新しい世界
しかし、何かは消えてハミングは加速していき、やがてそれは閉め切った車内に響くカラオケへと変わっていった。
それに対して、初めて頬に流れた涙を受け入れて、絢音は自宅へと強くアクセルを踏んだ。
この胸の中で目覚めた世界は
いつからか何となく気付いてた
これからどうやって生きていくのか?
もう一人の自分も愛されたい
カーテンを開けて広がる世界は
繰り返し何回も見てた夢
君にはこれ以上嘘はつけない
世界一僕が愛している人だ
世に囁かれる少年犯罪とは、どんな物であろうか。絢音はこれからもその答えを探し求めるだろう。答えなどが存在するのかどうか、それさえも手探りな作業ではあるが、絢音はこの瞬間に、また新たな重大さを実感しているのであった。
どうして、と、過去と置かれてしまう反芻(はんすう)を見極めるのではなく、まだ問題が無いと思われている現在にこそ、考える余地が残されているのであろう。
それが何であるかを確信する資格を、絢音は持っていない。しかし、気づく事が出来たのだから、それは誰もが気づけるのだろう。気づける物が、常に現場と成り得るそこにはいるのだから。
心理ケアマネージャーという職業に偉大な誇りを感じて、絢音は自宅のチャイムを押した。
ドアを開けたすっぴんのしかめづらが、徐々に歓迎の表情に変わっていく。
絢音は微笑んで、何を言う前に、小さく、そして深く。頭を下げた。
~完~
あとがき
作 タンポポ
鈴木絢音さんが主人公の物語でした。本を読むにはイメージが必要となりますよね。イメージを創り上げるのならば、どうせなら、更に考えさせる小説を書いてみよう、ふとそう思いました。――考えさせる物語を書く、という事は、読者がその答えを持っている、という事にもなるのでしょうか。持っていなかったとしても、感じたり、思い出したり、心で触れてもらいたい作品となりました。
タンポポ自身、この作品を大変気に入っています。最も考えさせられたテーマでもあり、この物語を結ぶそのキーに、誇りと確信を持っています。鈴木絢音さん、堀未央奈さん、新内眞衣さん達の活動に感謝し、乃木坂46の栄光を賛美し、この物語を捧げたいと思います。
さて次なる小説もすでに大半の構想を終え、後は文字に起こすのみとなっております。もう短編小説なのかどうかも疑わしいのですが、一応乃木坂短編集として書くつもりではいます。しかし、次の乃木坂短編小説は、少し、長くなるでしょうね。
それでは、また次なる物語でお会い致しましょう。タンポポでした。
~完~