D.C.III.R.E
◆ ◆ ◆
鼓動が早くなる。
握る手に籠る力が強くなる。
目の前で微笑む最愛の人がいる。
その腕には赤子が抱かれている。
そっとその体に触れる。
確かに感じるその存在に、俺は表現しきれない感情を抱いていた。
「ほら、貴方の子だよ」
「ああ」
「どうしたの、そんな放心したみたいに」
「実感が湧かないんだ。家族を持てないだろうと全てを諦めていたはずなのに、今目の前に新しい家族がいるなんて」
「でもそれは現実だよ。だってこうして触れられるんだもの」
「……そうだな」
俺は改めて赤子を撫でる。
その存在を確かめるように、大事に、大事に。
「名前は、前に決めたあの名前でいいの?」
「勿論。この子には水鏡に映る桜の様に、裏表なくまっすぐに育ってほしい。ならこの名前がぴったりだ」
「そうだね」
妻も赤子を撫でる。
満足そうなその顔を見て、俺も心が満たされていく気分だった。
「ありがとう、カレン」
「私の方こそありがとう、ユーリさん。私の家族になってくれて」
俺達は暫くその幸せを噛み締めていた。
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr