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言霊砲

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言霊砲
       作タンポポ



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 幾重(いくえ)にも連なる雲々が鏡のようにくっきりとした陽光の恩恵を反射して天に返している。この大きく広がった雲々の大地の事を、天雲(あまぐも)というのだが、ここにはそれ以外には限られた有機物しかない。
 鬱蒼(うっそう)と茂る木々は無いし、せせらぐ川も無い。すべり台やブランコも無ければ、レストランやマンションも建っていない。ここは神が創りし天界の最下層にあたる場所、無色天という場所である。。
 けれど、もう天界の四天王や様々な天使達が住んでいたのは昔々の大昔の話で、今はひっそりと、天使族の最後の生き残りの少女と、一匹のグリフォンが暮らしている。

「もちお~、何しとると~? 早く人間界のぞきっこしようよ~、ね、何しとると?」

 与田祐希――。由緒正(ゆいしょただ)しき天使族与田家の末裔(まつえい)にして、地球上最後の天使の生き残り。

「少しは待ってよ、時間なら、いくらでもあるじゃないか」

 もちお――。聖獣グリフォン。最後の一人として残された与田祐希を育て、守護するものの事だ。

 祐希は羽根をぱたぱたと動かして、むすっとする。
「いくらでもって、そんなに待ちたくないから言ってんじゃん」
「のんびりいこうよ、祐希~。天使はお腹が減るわけでもないんだからさ」
「でも、眠るとよ? 天使でも。あんまり遅いと寝るよ、もちおの癖に羽根なんか手入れして」
 グリフォンは小さな羽根を、一度だけふさり、と羽ばたかせた。
「手入れもするさ……。だって僕は大聖獣、グリフォンだよ!」
 祐希はその整った子供のような美形を、屈託なく笑わせた。
「はっは、羽根のついた子犬じゃん。ちっちゃい羽根が生えたポメラニアンじゃん」
「……んもう、これだから、人間界で色んな言葉覚えられるの嫌いなんだよ……」
「見て見て、人間って面白いね」

 天界の天雲を透視して、下界の人間界を覗(のぞ)きながら、与田祐希は囁く。

「人間は唯一(ゆいいつ)、言霊砲(ことだまほう)っていう能力が今でも使えるのにね……。声に言語をのせて想いを届ければ、ちゃんと伝わるのに……」
「昔は、人間を恋に落とすのは天使の役目だったんだよ」
 祐希は大きな瞳を細めて、鼻から大きく息を漏らした。
「な~んども聞いたよぉ……」
「恋のキューピッドって言ってね、天使の射(い)る、それぞれ同じ色の恋の矢で射抜かれた人間達は、真実の恋に落ちたんだよ」
「今はどうなの? 私がその弓矢見つけてきて、射ってもダメなの?」
「今はダメだ、神様のご加護がないとね」

 ふうん――と、また天雲に俯(うつむ)けに寝そべって頬杖(ほおづえ)をついた与田祐希を、グリフォンは儚げに見つめた。
 祐希はいつも、天界から下界の人間達を観察している。運動したとしても汗もかかなければ、汚れもしない、食事もいらない天使のやるべき事は、もはやこの世には残されていない。
 天使の能力として、天雲から透視して下界をまるで歩いているかのようにはっきりと覗(のぞ)ける能力だけが、唯一衰(ゆいいつおとろ)えていない祐希は、この23年間、下界の人間を観察する事だけを強いられてきたのである。
 天使の仲間が、あと四人ほどいた頃は、いささか賑やかだったのだけれど……。
 大園桃子は、この世界に生き残った五人の天使の中で、最初に人間に転生した人物であり、祐希の親友でもあった。

『また会えるって』大園桃子ははにかんだ。『そしたらさ、あっちで、ご飯行こ?』

――あっち? あっちって?

