D.C.III.R.E
「ああ。外から聞こえる音の中で、この船の汽笛だけこの空間まで聞こえるように調整しておいた」
「よくそんなこと出来ますね」
「乗る時に聞いたし、楽勝よ」
「それにお前ら二人はこの空間を維持するのに精一杯だろ?」
ユーリさんの言う通り、俺とカレンさんの集中力は切れてきていて、この空間の一部が揺らいでいる。それでも保っているのは、リッカさんとユーリさんが持たせてくれてるからだと言うのは分かっていた。
「さ、起きましょ」
「起きて突然変な声出すなよ」
リッカさんとユーリさんが微笑み、二人揃って指を鳴らした。
刹那、視界が白く包まれた。
● ● ●
目が醒めて最初に感じたのは、疲労感。魔力の消費が激しかったので、寝ていて体力を回復するよりも大きな疲労を感じているようだった。
これは、暫くの研究テーマかもしれない。
「起きたかしら?」
「ええ、少し疲れましたが」
「無理もないな」
「うん。道筋を作っただけの私はともかく、空間の維持にリソースを使ってた清隆君は、かなり魔力を消費してたはずだよ」
カレンさんの言うことは正しいらしく、俺と対照的に元気そうだ。
「まあ、今日は無理せず休むことね」
「そうします」
外を見ると、既に船は岸に着いているようだった。
俺達は揃って船を降り、寮までの道を歩いた。
「それじゃ、俺達はここで」
「フラワーズで御飯食べて帰ります」
「分かったわ。私達はこのまま帰るわ。清隆を早く休ませてあげなきゃ」
「そうするといい」
「すみません」
「気にしないの。かなり大きな魔法を使ったんだから」
「それじゃ、また」
「また生徒会室で」
俺達は手を振って別れた。
「どうだった?」
「そうですね、直接触れて夢見の魔法を使うのと違う分、魔力の消費を多くしないといけなかったのがキツかったです。今後の課題ですね」
「魔法使いとして勤勉なのはいいことだけど、そうじゃないわよ。私達の事よ、気になってたんでしょ?」
「……すみません、触れちゃいけないかと」
「構わないわよ。周りに誰もいないもの」
「そうですね」
俺は少し目を伏せて考えた。
「リッカさんがユーリさんを気に掛けてた理由が分かりました。それとユーリさんが魔法使いとしての知識やスキルが大きいのも」
「そうね。彼は禁呪によって得たマイナスを逆に利用してプラスに変えてる。やってしまったことはいけないけど、それと同じくらい凄いことをしてるのよ」
「はい」
俺も隠してはいるものの、人よりは長く生きている。
リッカさんとユーリさんはそれ以上に途方もない時間を生きてる。
積み重ねてきた時間がそのまま魔法使いとしての力になった二人。
俺も同じくらいの魔法使いになれるだろうか。そして葛木の鬼の力から、家を解放できるのか。
それはやってみなきゃ分からない。
でも出来る限りの努力はしよう。
俺はその為にこの風見鶏に来たのだから。
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr