最終兵器静雄
戦争はますます激しさを増した。
世界戦争、行き過ぎた軍事活動の末路。
彼の出動回数はさらに増えた。
帰らない日が何日も続き、彼の目に見えない死を想った。
ある日、俺は静雄に呼ばれた気がしてあの展望台に行った。
そこでは、見紛うはずも無い、背中に白い羽を生やした彼が待っていた。
静かに遠くを見回しながら、世界の終焉をその目に映している。
酷使された身体は傷だらけだった。
俺は壊れかけたその身体を抱きしめた。
「こんな俺でも愛してくれてありがとう」
祈るような口付けを交わして、静かに唇を離した。
覗き込んだ目が、人工的な光を宿して輝く。
静雄の身体をあの青白い光が包む。
背中の翼が静かに開かれ、機械の羽が飛び立とうと細かな粒子を散らし始めた。
「もう、良いでしょ静ちゃん、君が頑張らなくてもどうせ世界は滅びる」
頬を伝う不快な感触を無視して、俺は言った。
「馬鹿、俺は世界じゃなくてお前を守るために行くんだ」
涙を流しながら彼は笑った。俺も笑った。
「お前だけは、俺が守るから」
街全体を覆うかのような灰色の塵と煙。
制裁を下すいくつもの手が、上空の空に伸びる。
ボロボロの機械の体を軋ませて、彼は俺を守るためだけに舞っている。
最終兵器のその姿は、天使のそれに酷く似ていた。
作品名:最終兵器静雄 作家名:蒼氷(そうひ)@ついった