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拝啓、すてきな笑顔のあなたへ

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第四コーナー きっとそれは


 その日の夜。
 
ルームメイトが眠りに落ちたことを確認してから、トレーニングノートを閉じて──一人、サイレンススズカは便箋へ向かっていた。
そして、一時間──二時間──三時間。
気がつけば、雀が光の中を跳ねていた。
「何、書けんだと?」
「ええ……」
生徒会室には、昼下がりの太陽が眩しく差し込み、生徒会長──シンボリルドルフの仕事姿を照らしていた。
書類を一つ、また一つと右から左へと丁寧に移してゆき、それを何回かすると生徒会長は女帝を呼んだ。
その呼びかけに応じ、何事か会話したあと、エアグルーヴはまたスズカの元へと戻ってくる。
「悪いな、少々立て込んでいる──それで?」
「うん、あのね、なんだか……考えれば考えるほど、どう書き始めたらいいのかわからなくって」
「そんなもの、『拝啓、フクキタル』とでも書けばいいだろう」
「で、でもっ、あまりにもかしこまって、また誤解させちゃったら……」
「……では、『フクちゃんへ、仲直りしましょう』とでも書いておけ」
「ええっ、ダメよ、そ、そんなの──」
「なぜだ」
「は、恥ずかしくって……」
それを聞いた瞬間、女帝の中で何かが弾けた。
「ええい、いいか、こうやってだな──」
「エアグルーヴ」
生徒会室の温度が、外の陽気とも関係なしにすらりと痩せた。
重くも、軽くもない──だが、確実に射抜かれる。
そんな威圧を含んだ声が、女帝の名を呼んだのだ。
「──あ、いや、すまないね」
無論、笑顔と共に温度が戻るのだが──呼ばれた女帝とスズカの視線は、自然と生徒会長の元へ釘付けになっていた。
「画蛇添足──だ、エアグルーヴ」
「……はい、会長」
「スズカ」
「はい、会長さん」
「君は、フクキタルに手紙で何を伝えたい?」
「何……仲直りしたい、ですか?」
「ふふ、そうだな……でも、それは結果だろう」
「結果……ですか」
「君は今、言いにくいことに向き合いすぎだ」
「えっ、でも、言わないと──」
「仲直りではなくて──要は、好意が伝わればいいんだろう?」
「好意……」
「君はなんで、フクキタルと仲直りしたいのか、書けばいい」
「それ、は──」
緑のメンコをぴくり、と動かすと──スズカは、はたと顔を上げ、笑顔のシンボリルドルフを見返す。
皇帝は、さらに目を細めると──一つのびをして、書類に手をかけ、目を通し始めたのだった。
その夜──机には、また便箋が置かれていた。

考えて、考えて、考えて。
私は、あなたの何が、どこが、見たいのか。
どうして、もう一度──仲良くしたいのか。
 
それを、ひとつひとつしたためて──。
 
フクキタル、私の学園初めての友達。

だけど、仲直りしたい気持ちはきっとそんなちっぽけな理由なんかじゃない。

あなたと走った、あの模擬レース。

私は確かに、悔しい、と、そう思ったけど。

あれは、あの悔しさは──決して悪いものじゃなかった。

私の影を踏めるあなたに、後ろ髪を引かれただけ。

ちょっとびっくりしちゃったの。

あれ以来、あなたのことを思うと胸が高鳴って、

また走りたい、って、そう思うの。
 
それから、それから、それからね──。

スズカの手は、差し込む月の光に照らされて白く白く、光っていた。
しなやかな指が、便箋に黒を乗せてゆく。
逡巡の後、スズカは宛先に名前を書いた。

拝啓、すてきな笑顔のあなたへ。


「……オーゥ」
「スズカ、お前……」
翌日、三人は食堂にいた。
サイレンススズカは、前日とは打って変わって、上機嫌で紙から視線を上げる。
目を輝かせるタイキシャトルと、頭を抱えるエアグルーヴ。
 
