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拝啓、すてきな笑顔のあなたへ

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「うん……エアグルーヴ」
『なんだ』
「ありがと……その、励ましてくれて」
『ふっ……フクキタルにも、それくらい軽く言ってやれ』
「うん、おやすみなさい」
 スマートフォンをスワイプし、暗くなる画面とともに、スズカはベッドへ倒れ込んだ。
白い天井が眩しくて、少しばかり腕で影を作る。
言われたことが頭を巡る。
私が、恋愛なんて──しかも、相手がウマ娘で、フクキタルで──?
ありえない、とひとつ目を閉じた。
瞼の裏に映るのはほら、そんな対象じゃなくて、友達としてのフクキタルの笑顔で──笑顔──笑い声で。
「……聞きたいな」
ぽそり、と投げた言葉に、思わず口を押さえてベッドに顔を押し付ける。

何、今の……いや、違うもの。
違うから、そうじゃなくって、私は以前のフクキタルみたいに、単に気軽に話せる関係に戻りたいだけで──そう、仲直りをしたいだけだから。
そしたら、またきっとあの弾けるような笑顔、くるくる変わる表情で、思わず私も笑って、一緒にお出かけだって──そう、タイキも、タイキもいるもの。
「……して、くれるかな」
そうひとりごちて、胸に込み上げる不安を抱えながら──サイレンススズカは、窓の外を見た。
やけに白く輝く月が、滲んで光を増していた──。

「ふぁー、ドリーミン……」
 翌朝、タイキシャトルは普段より幾分か細めた目を擦り擦り登校していた。
「おい、聞いているのか」
珍しく、人に囲まれていない副会長とともに。
「ノーウ、どうしたんデスカエアグルーヴ、昨日から……」
「貴様が気になることを言うからだろう、たわけ」
「フフン、エアグルーヴもまだまだキッズデース」
「んなっ、だ、大体昨日の電話は三十分だったろう、そんなに眠いのか」
「あの後スズカとフクキタルとも交互にオシャベリ、シマシタネ?」
「……タイキ」
「イエス?」
「お前、人が良すぎるぞ……」
「オゥ! オヒトヨシならフツーよりナオグッドデース!」
「はあ……全く、また成績が下がるぞ」
「ノー! それはノーデース! エアグルーヴ! ヘルプミー!」
「ぐっ、わかったから離せ! なぜ貴様らは人にくっつくんだ!」
もつれるように二人のウマ娘が校内へと入っていくと、下駄箱の前に見知った顔があった──輝く明るめの栗毛に、特徴的な両耳の飾り──それに、片方だけのセーラーを思わせる配色のメンコ。
そして朗らかな笑顔が特徴的な──。
「……スズカさん……はあ……」
──はずの、ウマ娘、マチカネフクキタルがそこにいた。
その姿を目に入れた二人のウマ娘は、一度体を硬らせると、ゆっくり、静かに柱の影へと移動した。
「おい、なぜ隠れるんだ」
「エアグルーヴだってハイドシテマース……」
「私より貴様の方が仲がいいだろう」
「あのオーラはノー、ダイキョー、トユーヤツデース……」
「フン……確かにな、思ったより事は深刻そうだ」
「スズカ……まだ言ってないんデスネ」
「全く……手間のかかる、だが」
「イエース、私たちから言うべきじゃないデスから……」
「……しかしまあ、いずれにせよ、挨拶はすべきだろうな」
エアグルーヴは、そう言うと凛と背を伸ばし、柱の影から一歩、一歩と暗がりのオーラへと近寄っていく。
──なんだ、この重苦しさは──
異様な雰囲気に多少気圧されるが、持ち前の負けん気で進む。
山道を登っているかの如く重圧に耐えぬき、その元凶の背中へ迫る。
 
耳は前側に思い切り垂れ込み、背筋はがっくりと前に曲がり、ふらふらとなんとか立ち上がるフクキタルを前に──女帝は一息、深く息を吐き込むと、顔を上げてフクキタルの肩に手を置いた。
「……今日は早いな、フクキタル」
それを受け、ぎこちない動きで耳を女帝の方に向け──ゆっくりと、フクキタルは顔を振り返らせる。
「おはようございます……エアグルーヴさん」
「ああ、おは──!?」
思わず、声が発せられるのをためらった──なぜか。
振り返ったフクキタルは、まるで何日も寝ていないかのように目にクマを作っていたからだ。
「……おい、大丈夫か?」
「何がですか? へへっ、この通りですよ……」
力なく、コブを作ろうと腕を曲げるフクキタルだったが、その笑顔は先ほどよりもずっと痛々しいものとなっていた。
思わず目を細める女帝に、気分を害してしまったと思ったのか──フクキタルは、一度怯えたように目を見開いて、ごめんなさい、と一言呟き、廊下の奥へと消えていってしまった。
「あっ、フクキタル! ウェイト……ンー」
遅れて出てきたタイキシャトルが目で追うが、すでに女帝の視界からも外れた後だった。
伸ばしたエアグルーヴのしなやかな腕と指が、行き場を失ってゆっくりと下げられる。
「……これは、重症だな」
「ああなったらソーハードデース、フクキタル……」
二人は一息、大きく深く肩を落とし、タイキシャトルはバッグを肩にかけ直すと、足取りも重く下駄箱の上履きを取りに行く。
それに倣い、女帝はほんの少しだけ片眉を下げ──上履きを手にしたのだった。

──その日の昼下がり。
学食の丸テーブルを囲むように座っていたのは、タイキシャトルとエアグルーヴ、そして──サイレンススズカだった。
腕を組み、訝しげにサイレンススズカを見つめるエアグルーヴ、そして目を少し伏せてコップの水を見つめるスズカ。
その二人に挟まれ、なんとも言えない笑みを浮かべるタイキシャトル──と言った具合だ。

最初に口を開いたのは──意外にも、腕を組んだ女帝──エアグルーヴだった。
「……スズカ」
「うん」
普段の飄々とした態度はどこへやら、と言った様子で、女帝の言葉に萎縮した様子で縮こまるスズカは、まるで嘘がばれてしまった子供のようだった。
「貴様、まだ話してないだろう」
「……うん……」
「全く……」
電話でもかければいいものを、と頭を抱えるエアグルーヴにとって代わり、タイキシャトルがおずおずと手を挙げた。
「す、スズカ? オーケー?」
「うん、タイキもごめんね……」
「ノープロブレム──デスガ、ちょっぴり、寂しかったデース」
「うん……」
タイキシャトルはそう伝えると──席を寄せ、静かにスズカを抱き寄せた。
急なことに多少驚きがあったのか、一瞬体を硬らせて目を瞑ったスズカだったが、
しばらくして──ほんの少しの震えを感じると、少しだけ瞼を待ちあげ──そして、細い腕をタイキシャトルの背中に回すのだった。
「へへ……フレンズに嫌われるの、思ったよりサッド、デス」
「うん、そうだよね、ごめん、タイキ」
「……フクキタルも、きっとこんな感じデシタ」
「そう、だよね……うん、言わなくちゃ」
そう言うとスズカはゆっくりとタイキシャトルから体を離し──エアグルーヴへと向き直った。
「エアグルーヴ……それと、タイキ?」
「ああ、なんだ」
「グス……ワット?」
「手伝って、欲しいことがあるの」

 その後、サイレンススズカは教室にいた。
いや、正確には──教室のドアに隠れ、中を伺っていた。
その視線の先には、もちろん。
「はあ……」
ため息を大きくつき、他のウマ娘より幾分か大きな耳をだらりと垂らした、栗毛の輝くウマ娘──マチカネフクキタルが、そこにいた。