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言霊砲

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 中学生の若葉幸助は、同じ中学校に通う林田聖那(はやしだせいな)と奇跡的にか、交際を初めてもう約一カ月になる。しかし、交際の実状は若葉幸助が林田聖那にぺこぺこしてばかりで、プレゼントを強請(ねだ)られてばかり。
 それでも若葉幸助は、楽しそうに、幸せそうに、手も繋がない林田聖那との1日数分間の時間を、生きる糧(かて)にしているのだった。

 祐希は天使の唯一残された能力で、天雲を透過させて、人間界を透視する。若葉幸助の動向を眼と耳で追っていた。
「あ、もちお……。まるでダメの助、プレゼント買いに来たよんだよたぶん……。またあの子にプレゼント欲しがられたんだ。断ればいいのにぃ……」
 グリフォンは祐希と同じくうつ伏せになって、後ろ脚を伸ばしきって、リラックスしながら人間界を覗き見する。神の使いであるグリフォンは、聖獣の持つ能力の1つとして、下界を透視する能力も持ち得ているのである。
「今回は何を買うんだろうね。中学生なのに、アルバイトしてまで母親にお金作って渡してるっていうのに、あの彼女は、鬼だね、はっきり言って……」
「お金もったいないよ、まるでダメの助ぇ……。あ、買うよやっぱり」
「なんだろうね?」
 祐希とグリフォンは、眼を凝らして下界を覗く。
「あ~、わかった。ゲームって奴だ、もちお、ゲームだよ」
「それどころじゃないようだよ、祐希……。見てごらん」
「ん?」
 祐希は更に眼を凝らす……。

 若葉幸助が強請(ねだ)られたプレゼントを買いに大手電機メーカーへと訪れると、二階の電気機器製品のフロアにて、己の彼女である林田聖那を発見した。
 彼女は背の高いお洒落な男子と腕組みをして歩いていた。
 会計の済んでいないプレゼントを握ったままで、若葉幸助は呆然とその顔から表情を消していた。
 林田聖那は、笑い声を上げながら、フロアの若葉幸助に気がつく。
 若葉幸助は、呆然と立ち尽くしたままで、林田聖那から視線を逸らした。
「ああ、若葉君、なに散歩ぉ?」
「誰? 知り合い?」
「彼氏彼氏ぃ」
「それ笑うわ。じゃ俺はなんだって感じだし」
 林田聖那は、にこやかなまま、若葉幸助を見つめた。
「何してんの?」
 呆然としていた若葉幸助は、はっとするように、いつものように人の良い笑みを浮かべる。
「あの、ぷ、プレゼントを……はは、あのう、あの……、そちらの方は、どちらの方で? なんて言っちゃったりして」
「お前が誰だよ」
 ファッショナブルな制服の着こなし方をしている男子学生は、威嚇(いかく)するように若葉幸助を睨みつけた。
 林田聖那は、男子学生の制服を引っ張る。
「やめてかわいそうじゃん……。ねえそれって、私にくれようとしてんの?」
 若葉幸助は、俯(うつむ)いたままで、笑顔になる。
「あ、はいあの、あの………、そうです」
「お会計してきてよ、ここにいるから」
「あ、ああ、はい」
 数分後、会計を済ました若葉幸助は、プレゼント用に包装されたゲームソフトを、林田聖那に手渡した。
 林田聖那は、じいっと若葉幸助を見つめる。
「もらうね~、ありがと」
「いえ……」
 お洒落な男子学生は、林田聖那の肩に腕を回して、顔を近づけた。
「行こうぜ、俺んち来るだろ?」
「あ行く行く~!」
 若葉幸助は、人知れず力を込めた拳を握り締めて、想いを断つようにして、思い切って林田聖那を見つめた。
「あのう……」
 二人が振り返る。
 若葉幸助は、暗い表情で、林田聖那を見つめる。
「その方は、彼氏、さん、でしょうか……」
 林田聖那はにこっと笑った。
「そ。だから別れてね」
 若葉幸助は、含み笑いを浮かべる。
「あ、やっぱり、あは、そっか……。はい、あの、はい。俺なんかがずっと彼氏でいられるわけないし……。はい、別れます。はは、あは……」
 林田聖那は若葉幸助を見つめて黙っている。隣にいる男子学生は、厳(いか)つい眼で若葉幸助を睨んだ。
「へらへらすんなよ、きっしょ!」
「あ……、あは、すいません」
 林田聖那は眉を持ち上げて、鼻を鳴らした。
「もう話しかけてこないでね? あと、約束通り、付き合ってた事も誰にも言わないでね。言ったら約束通りストーカーで訴えるから」
 若葉幸助は頭を掻(か)きながらぺこぺことお辞儀(じぎ)をする。
「はあ、あのう……、はい。言いませんから、ふふ」
 屈託のない笑顔でそう言った若葉幸助の眼頭に、涙が浮かんだ。
「行こうぜ?」
「おけー」
 若葉幸助は、真剣な表情を浮かべて、林田聖那の背中を見つめた。
「あ、あの……。それじゃあ……、さようなら……」
 フロアの奥へと去って行く二人の影を眼で追いかけながら、若葉幸助は、儚く砕け散った心をそのまま投影したような泣きべそを浮かべて、しばらくそのまま、その場に立ち尽くしたままで、遠くの景色を見つめていた。