そんな二人を目にして、慌ててスズカは手元を見やる。
「ど、どこかおかしかったかしら……」
それを受け、ぴくり、と女帝は片眉を上げると、眉間を抑えながら口を開く。
「スズカ、まさか本当に──」
「ノーーッ、グッドスズカ、アブソリュートリー!」
タイキシャトルがスズカに飛び付き、言葉を遮られた女帝は──何かいいたげな目線を送ってから、やれやれ、とひとつ息を吐いた。
「それで、あとは渡すだけデスカ?」
「えっ、あの、実はもう……」
「……貴様、まさかとは思うが」
「うん、下駄箱に……これは下書き」
それを聞き、また眉間を抑えると──エアグルーヴは自嘲気味な笑顔を作り、スズカに向き直った。
「……貴様が選んだ道だ、その、なんだ……健闘を祈る」
「あ、ありがとう……?」
「あっ、スズカ、スズカ!」
「何? あ……」
食堂を、こちらに向かって歩いてくるウマ娘。

輝く栗毛に、その尻尾。
ダルマと、四葉の耳飾り。
水兵と水引を思わせる色の片耳メンコ。
スズカが振り返るとそこには──マチカネフクキタルが立っていた。

いままでにないほど、口を真一文字に結んだ状態で俯いて。
スズカは、その表情の意図がつかめず──ただ、フクキタルの顔色を伺っていた。
「……ですか」
「……え?」
小声で何事か呟いたのが聞こえなかったのか、スズカは思わず間の抜けた返事を返したが、それを聞いた瞬間、俯いていたフクキタルは顔を上げ──紅潮させ、頬を透明な雫で濡らしていた──スカートの裾をにぎりしめ、叫んだ。
「どうして、期待させるんですか!」
「……え?」
尚も震えて、俯きながら息を荒くして──フクキタルは、ぼろぼろと大粒の涙を流していた。
「ようやく、割り切れたところなんです……スズカさんのいない学校」
「ふ、フクキタル……」
「会いたくて会いたくて、たまらなかったんですよっ、でも……でも、私……!」
あまりこういった感情を表に出す質ではないフクキタルの怒号に、学食中が静まり返る。
タイキシャトルもエアグルーヴも、スズカも──身じろぎもせず、フクキタルを見つめる。
「ひっ、ひとりで、ばかみたい、じゃ、ないですかっ、私……!」
「……ごめんね」
「……す、ずか、さん」
「なに、フクキタル」
フクキタルは、一度大きく息を吸うと、高潮した顔で、精一杯の鋭い目線を投げつけた。
「あの、てがみ……ほんと、ですか」
「うん、ほんとよ」
「スズカさんの……近くに、いてもいいん、ですか」
「……いてほしいの、あなたに」
「……ああ、もう、もう……ずるいですよ、スズカさん」
「ずるいのは、お互い様よ、フクキタル」
「……え?」
「……だって、あなたの笑顔素敵で──逃げきれないんだもの」
困ったように笑いながら、スズカは頬をかいて俯く。

その日の空は、久方ぶりの快晴だった────。

 拝啓、すてきな笑顔のあなたへ
 
いつも私に笑いかけてくれるあなたへ。
 
うまく笑えない私に、笑いかけてくれるあなたへ。
 
こんな形でしか伝えられなくてごめんなさい。

どうしてもうまく言えなくって、でも聞いて欲しいの。
 
あなたがそばにいるだけで、私の尻尾が楽しそうに跳ねること。
 
あなたが人懐こく話すと、私の耳がそっちに向くこと。
 
あなたがどこかにいるだけで、私が人に優しくなれること。
 
あなたと走ると、胸が楽しそうに跳ねること。
 
あなたと一緒にいられるだけで、私の心は、笑顔になるの。
 
だからね、あんなことを言ってしまってごめんなさい。