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ポケットにしまう有限の涙と無限の栄光。

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「うん、そんなんじゃないんだけどさ。僕が思うに、ね? 人にはそれぞれ個性という魅力があるわけだから、第二のなになには必要なくて、ね? そうじゃなくてさ、自分達の魅力をそれこそ伸ばしていけばいいと思うんだけど」
秋元康先生は、乃木坂46達を、短く交互に見つめていく……。
「これからね、どんなチャンスがあって、それをね、どんな人が掴み取っていくのか、とかはわからないけども、僕らもそれなりのチャンスを用意していくつもりではいるから。ね。真ん中に居ても、端っこに居ても、ね。乃木坂だから。それはわかってると思うんだけど、頑張ってほしいよ」
 乃木坂46、そのOG達から、「はい!」という返事が返ってきていた。風秋夕は感動して、腕を組んで微笑みを浮かべていた。
「ファンは見てるよ」
 秋元康先生は、最後にそう呟いた。
「はーい、頑張りまーす」
山崎怜奈は、秋元康先生を顕在的な上目遣いで見つめて言った。
「この前は、ラジオでお世話になりました」秋元康先生は、頷くように会釈した。
「とんでもないですこちらこそお世話になりました」山崎怜奈は慌てるようにお礼の言葉を返した。「また来てください、ぜひ!」

       12

 二千二十二年七月十一日。PM20時から数分が過ぎた頃の事。風秋夕は地下二階のエントランスフロアの、東側のラウンジにいる乃木坂46ファン同盟のメンツを見て、少し不可思議に思った。
「あれ、ダーリンいなくない?」
 風秋夕は、向かいの席の稲見瓶に言った。
「いないね。電話にも出ないよ」
「え、何で?」
「さあ。何でだろうね」
 稲見瓶は、無表情でアイスコーヒーを旨そうに飲んだ。
「決ってんだろ、んーなのよ……」
 磯野波平は、風秋夕にしかめっつらで言った。
「何よ」
「おら、あれじゃねえのか?」
 駅前木葉と御輿咲希が、星形に五台並んだエレベーターの一角から、こちらへと走って向かってきていた。二人は何やらを叫んでいる。
 風秋夕は、そちら側を振り返っていた。
 駅前木葉は、突き出したその右手に、一枚の紙きれを持っていた。
「これがっ、〈ブリーフィング・ルーム〉の、〈レストラン・エレベーター〉に!」
「なに?」
 風秋夕は、その紙きれを受け取る。
「……あらー。あいっつ……」
「どれどれ?」
 稲見瓶は、風秋夕のソファの後ろ側にまわり、その紙きれの内容を覗き込んで音読していく。
「しょうせい…、またまた乃木坂への、深い深い愛情に気付かされたで、ござるゆえに、このたび、旅に出てきますでござる…。探さないで下さいます? 草……。秋田だね」
「秋田か……」
 風秋夕も呟いた。
「秋田県に、なんですの? 旅とは? こんな時に旅行なんですの?」
 御輿咲希は困惑していた。
 宮間兎亜が半眼で言う。
「秋田に、センター、とかいう建物があるのよ……。確かそこに、人生の師匠がいるとかなんとかで、そうよねえ?」
「ま、んなとこだな……」
 磯野波平は、横柄に答えた。

