D.C.III.R.E
「いいわね。今日は私が腕によりをかけて料理を作っちゃうわよ!」
「私もお手伝いします!」
「姫乃、今日は貴方はお客さんなのよ。休んでなさい」
「ですがリッカさん……」
「久しぶりに兄妹水入らずで過ごしなさいな。積もる話もあるでしょう?」
「リッカ……。ありがとう」
「清隆にも姫乃にも、日頃からお世話になってるからね」
「リッカにもそんな気遣い出来たんだな」
「ユーリは黙ってなさい!」
一同大笑い。
しかしカレンの提案にも、リッカの心遣いにも賛成だ。俺もリッカを手伝うとしよう。
暫くして学校から帰ってきた芳野家の姉妹を含めて晩餐の準備を進める。
皆で集まり、食卓を囲む。これだけでも十分幸せなことで。
姫乃を含めた晩餐会は、賑やかに時が過ぎていった。
◆ ◆ ◆
俺はすぐに決断した。
これ以上呪われた体を放置するのは良くない。
それにカレンにも長く生き続ける不老の魔法で体に負担を掛けているだろう。
ならばやるべきことは一つだ。
十一月三十日。
今日は俺の誕生日だ。そして全てが始まった日でもある。約二百と数十年前、俺は禁呪<最後の贈り物>を実行した。ちょうどその禁呪の書かれた本の解読を始めたのがこの日だった。
そして今度は、その逆の事を始めようとしている。
場所はとある桜の木の真下。その手に持つのは清隆が譲ってくれた魔導書。近くにいるのは俺の妻のカレン。
「ユーリさん、大丈夫?」
心配そうに見守るカレン。
俺はその言葉に笑顔で答えた。
「ああ。問題はない。入念に準備はしてきた」
俺は魔導書を開き、そこに描かれている魔法陣を周りに記していった。その各頂点に自分の指を切って血を数滴垂らしていく。その傷もすぐに修復されたことから、未だ自分に呪いが掛かっていることを再確認する。
今から俺が行おうとしている儀式は、"逆転の魔法"。解読した魔導書に記されている通り、術者自身に後天的に掛けられた魔法的異常を取り除くための儀式。
「行くぞ」
準備が完了し魔法陣の中心に立った俺は、腕を交差させて魔法陣に魔力を流し込んで行く。刹那、魔法陣が淡く光り出し儀式を開始できる状態になったのだと俺は知覚した。
「カレン、離れていろ」
俺の言葉で危険があるかもしれないと理解したカレンは、少し離れた場所で俺を見守る。
しかし周囲のマナの流れを読んで問題はないと悟った俺はパンッと手を叩き、直ぐ様手を魔法陣の上に翳した。その瞬間、俺の仲でなにかが逆流するような感覚が走り出し、背筋が強張りだした。俺はそれを反発せず受け流すようにコントロールし、流れ出る何かに堪える。流れて出ていくものは、恐らく禁呪による不死の力だろう。徐々に俺の中で何かの放出が止まり、魔法陣の輝きが止んだ。
俺はどっと来る疲れからその場で倒れ込む。何かデジャヴを感じたが、気のせいだろうか。
直ぐにカレンが駆けより、俺を抱えて起き上がらせた。
「大丈夫、ユーリさん?」
「……ああ、大丈夫だ。疲れているだけだ」
肩で息をしながらも、俺はカレンに笑顔を向ける。
カレンは俺に無理させまいと自身の膝の上に俺の頭を載せた。
なんだか昔見た夢のイメージと逆になった感じだ。
「体の調子はどう?」
「少し待て」
俺は自分に対して分析魔法を使った
どうやら膨大な魔力は残ったものの、俺の中から不死の力は綺麗さっぱり消え去っていた。
ただし代償として魔法を使う力は失ってしまったらしい。試しに魔法を以前の方法で使ってみたが、何も起きなかった。しかしそれは魔術という方法で解決済みだ。
何も問題はない。
俺は手を伸ばしてカレンの頭を撫でた。泣きそうな顔をしながらカレンははにかみ、されるがままになる。
「これで全部解決だね、ユーリさん」
「ああ。俺の中の禁呪は消えた。お前と同じ時を過ごせる」
カレンは上体を倒すと、俺の唇に自身のそれを重ねた。
そしてもう一度微笑むと、俺を見つめた。
「それじゃ、私のこれもお役御免だね」
カレンは意識を自身の体に集中させ、一つ魔法を解除した。
俺には分かる。これはカレンが自信に掛けていた加齢を抑制する魔法だ。
俺が禁呪を解呪した今、この魔法はもはや無意味だ。
「ありがとうな、カレン。ロンドンの時からずっと、今まで俺を支えてくれて」
「それはこっちの台詞だよ。今まで私の隣にいてくれて、ありがとう」
名残惜しいが、俺はカレンの膝枕から起き上がると、体力を回復させる魔術を行使し、けだるい感覚を消した。
そしてカレンの手を取り立ち上がることを手伝うと、そのまま手を繋ぎ桜を見上げる。今は枯れて花は付けていないが、また次の春も綺麗に咲き誇るだろう。その時はカレンと一緒に花見に来るのも悪くない。
その時はリッカ達家族も一緒でも良いだろう。
考えた後、俺とカレンはその場を去る。
「行こう、ユーリさん」
「ああ」
短く頷くと、俺達は夕日を背に歩み出す。
俺はこれで元の魔法使いに戻ることが出来た。だが俺はもう魔法を使うことはあまり無いだろう。魔法を使わなくても、隣にはカレンがいる。それで十分だった。
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr