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拝啓、すてきな笑顔のあなたへ

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第三コーナー 見えていた気がするもの



 翌日は、前日から降り始めた雨が嵐となって、全面の練習が中止となった。
鬱々とした天気の中、フクキタルはタイキシャトルと学食にいた。
「ぽけー」
「オゥ、フクキタル! ウォッチアウト!」
「へ? あ、あわっ、牛乳が!」
「ウーン……フクキタル、ダイジョーブデス?」
「あ、あはは……なんでもないですよ、なんでも」
そうですか?と片言で返すタイキシャトルに、ほんの少しだけ顔を曇らせたフクキタルは、ペーパーハンカチで牛乳を拭いながら、その白さに想いを馳せた。
あのあと、フクキタルは──下で話していた、エアグルーヴ達と合流した。
そして、何やら薄ぼんやりとした微笑みを浮かべる二人を見て、フクキタルは思わず胸から迫るものに圧され、二人に抱きつき、崩れ落ちてしまったのだった。
そしてその後、フクキタルの部屋には消灯間際まで三人の影があり、今日もタイキシャトルがそばにいる状況となっていた。

世の中の学生の中ではままあることではあるが──その一人一人にとっては、「よくあること」で済ませられるものではない。
『友達に嫌われる』ということは、そういうことだ。
 
そしてフクキタルもまた、世の中の学生たちよろしく、その事実に向き合いきれず、今もこうして茫然自失となっていたのだった。
「はあ……スズカさん……」
牛乳を拭いたナプキンを屑籠に捨てながら呟くと、その捨てた紙屑にまで感情移入をしてしまうようで──また、フクキタルは頬に光を浮かべる。
「フクキタル……」
タイキシャトルは一言だけ──正確には、かける言葉が見つからず、名前を呼ぶと、背中をゆっくりとさするのだった。
「で、どうだ──調子は」
「ノー、ダメダメのダメ、ソーバッドデース……」
「そうか……」
 陽が翳りを見せているころ、タイキシャトルは生徒会室にいた。
会長であるシンボリルドルフは不在のようで──会長席は、皇帝をただ座して、いまかいまかとその脚を揃えて待っている。

いかにも高そうなボトルに詰まった赤いモノ──無論にんじんジュースだ──を持ってきたエアグルーヴは、自分と、タイキシャトルの二人分、グラスにその中身を注いでいく。
ことり、と上品な音をたてて、俯いたタイキシャトルの前にグラスが置かれた。
「まあなんだ……飲め、とりあえずはな」
「ゴドーハンにアズカリマース……うっ」
「ん? 口に合わなかったか」
「こっこれ……にんじんそのものの味がシマス……アメージング」
「……? まあいい、で、スズカとは話したか?」
「プハーッ! オカワリお願いシマース!」
「わかったわかったから……落ち着け、たわけ」
先ほどまで鉄のようだった女帝の表情も少しは和らぎ、二人は熱い喉によく冷えたにんじんジュースを通し、そしてまた一息大きく空気を漏らした。
「で──どうだ」
和らいだ表情も束の間、タイキシャトルの向かいに座った女帝はグラスを置くと、腕を組んでから幾分か辛味のある目線をタイキシャトルへ注いだ。
厳しいようにも見えるがその実──この目線は、エアグルーヴの真剣味をそのまま表している。
タイキシャトルは、グラスを満足そうに置くと、女帝を見習い腕を組んで、その丸い目で天井を仰ぎ見た。
「ンー……それが、デスネ……」
「なんだ、勿体ぶるな」
「私も、嫌われちゃった……みたい、デス」
「……何?」
「ウーン、スズカ、キャントシー……わからないデース」
「話せない、ということか?」
「イエス、ウーン、エアグルーヴは?」
「私も聞くだけだ、前に言った内容をな」
「頭から離れない、ってやつデスネ?」
「ああ……悔しいが、悪い感情でないだの、自分が恥ずかしいだの……取り止めがないし堂々巡りでな」
「ウーン、なんか……」
「どうした?」
「いや、バッド、というより……むしろ」
「むしろ、なんだ」
「ラヴ、みたいデース……」
 
瞬間、二人で目を合わせる。
そして、しばらくの沈黙が襲い──女帝の息が漏れた。
「ま、待て待て、待て、流石に飛躍しすぎだろう」
「ンー、そうデス? エアグルーヴはないデスカ?」
「な、何がだ!」
「イエ、ナンデモナイデース……」
「おい、教えろ! なんだその目は! やめろ!」
ふう、と一息、大きく、深く息を吐くと──タイキシャトルは、組んだ右腕を解いて人差し指を自分の顔の横に立てる。
「ラヴ、とはデスネ」
「どうした急に……」
「時に、素直になりきれずに──認めたくないモノ、なんデス」
「認めたくない、モノ……?」
「そうデース、普通なら、好きになれば相手に染まるもの、デスガ……自分がスティッキー……まるで、その人に執着して、汚れていくみたいに見えるので、認めたくないラヴもありマス」
「ほう……」
「結果、好きすぎて、自覚しないうちに嫌い……なんてことも、あるわけデス」
「好いているならそういえばいいだろう」
「……エアグルーヴ、ライク、伝えられマス?」
「な、なんだ急に……感謝くらい、人として当然だろう」
「じゃあ……エアグルーヴ!いつもサンキューデース!」
「なっ、なんだ急に!」
「ンー!ソーキュート! ビューティフル! かわいいデース!」
「やめろ! くっ、こ、この……」
「返してクダサイ」
「何?」
「私に、ライクをぶつけるんデース」
「そ、それくらい……んん」
タイキシャトルは、じっと女帝を見透かす。
特段威圧感のある目ではなかった。
だが、エアグルーヴは、腕組みをしたまま──目を硬く瞑り、その視線から顔を背けている。
どれくらい時間が経ったか、タイキシャトルが二杯目のにんじんジュースを優雅にも飲み終えたころ──静寂に、音が響いた。
「……タイキ」
「ワット?」
「その……だな」
「フフン、イエス?」
「え……ええ、と」
「アイシー、アイシー」
「い……つも……世話に、なっている」
「それだけデスカ?」
「うっ……うう……その、あ、あり……ガトウ」
 言い終えた瞬間、タイキシャトルはエアグルーヴに駆け寄り──その体躯で女帝を包み込んで、足が浮くほど抱きかかえた。
「ンーーー!エアグルーヴ!ソーキュート! かわいいデーース!」
「く、くそっ……は、はなせ! 馬鹿者!」
息を切らした女帝が、椅子に解放されたのはしばらく後だった。
「な、なるほどな……」
「フフン、ソーハード、デショ?」
「思ったより難しいことは認めよう──だが」
「ワット?」
「それでもだ、まずウマ娘同士での恋愛など……」
「エアグルーヴ」
「な、なんだ急に」
「ラヴの前には、性別や種族、そして国境なんて──ほんの、ちっぽけナンデス」
「そう、なのか……?」
タイキシャトルは深く頷くと、窓の外をどこか、遠い目線でみやるのだった。
『え、ええ……そ、そんな……』
 その夜、エアグルーヴは、電話口で話していた。
無論、相手は──サイレンススズカ、その人だ。
「突飛な話だろうが、ありえない話ではないだろう」
『え、で、でも、私もフクキタルもウマ娘──』
「冗談だ、真に受けるな……それに」
『な、何……?』
「嫌ってないのなら、そう言ってやれ……見てられんぞ」
『あ……』
「こうも静かでは、学内の活気に関わるのでな」
「う、うん……」
『ではな……あまり、考えすぎるな』