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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
novelistID. 26082
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D.C.III.R.E

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 そう言うリッカさんは遠くを見る目をしていた。
「あの時の小娘とこんな永い関係になるとは思ってなかったけどな」
「私もよ」
「それでユーリさんもリッカさんも知り合ったんですね」
「ユーリさんは、そんなリッカさんとジル……さんに何も思わなかったの?」
「思うかよ。自分からかなり歳の離れた小娘だぞ?」
「自分からかなり歳の離れた小娘は目の前にも居るよ?」
「……」
 ぐうの音も出ないと言った顔。
「はいはい。話の続きするわよ」
 そうだった。
 今日の本題はリッカさんとユーリさんの知り合った時の話だった。
 ……あれ?知り合った時の話は今ので終わりでは?
「次に会ったのは、あの時か」
「そうね」
「言いにくいだろう。ここからは俺が貰おう」
 リッカさんが言いにくいこと。
 大体察しがついてしまった。
 そんな俺の思いを知ってか知らずか、ユーリさんは語り始めた。



     ●     ●     ●



 景色が赤く染まっている。
 燃える焔が見える。
 俺はその中を走っていた。
 とある集落で魔女狩りが行われる。まるで見世物にでも誘うかのように知り合いに誘われた俺は、いてもたってもいられずに走った。
 後で何を言われるか分からないが、そんなことは今はどうでもいい。
「間に合え!」
 口から漏れたその言葉は夜の寒空に溶けていく。
 嫌な予感がする。
 カイの魔法が使えれば、こんな思いをしなくても良いのに。
 一種のもどかしさを抱えながら、俺は走った。
 走った先で見たのは、最悪の状況だった。
「リッカちゃん、その娘は」
 以前雨宿りに来た少女が、共に連れ添っていた少女を抱き抱えて泣いている。
 その状況だけで俺は全てを理解した。
「立てるか」
「無理……かも……」
 そうだろうな。
 俺は声には出さずにしゃがんで、眠る少女の手首に触れた。
 遅かった。
 行き場のない怒りに震える。
 だが今はその時ではない。声が聞こえた。
「そこにいるぞ!」
「魔女を連れ去ったんだ!あの女も魔女に違いない!」
「一緒に焼いてしまえ!」
 物騒な声だ。
 物言わぬ体と、疲れきった少女を連れて逃げるのは骨が折れそうだ。
「仕方ないか」
 俺は二人を背にして立ち上がり、追手が来る方を睨む。
「もう一人いるぞ!」
「奴も仲間か?」
 追手はその手を緩める気はないらしい。
 やむを得んか。
 俺は足元に魔方陣を展開した。それに一気に魔力を流し込み、この一帯の土地を覆った。
「……っ」
 指を鳴らし、展開した魔方陣から魔力を放出した。
 行使した魔法は、周囲の人間に恐怖を与える魔法。最低限、リッカ達には影響が無いように配慮はするが、その他に遠慮する必要はない。フルパワーで魔法を行使した。
 魔法は成功し、追手は声も挙げられずに逃げていった。
「やっべ、流石に力使いすぎた」
 時間が惜しかったとはいえ、無茶しすぎたか。
 俺はその場に倒れ込んだ。
 その後の事は覚えていない。



 気付いた時、最初に白い壁を見た。
 違う。
 それは天井だった。
「起きたかしら」
 聞こえた声に顔を向けると、そこには少女が居た。
「リッカちゃん?」
「リッカでいいわよ。多分、貴方と同じく長く生きてるもの」
「そうか。なら俺もユーリでいい」
 リッカは俯いていた。
「助けられたわね」
「俺の方こそ。ここまで運んでくれたのはお前だろう?」
「そんなの帳消しになるくらい、助かったわよ。危うく私も死んでたかも知れないんだし」
 それもそうか。
「ジルちゃんは?」
 リッカは首を横に振った。
 分かってはいたが、流石にクるな。
「でも、貴方のお陰で最後の別れはしっかり出来たわ。ありがとう」
「最初に会った時言っただろ。魔法使いは放っておけないと」
「そうだったわね」
 リッカは目元を拭って立ち上がった。
「それじゃ、私は行くわ。貴方は顔を見られてないから暫くは大丈夫だと思うけど、私はしっかり見られちゃったから」
「ああ、気にせず行け」
 魔女狩りを行った者達に見られたんだ。流石に危険だろう。
 俺はリッカを引き留めることはなく、見送った。
「お前は生きろよ」
 そう背中に告げて。



     ●     ●     ●



 話を終えたユーリさんの瞳は濡れていた。
 ジルさんの事は全て知ってる。
 その裏でそんなことがあったとは。
「あの時ユーリが助けてくれなかったら、私はジルと運命を共にしてたかもしれない。だから私は恩を感じてる」
「気にする必要はないと言っているのに。俺はやりたかったことをやっただけだ」
 でもちょっと納得したこともある。
 リッカさんは口ではユーリさんに結構なことを言うこともあるけど、かなり気に掛けている。
 それは昔からの付き合いがあったから。そして自身の命と、親友との別れの時間を守ってもらったから。
「ユーリさんにとって、魔女狩りは重要なファクターだね」
「そりゃ、ジルちゃんや多くの同胞を喪っているからな」
「それだけじゃないもんね」
「今思えば、貴方も大事な人を魔女狩りで喪ってたわね」
「ユーリさんが魔女狩りで喪った大切な人、聞いても良いですか?」
「ここまで来たら隠さんよ。俺の両親だ」
「……すみません」
「いい。それが遠因で今の俺があるといっても過言ではない」
「それは魔術の話ですか?」
「そうだ」
「貴方は喪った家族を求めて禁呪を行使したのだものね」
「えっ……」
「ユーリさん、それ話していいの?」
「リッカが一番話したくなかったことを、俺の口から話したんだ。それくらい構わんよ」
 さらっとリッカさんが言うから口を挟めなかったけど、とんでもないことを聞いた気がする。
「それにこの中だと清隆だけが知らないからな」
 そう言って話を続けるユーリさん。
「さっきも言った通り、俺は魔女狩りで両親を喪っている。まだ若かった頃の俺は、その現実を受け入れられず、禁呪を行使して力を得ようとした。結果魔法を失い、死ねない体になった」
「長く生きてるのは、リッカさんのように目的があるからではないと?」
「ああ」
 研究を目的として、体の成長を止めて長く生きる魔法使いはそれなりにいる。現にリッカさんもかつてはそうだった。だからユーリさんもそうなんだろうと思ってたけど。
「まあ、これは俺が弱かったからが故に招いた結果だな」
 何も言えない。
 そう軽々と言い返していいものかと思う。
「……さて、しんみりした話は終わりだ。これがお前達が知りたかった俺とリッカの知り合った時の話だ」
 そうだ、その話をする為にこの場を設けてもらったんだった。
「ありがとうございます、我が儘を聞いてもらって」
「思ったより大きな話でしたね」
「そうでもないさ」
「ジルとの話はともかく、出会いの方はね」
 確かに。
 ――不意に汽笛の音が聞こえた。
「そろそろ着くみたいだな」
「あの音、この空間まで貫通して聞こえるんだ」
「俺達の力が弱かったんですかね」
「いや、俺達がわざと聞こえるようにしておいたんだよ」
「……まさか」
「さっき清隆が言ったんじゃないの。この空間は私とユーリの魔力で覆われてるって」
「はい。って、まさか」
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr