D.C.III.R.E
「いただきます」
作ってくれた朝ご飯を咀嚼する。
私よりおいしいのムカつく。ううん、これは作ってくれた人の気持ちがこもってるからおいしいんだ。
「それでさ、ユーリさん。さっきの話」
「ああ、可憐の夢の話な」
「早く起きたって言ってたけど、私の夢が流れ込んできてるって気付いてからずっと起きてたの?」
「いや、気付いた時にお前の夢が俺以外に流れないように魔法を掛けて、もう一回寝た」
なんと器用な。流石カテゴリー5の<失った魔術師>。
いやそれって。
「ユーリさん以外って」
「お前の魔法が暴走してたのが原因か、それとも他の外的要因かを調べる為だ。許せ」
「まあ、それなら仕方ない」
「とは言え出会った時にざっくり聞いてはいたが、かなり苦労したんだな」
「……まあね」
「そんな言葉で済ませていいものではないだろ」
「そうだね」
いや、まあ。そうなんだけどさ。
それよりも気になることが一つ。
「それで聞きたいんだけど、どこまで見たの?」
「全部だよ。カレン・アルペジスタと一条可憐が魂を共有した生まれ変わりってところも含めて全部」
「あのやり取り、全部見ちゃったわけか」
「すまん」
「それは仕方ないよ。私の意思とは無関係なんだもん」
「しかし魂レベルでカレンと可憐が話をしていたとは驚きだ」
「あれはホント不思議な体験だったよ。最初はホントに驚いたんだから」
そう言えば、気になることを言ってたなカレンさん。
あれは確か……。
「『あの人が掛けた魔法が、貴女にも影響を与え』たって、どういう意味なんだろう。ユーリさんそんな魔法使ってないよね?」
「勿論。まあカレンの言う『あの人』ってのが誰を指すかだが」
「そんなの十中八九ユーリさんでしょ」
「だよなぁ」
「だとすれば、未来で何かするとか?」
「無くはないと思う。だが何を思ってそんなことをするか、そもそも何が目的か」
「なんか考えてないの?」
「これっぽっちも」
「自分の存在がイレギュラーだって嘆いてた割には案外ドライだね」
「嘆いてはない。悩んではいたが」
何意地張ってんだかこのおバカさんは。まあいいか。
「それで俺が未来で何かするとして、それが原因でお前の記憶を呼び覚ますきっかけになったわけだ。……なんか悪いことした気分になるな」
「でもそのおかげで全てを思い出したうえで貴方と会えた。それなら私はハッピーだよ」
「それなら何も言うことはないな」
「軽いね」
「お前が悩んでないなら俺が口出しをするまでもない」
ユーリさんは紅茶を一口。
うーむ、この振る舞いがなんとも英国紳士に見える。
見えるだけかもしれないけど。
「さてそれよりも問題は、お前の記憶が外に漏れたことだ」
「あっ、それについては心当たりあるよ」
「なんだと?」
「単純だよ。私がユーリさんに私のことをもっと知ってほしかったから。私だけがユーリさんの心を読めるなんて、不公平じゃん」
「そんな風に考えてたのか」
「うん」
「納得の理由ではあるな。それなら枯れない桜が手を貸してくれたのかもな」
「枯れない桜?でもあれはもう大きな願いを叶えるだけの力は持ってないでしょ?」
「だけど、『ただ一人この人に私の事をもっと知ってほしい』なんて限定的な願いなら、その少ない魔力でも叶えてくれると思う。実際、それくらいの力は残ってるはずだ」
「なるほど……」
それじゃあ、私の記憶がユーリさんに伝わったのは、枯れない桜のおかげ?
……そうだといいな。
昔は色々な人の願いを無差別に叶えて暴走して、普通に戻った魔法の桜で、今は枯れずに咲き続けることだけに魔力を使っていると、以前ユーリさんとさくらさんに教えてもらった。それと清隆君達と枯れない桜の関係の推察についても。
ユーリさんの言うことが本当なら、枯れない桜が私の願いを聞き入れて叶えてくれたことになる。
ちょっと得した気分。でもありがとう。もう十分伝わったよ。
「どうした?」
「ふぇ?」
不意に声を掛けられ我に返る。
目の前にユーリさんがいた。
「ボーっとしてた。何考えてた?」
「うーん。ユーリさんの言うように、枯れない桜が私の願いを叶えてくれたのなら、それは嬉しいことだなって」
「あんまり変なこと考えるなよ」
「分かってるよ。もう十分だよ。これからはちゃんと口で伝えるもん。愛の言葉と一緒に」
「……そうか」
分り易く照れてるな、この旦那。可愛い奴め。
「ユーリさん、愛してるよ」
「俺も愛してるよ、可憐」
こんな風に夫婦の時間が続けばいい。
願わくば子供が欲しいとも思う。ユーリさんがかつて禁呪に犯されていた影響でそれが難しいのは分かってるけど。
そう思いながら私は愛しい人の顔を見ながら紅茶を飲んでいた。
D.C.Ⅲ.R.E.
-Refrain when Eternity-
The End
作品名:D.C.III.R.E 作家名:無未河 大智/TTjr