 秋田県秋田市阿仁にある、秋田内陸鉄道の笑内(おかしない)駅をタクシーは通り過ぎた。〈センター〉までは、もう少しかかるだろう。
車窓から流れていく夜景色に見とれながら、何十分かが過ぎて、道路の両脇から伸びた木々が天井を作るように月の明かりを遮っている通称〈野生のトンネル〉を程よく行った処で、姫野あたるはタクシーを降りた。
 じめじめと蒸しかえる暑さを全身に体感しながら、ひたむきに山道を歩き、コンクリートの二階建て建造物、通称〈センター〉に到着したのはタクシーを降りてから更に一時間が経過した頃であった。
 まずは、茜富士馬子次郎(あかねふじまごじろう)こと通称夏男(なつお)氏に電話をして、到着の有無を告げ、玄関の鍵を解錠してもらった。
「夏男さん……、お久しぶりです。また、来ちゃいました、でござる」
 姫野あたるは、汗だくの表情に屈託のない笑みを浮かべて苦笑した。
 夏男は微笑む。
「ようこそ、ダーリン。さあ、中は涼しいよ。さあ、入って」
 玄関を通り過ぎてすぐ右手側に在る、〈キッチン〉にて、二人は冷房の利いた静寂が耳に痛いテーブル席に腰を落ち着けた。
 ふと夏男は気が付いて、麦茶を差し出した。
「かたじけないでござる、夏男殿……」
 姫野あたるは、グラスをそっと掴んだ。
「長旅、お疲れ様、ダーリン。まあまあ、一服しようよ」
「はい、でござる」
 二人は煙草に火をつけた。静寂が終わり、何処からかセミの鳴き声が聞こえていた。
 時刻はPM21時を回っていた。
「れなち殿……。山崎怜奈ちゃんが、卒業するでござる……」
「うん。何期生さんなの?」
「二期生でござる」
「寂しくなるね」
「……はい。先の見えぬ闇ではなく、明るい未来に通してあげたいのでござる」
「うん」
「ならば、小生もファンである事に胸を張り、応援を続けていこうと強く思うのでござる」
「うん」
「卒業は、別れではなかろう。続いていく物語がある。そうでござろう、夏男殿」
「うん。そうだよ」
「ではなぜ、なのに……、なのになぜ……」
姫野あたるの眼から、大粒の涙がこぼれていく。
「こんなにも……、胸が痛いのでござろうか……」
「ダーリン……」夏男は、笑みをやめた。「それが、卒業だからだよ」
 姫野あたるは、鬼のような形相で、泣きながら笑みを浮かべる。
「夏男殿……、卒業とは……、辛く…、悲しいものでござるなあ……」
「ダーリン……」
「小生は、ただ、れなちを好きだから、れなちを見ていたいだけでござるよ……」
「うん」
「れなちは消えぬと言う。ならばなぜ、ならば……、なぜにこの涙は流れてくるでござるか……」
「それが、卒業だからだ、ダーリン……」
「楽しすぎる時間でござったぁ……。笑ったでござる、腹を抱えて……、笑い、泣いたでござる……。この涙、全て、れなちがくれた時間でござる……」
「うん」
「乃木坂を、やめたいと思った事もあるとれなちが言っていたのでござる……」
「うん」
「小生は、知らなんだ。そんなれなちの心も知らないで……、今頃知ってどうする!」
「ダーリン……」
「ファンがれなちの辛さをかつがずに、誰がれなちを支えるで、ござるか……。小生はまだまだ未熟、ゆえに時間が欲しい……。これから……、新たな道のりで、れなちが……、本当に辛くなった時に、小生の肩によりかかれるように……」
「うん……」
「小生は、強くなり、れなちも安心して、笑うんでござる……。そんな、未来が、必ず来る、でござる……っ……、小生はっ……、小生は……」
「うん」
「小生は……、れなちが大好きでござる……」

6月26日。秋元真夏卒業アルバムに一人はいそうな人を探すラジオ。
『乃木坂46の秋元真夏です。今度の卒アルさんは、先日卒業を発表した、山崎怜奈をゲストにお迎えします』

『はいこんにちはー乃木坂46の山崎怜奈でぇーす。よろしくお願いしまーす。何ですか、16歳って? え、何ですか? でもセンチメンタル・ジャーニーワンフレーズ歌ったのめっちゃうまかったじゃないですか。めっちゃうまかったじゃないですか。え? 歌難ありキャラって、作られてるやつ? あ、そうなんだ。そういう疑惑が私の中でふつふつと……』