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自分じゃない感じ

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自分じゃない感じ
~ワイルド・キャット~
            作タンポポ


       1

 私は美月。いま鳴き声を上げたこのかけがえのない尊い奴が、ペットの三郎だ。三郎は猫だ。そうそう、私と三郎との出逢いはペット・ショップじゃなかったんだ。
 三郎との出逢いは、今の私の家がある処からすぐ近くの、雑木林が生えた空き地の前の道路だった。
 こっちに来たそうな顔をして、私の前でちょこんと座り込んで、三郎が前足をちょこちょこ出しながら甘い声で鳴き声を上げた時に、ズババンと私に運命を感じさせる衝撃が走ったの。

「うちの子になる? あら~、なるの~」

 抱きしめた後は、すぐに最近引っ越した新しい住処へと二人で向かった。
 名前は悩まなかった。さぶろう~、という顔をしているからだ。それで、三郎。
 人間と猫の二人暮らしには、まあまあ贅沢なおうちかな。一階のソファが三郎のいつものお気に入りの居場所。私が寛ぐ場所は、いつだって三郎がいる場所だった。

「三郎、何食ってんの? ちょっとちょうだいよ。いや食いかけはいらねえし……」

 三郎はビーフジャーキーが好きで、いっつもクッチャクッチャと硬いおやつと格闘してる。歯というか、あごが強靭なんだろうな。鍛えてるのかな……。

「ねえ~三郎君、お風呂、そろそろ一緒に入ろうよ~。なに、嫌なの」

 三郎君は、お風呂が苦手らしく、誘っても大抵は入らない。だから三郎はいつも独特の匂いをしている。フェロモンなのかな。嫌な臭いでは絶対にないんだな、これが。私は三郎が可愛すぎて、三郎の身体に顔をくっつけてぐりぐりするのが好きなんだけど、嫌な臭いを感じた事はなかった。風呂嫌いのくせに、すげえポテンシャルだ。
 近年、両親とは会っていない。ほんと、ぎり顔を憶えてる程度だよ。もう何年も両親との思い出なんか振り返っていないし、そんな寂しがり屋でもない、もうしっかりとした大人ですからね。

「さ~ぶちゃん。さ~ぶちゃんこっちおいで! あー来たの~!」

 今は、そばに三郎がいてくれれば、私は充分に幸せで満たされているんだ……。
 三郎、長生きしてね。

       2

 このメスは、はっきり言って可愛い。めっちゃくちゃ可愛い。俺にべったり懐いてるし、名前を叫べばすぐに近くに寄ってくる。思い切ってペットにしてよかった。
 気が付くと、じっと俺を見つめている。鏡越しでもにっこりと俺を観察している時があった。全く、可愛らしいメスだ。
 一緒に暮らし始めて、もうどのくらいだろうか。二、三ヶ月は経ったのかもしれない。こいつと会ってからは、本当に時間が経つのが早い。飽きない、とでも言っておこうか。基本放任主義なので、自由な時間は生活が二人になってからもあまり変わらなかった。
 お互い、かまいたい時、かまわれたい時に、お互いを求める合うシステムだな。
 俺はこいつの毛並みが好きだった。いっつも手入れしていて、綺麗な茶色で統一されている毛並み。いい匂いがするのは気のせいだろうか、風呂好きだからだろうか。あんなもの、よく好んで入るもんだ。めんどくさいし、めんどくさいし、めんどくさい。あんなものに入らなくても、同居人のメスもいるから、大丈夫、ではないので、たまにでいいんだ、たまにで。
 俺はとにかく眠るのが好きだ。それをあのメスが気分で阻害してくるのが玉に瑕(きず)だな。
 でも、一緒に寝るのも、まあ、悪くはない。なんたってこのメスは、俺の家族で。そう、俺の今いる唯一の、大事な家族なんだからな。

       3

 三郎はヒョウ柄の猫で、凄くカッコイイ。猫の中の猫チャンピオンだ。私はというと、ファッションはいつも地味だった。唯一の自慢は、毎日欠かさず何度もとかす艶のある髪の毛だろうか。
 私のお気に入りの場所は、家から歩いてすぐの処にある、雑木林の空き地なんだ。そう、三郎と出逢えた記念の場所――。
 三郎も、たまにここに遊びに来ているはず。雑木林の独特な匂いが身体中から漂ってる日があるからね。私は匂いには敏感なんだ。あと、この記念の場所である雑木林の匂いが好きだから、わかるという理屈もある。

「三郎? あれ……?」

 三郎、今日は朝に見たっきりで、それ以降は姿を見ていない。何処に行ったんだろうか。ついて行ってみたいな、いつかでいいから。三郎の日課を知りたい。
 私の両親は、まだ生きているのかな。幸せに暮らしているのかな。
 私は、幸せだよ。
 美月という私の名前は、私の愛する人から貰った、私のお気に入りの、唯一の自慢の名前だ。

「三郎、美月、て言ってみな。ほら、みぃ、づぅ、きぃ!」

 当たり前だけど、三郎はたまにしか私を美月とは呼んでくれない。当たり前か。呼びたくても身体の造りが違うから、呼べないわけだよね。たまーに、へたくそな発音で『みぃでぅきぃ~』て近づいてくるんだけど。
 ああ、一度でいいからさ、うちの三郎君に、ちゃんと『美月』てさ、呼んでもらいたいな。
 なんだか、三郎が家にいない時には、三郎の事ばかりを考えている気がする。帰って来なかったらどうしようとか。他の猫を連れて来て、イチャイチャしだしたらどうしよう、とか。

「さぶろ……。今日は、どこ行ったのかな……。さぶろ……早く、帰ってきて」

 三郎がもし、もしも三郎が人間だったのなら、私は三郎と、結婚がしたいな――。
 鋭い眼つきがクールで、独り言も何言ってんだか笑えて面白い。少しかまい始めると、それに熱中してずっと同じ事を繰り返して私にもっとやれと求めてくる。まるで一生変わらない子供のようだ。
 子供のように、三郎は純粋だ。私にも懐いてくれてる。
 三郎、お前、どうして人間じゃないんだ?
 三郎……。今夜、眠りに落ちる前に、また、おやすみのキス、しようね……。

「三郎……、先に、寝てるよぉ………。さぶ、ろぉ……」

       4

 俺のうち、というか、この可愛らしいメスとの共同生活の拠点は、出入り自由だ。年がら年中、奴も散歩に出かけているし、俺もよくあのメスをほったらかしにして散歩に出かける。散歩はいい。いや、外出が自由というのが、共同生活をするオスとメスにとって、最高の条件なのだ。散歩では顔見知りに会えるし、出入りが自由な為に、俺はたまに約束をして、友達とも遊びに行っている。
 その頃メスが何をやっているかは全く気にしない。そのフリーな関係が、なんだかいいじゃねえか。マジで気に入ってる。
 今日はずいぶんと機嫌が良い。朝飯がうまく感じたからだな。太陽の奴も燦燦と照っていて、暑すぎるのは暑すぎるが、景色がぱあっと太陽に明るく照らされていていいじゃなか。
 そんな晴天の日本晴れ日和を、俺はふらふらっと散歩する。屋根の上で日光浴、というのも捨てがたい日照りだな。
 そうだな、今日は夜まで屋根の上で日光浴でもするか。

       5

「あ、さぶちゃんお散歩? 今日はどこ行くの?」

 いつも三郎は何処に遊びに出かけているのだろう……。気になり始めた私の心は、もうその事を考える事でぱんぱんに破裂しそうになっていた。
作品名:自分じゃない感じ 作家名:タンポポ