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三河くんの家庭の事情

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 狭い艦長室の中を、二人の男がどったんばったん暴れまわる。椅子はひっくり返りアルバムは宙を舞い、銀光りする刀は闇を切り裂く。
 抜き身の海から死に物狂いで逃げ回り、永澄は机の上を飛び越えた。そして、

 がっしゃーん、と床にグラスが落ちるのと、騒ぎを聞きつけたクルーが部屋に駆け込んでくるのは、ほぼ同時だった。

 扉を開けた乗組員が、叫ぶ。
「どうされました、坊ちゃん! ご無事ですか!? 一体なにが…」
 瞬間、海王丸の時は確かに止まった。
 一番乗りだった船員の身体が硬直し、二番目に駆け込んできた奴が身を乗り出して「どうしたんだ」と艦長室の中を覗く。覗き込んだ途端にその者は一切の思考力を奪われ、三人目四人目も同様。
 三河財閥所属潜水艦海王丸艦長室。その中は今、満潮永澄が、生まれたままの姿である三河海を押し倒し、どろどろとした白いものをぶっかけている、という状態にあった。
「ぼ、坊ちゃんに満潮様…そ、そのお姿はつまりそういう…そうだったんですか!?」
「…え? あ、え?」
「だ、だからお友達だというわりには妙にギスギスとしてらしたんですね…! まさか、瀬戸燦様と満潮永澄様、そして海坊ちゃまが本当の意味での三角関係にあったなんて…!!」
「……は?」
 とんでもない誤解をする船員と、わかっていない三河海。そして状況についていけない満潮永澄。三者の間には、今マリアナ海溝よりも深く大きな溝が生まれていた。誰か、「ただクリームソーダかぶって魚人化しただけだろ」と突っ込んでやれ。
 はたしてクルーは顔を赤らめ、目に涙さえ溜めてその場に背を向ける。
「…満潮様。海坊ちゃまはまだ学生の身。どうか、程ほどになさいませ」
「……。」
 閉まる扉に、遠退く足音。びちびち跳ねる鯱に跨りながら、永澄は呟いた。
「…お前の部下って、あんなんばっかなのか?」
「…ほっときゃあせ。」
作品名:三河くんの家庭の事情 作家名:くさなぎ