 祐希は大きな溜息をついて、下界の人間界から眼を離して、ごろんと蒼い空を見上げるように寝転がった。
「ダメだな~まるでダメの助ぇ~……。ま~たダメだった~……。あんな女、逆にふってやればいいのに」
 グリフォンは前脚を舐(な)めてから、祐希を見つめる。
「お人良しだよね、若葉幸助はさ。人間界では損得という言葉があるけど、若葉幸助の場合、そのお人良しな性格は損をする方だね」
 祐希は空に伸ばした手の平を見つめる。
「祐希に、恋の矢が使えればな~~」
「無い物を欲しても仕方がないよ祐希。それより、人間界はここ天界に比べると早送りみたいに経過が早い、もうそろそろ若葉幸助の続きを見てみようよ」
 祐希はまたうつ伏せになり、両手で頬杖(ほおづえ)をついて、下界の人間界を透視する。

「幸助、今月はデパートのお惣菜(そうざい)、売れ行きがいいから、お母さんのお給料だけで大丈夫かもしれないよ。ボーナスが出るかもしれないんだってえ。嬉しいね」
「うん……。良かったぁ、ね……。でも一応、今月分も入れるよ。余れば貯金できるじゃないか」
「そうだけど……。幸助、お前せっかく働いてるんだから、何か欲しいものでも」
「無いよ、無いんだ、欲しいもの……。欲しいものは、いつも手に入らない、なんちってな? あかっこよかった? 今の俺」
「幸助はいつもかっこいいよ、お母さん幸助がかっこいいのちゃんと知ってるから」
「ありがとう……。今日、ご飯は、いいや。ごめんね、お母さん。部屋、行くね」
「幸助、何かあった?」
「な~んもない、うっしっし、楽しいよ毎日。じゃあね、また明日~!」
 その後も、若葉幸助は夕食を取らずに、一人自室に閉じ籠ってアニメを観賞していた。
 アニメを見つめながら、若葉幸助は呟(つぶや)く。
「ついてねえな……。ついてないって言うのかな、こういうのは……。俺が、今日のあの男の人みたいに…、イケてたら……。また…、結果も違ってたのかもな……。何万も貢(みつ)いで、かっこ悪りいなぁ…俺ぇ……くそったれ……、本当に、好きだった……。くそっ……」

 グリフォンは黙って考え事をしている。祐希は若葉幸助を見下ろしたまま、今日何度目かもわからない深い深い溜息を、更に連発していた。

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作品名:言霊砲 作家名:タンポポ