 大園桃子は純粋無垢な瞳を笑わせる。
『あっち。んふふ、あっちぃ~』

 それから、山下美月、久保史緒里、梅澤美波と、順を追って皆、祐希に申し訳なさそうな笑みを残して、人間に生まれ変わる運命を選んでいった。

『そんな寂しそうな顔しないでよ』山下美月は苦笑する。『大丈夫、たぶんまた会えるよ。そんな気がするもん』

――なんで人間がいいと? なんか食べなきゃ死ぬとよ?

『それがいいんじゃ~ん』山下美月は陽気に微笑んだ。『与田、教えたげる。そういうのね、腹ペコ、ていうんだよ』

――腹ぺこ……。

山下美月は笑顔で頷いた。
『与田とはまた、どこかでばったり会いたい。だから、私の事見ててね!』

 久保史緒里は、真剣な表情を浮かべた。
『祐希は恋したら、どうする? なんて告白する?』

――天使にもう男なんておらんやん。

『いたら、よ』久保史緒里は小さく微笑んだ。

――行きつけの雲の上とかで、先に待っとる。で、告白する。ていうか、けんけん相撲(ずもう)で祐希が勝ったら付き合ってもらう。

『待ち伏せなんてダメダメ!』久保史緒里は淑(しと)やかに眼を閉じて首を振った。『まず、祐希の事を知ってもらわなきゃ。野生児だってさ。あはは、じゃあね、祐希、元気でね!』

 梅澤美波は健全な笑みを浮かべる。
『祐希もおいでよ~、つっても、仕方ないか……。あんたがこの世で、最後の天使になるんだからね』

――天使なんて、需要(じゅよう)ないとよ。あるのは暇(ひま)だけっちゃ。

 梅澤美波は可笑しそうに笑った。
『与田……、天使仲間として忠告しておくけどね、そのなまり、いなかっぺだと思われるよ』

――え? 変? てか誰に思われると? もう梅いなくなったら祐希以外誰もおらんとよ?

『神様ともちおがいるじゃない』梅澤美波を天を小さく指差して言った。

――神様は見えんし、もちおは犬だし……。……でも、なおした方がオシャレかなあ?

『うん!』梅澤美波は大きく手を上げて微笑んだ。『じゃあねバイバイ! 与田!』

 祐希は孤独を感じているのかな。僕が育ての親で、本当に良かったのかな。伝え損ねた事は無いかな。
 この天界で生きていくには、並大抵の精神力ではすぐに飽きてしまうだろう。そう、生きる事自体に。
 生きるという実感を、何か、見つけてくれるといいんだけど……。

 祐希は声を大にして笑い転げる。
「はっはっは、うんこ踏んだ、あの人うんこ踏んだ~~」

 案外、大丈夫なのかもしれない……。何にしても、僕は、最後まで君の味方だよ。家族であり、親友でもあり、君の守護者だからね。
 忘れないで祐希。いつも、君のとなりには、僕がいる事を――。

「ねえ聞いてんの? おい子犬、ポメラニアン」
「ポメラニアン言うな!」
「ねえ今度はあの人なんだけど、犬のうんこ拾わなかったよ」
「うんこうんこ……、うんこから離れなよ~……、天使の末裔の癖にぃ……」
「あっはっは、子犬がうんこしてるぅ~!」



乃木坂46十一周年記念作品
与田祐希・主演物語『言霊砲』



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 天界の天雲に住まう天使の与田祐希は、ここ何年か、下界の特に人間界の様子を覗(のぞ)いてばかりである。
 まるでダメの助(すけ)――。祐希はいつからか、そう名付けた若葉幸助(わかばこうすけ)だけを観察するようになっていた。
 若葉幸助――。与田祐希いわく、通称【まるでダメの助】。母想いで人柄が良いが、運勢に恵まれていなく、女子と全くと言っていいほど縁の遠すぎる、まるでモテない幸薄いダメ男。それが若葉幸助であった。
作品名:言霊砲 作家名:タンポポ