?」
 手玉に取っているかどうかは不明だが、来神高校のゴジラと名高い平和島静雄の怒りを買って、未だ生き延びている臨也の言葉には説得力があった。ついでに整った顔に浮かぶ爽やかな笑顔が、スポーツマンらしく見えないこともない。
 意図せずして、円陣めいた姿勢となったチームの顔に光が灯りだす。このまま試合に臨んでも、くさった精神状態ではフクロにされるのがオチだ。ならばいっそ、やたらに自信満々なクラスメイトに賭けてみるのも悪くはない。
 後半の開始を知らせる笛が鳴る。
 背筋を伸ばしバスケットコートに戻る臨也を、新羅は心底意外という風に見送った。
 審判が真上に投げるバスケットボール。
 ジャンプボールを叩いたのは黄色いゼッケンで、落ちたボールはチームメイトがすかさず確保。先制するとともにパスが放たれ、ボールを受けた臨也は走り出した。


 野太い応援と黄色い声援の入り混じる体育館。建物二階で行われる卓球の試合を見に行ったものの、クラスメイトのチームは既に敗退、仕方なく他クラスのバスケットでも観戦しようかというときだった。
 階段を上がってすぐの観客席から見渡せるバスケットコート。後半試合開始とともに渡るパス。相手チームの間を走り抜けものの十秒としないうちに決まるレイアップシュートに、門田京平は身を乗り出した。
「やるな、あいつ。あんなに細っこいのに、バランスが良いっていうか。確か折原……なんだっけ、折原ナントカ。平和島とよく一緒にいる、」
「オリハライザヤだ。別に好きで一緒にいるわけじゃねえ。あいつが勝手に絡んでくんだ」
「へえ。で、そのお前から見てどうよ。折原って運動神経いいのか?」
「さあな。まあ、逃げ足は速かったけど」
 球技のほうはどうかな。見下ろすバスケットコートの中、ボールを拾った相手チームが臨也たちの黄色いゼッケンと睨み合う。掌と床とを往復するボールのリズムに淀みはない。いかにも慣れた風を感じさせる相手に、しかし、黄色いゼッケンは食らいつく。
 キュッキュ、と、まるでイルカが歌うように擦れるシューズのソール。相手のマークに赤ゼッケンがフェインとを仕掛けるような素振りを見せた瞬間、抜かれる、と門田は思った。が、一秒後に聞こえたのはドリブルの猛攻ではなく激しいバウンドで、ボールを叩いたのは、再びあの、折原臨也だった。
 とられたボールがコートを巡る。もちろん相手チームもすぐさま走り出すが、的確なパス回しに手は届かない。まるであらかじめ誰に振るか決められていたような流れだ。たかが球技大会のために集められた急増チームには思えない。誰か経験者でもいたのだろうか。
 後半二本目のシュートに観客が沸く。後半試合開始持、臨也たち黄色チームと相手の赤チームとの点差は二十点あった。そこからの追い上げと思えば、確かに、興奮する気はわかるのだけど。
「――なあ、どう思う。あいつら、逆転勝ちするかな」
 手すりに肘をつき、静雄は冷めた表情のまま、
「――今のは、まだ相手も油断しててすんなり入ったかもしれねえけど、これからは難しいんじゃねえの。前半どうだったか知らねえけど、後半早々あれだけ動いたんだ。向こうだってあのノミ蟲野郎を気にするだろ。残り時間ずっと」
 ノミ蟲野郎?
「しつこく張り付かれて、それでもまともに動けるだけの体力があいつにあるとは思えねえ。他に点を繋ぐ奴がいなけりゃまず負ける。まともに、正攻法でやりゃあな」
「正攻法以外で、どうするんだよ」
「そんなもん俺が知るかよ。知りたくもねえ。あいつが考えるような裏技なんか、思いついてたまるか」
 ということは、静雄は臨也がなにか勝算があってああいう行動に出ていると踏んでいるわけだ。伊達に入学から今日に至るまで無駄に争いを繰り広げていない。相手の性格はよく理解している。
 点差は縮まり二十八対十六点。ダブルスコアは返上したものの後半からの勢いは徐々に衰え、シュートは端からブロックされていた。いくらボールが集まっても点が入らなければ意味がなかった。スクリーンアウトはすぐに横から抜かれ、リバウンドは適わない。ディフェンスへの切り替えの速さはなかなかだが、チームの体格差を考えると(赤チームはいかにも運動部という面々が揃っていた。なんとも)それもいつまで持つか。
 折原頑張れー! ディフェンスしっかりー!
 男女入り混じりの声援がコートに響く。力強いドリブル。噴き出す汗。茶髪の赤ゼッケンと向き合う臨也の顔に、疲労の色は強く残る。が、その瞳に宿る闘志の炎は決して褪せることなく、鋭く相手の目を捉えていた。手を抜くつもりも勝ちを諦めるつもりもない。そんな表情で。
「あっ」
 不意にマンツーマンでやり合っていた茶髪から、臨也がボールを奪い取る。ファールに掠りもしないようなスティール。それまでの動きからは考えられない、まるで、唐突に尿意でも催したかのように不自然に、茶髪の身体が強張ったのだ。その隙を逃さず臨也は走る。同様に相手チームが行く手に立ち塞がるが、なぜか臨也と対峙した途端ガードは緩くなった。赤いゼッケンの隙間を縫って斬り込む黒髪。規則的なドリブルから入るシュートモーション、投げられたボールは弧を描き、誰に阻まれるでもなくリングへ吸い込まれていった。