未来卵
遠藤さくらがセンターの『君が扇いでくれた』が歌われる……――。遠藤さくらを始めとして、浴衣(ゆかた)を着たメンバー達が縁日の夜のように集う。歌詞もメロディもメンバー達も――。何もかもがエモーショナルであり……。打ち上げ花火の破裂音と共に、団扇(うちわ)を扇(あお)いだ遠藤さくら達は、夏の夜の楽しみ方を知っている顔で笑っていた。
「すげえいいじゃん……」風秋夕は呟(つぶや)いた。
「エモい……」稲見瓶は囁(ささや)いた。
「さくちゃーーーっん‼」磯野波平は大きく叫び上げた。
「んん名曲!」姫野あたるは眼を瞑(つぶ)った。しかし乃木坂46が見たいのですぐに眼を開けた。「んん名曲、でござる!」
「ほ~んとエモいわね~~」宮間兎亜は囁(ささや)いた。「浴衣がいいわ浴衣が~」
「素敵な曲……」御輿咲希は眼を潤(うる)ませていた。「い~い曲」
「……」比鐘蒼空は、必死に乃木坂46を見つめていた。
「僕ドキドキしちゃうよ~~!」来栖栗鼠は満面の笑みで言った。
「なんかなあ?」天野川雅樂は、そう言って、照れた。
波の音――。セミの鳴き声――。
筒井あやめセンターで『太陽に口説かれて』が始まる――。真っ赤なライティングに燃え盛る夏の太陽が、ジリッジリッとセクシーが奏でている。
阪口珠美のBLOGと題して『いよいよ…明治神宮野球場―!』――。阪口珠美のナレーションと、阪口珠美や様々な景色、夏の浴衣を着たメンバー達が映し出される。
阪口珠美のセンターで『魚たちのラブ・ソング』が始まる――。貴重な齋藤飛鳥のポニーテールがふらりふらりと風に揺れる……。阪口珠美のソロダンスに、レーザー光線が加速する――。ブルーを基調としたライティングは美しく、儚い説得力を持っている。
山下美月のセンターで『ごめんねスムージー』が始まる――。山下美月のハーフアップ・ツインテールが大きく健やかな笑顔に可愛らしく飾られている。パステルカラーのふわふわミニドレスを纏(まと)ったメンバー達は可愛いの権化(ごんげ)であった。
羽ばたきたい――。
気がつけば9月――。
9月4日で、三期生は6周年を迎えます。
毎日が不安でいっぱい。先輩方が誇りです――。
私の運命を変えてくれた先輩方は、私の永遠の憧れです。
5年前の言葉に、嘘は一つも無く――。
ともにする時間が重なっていく度に、愛しくなるメンバー。
この夏は、愛が溢れる夏でした――。
今年も、乃木坂46と共に、暑い夏を過ごして下さり、本当にありがとうございました――。
未来への希望を胸に――。
私の背中にも、使ってない羽があると信じて――。
久保史緒里をセンターに『羽の記憶』がギターの旋律に合わせて歌われる――。キャンプファイヤーを背景に、炎に赤く照らされて、夏の夜に燃え盛る炎を取り囲み、心を洗う声達が歌っている……。涙するメンバーもいた。
空は何処までもある。
持て余すぐらいに。
空は飛ぶ為にある。
見上げる為じゃない。
自分の背中には、使ってない羽がある。
記憶を信じる事。
まだ眠る可能性、無限大だ――。
そのまま、ギターサウンドに合わせて『シング・アウト』を合唱する――。暗闇と化したキャンプファイヤーの灯りだけの世界で、齋藤飛鳥の人影は、美しく妖艶にソロダンスを踏む……。会場中のオーディエンスからクラップが鳴り始まり、乃木坂46もクラップをしながら、最後までその尊い歌唱を続けた。バックスクリーンに映る彼女達のモノクロの写真達が、その場面を次々に変えていく……。
「飛鳥ちゃんって、マジで精霊か天使とかなんじゃないかな」風秋夕は笑みを浮かべて囁(ささや)いた。「ブラボー!」
「胸が苦しい……」稲見瓶は、微笑んだ。
「バ~カ」磯野波平は座視で稲見瓶を一瞥(いちべつ)した。
「ほんとに、乃木坂とキャンプに来てる気分~」来栖栗鼠は、頬の涙を指先でそっとぬぐった。「雅樂さぁん、ほんとに生きてて良かったね?」
「もったいねえ」天野川雅樂は拝(おが)んでいた。
「…っ…っっ」御輿咲希は、まだ泣いていた。
「あ~~、泣けるわねぇ~……」宮間兎亜は、涙を手の甲でぬぐった。
「愛で溢れているでござる……。感動するでござるう~~‼」姫野あたるは大泣きする。
「………」比鐘蒼空も、声を殺して、泣いていた。
鈴木絢音のMCが始まる。与田祐希と、賀喜遥香を交えて『夏の思い出・ワンミニッツ!』と題して、1分間でトークをして、良かったらサイリュウムを赤に、もうちょっと頑張れ、と思ったらサイリュウムを青に、とにかく可愛かったら、サイリュウムを黄色にする、との説明があった。
まずは、与田祐希が話し始める――。今年の夏は初めてプライベートで北海道に2人旅行をし、一緒に行ったとある方と、海鮮を食べたり、ノース・サファリ札幌という動物園に行き、蛇を首に巻いて写真を撮ってもらったり、危険な動物達と触れ合ったりしたらしい。1泊2日の相方である、とある方というのは、乃木坂46の先輩、西野七瀬である事が最後に告げられた。
とにかく黄色が多かった。
続いて、賀喜遥香が話に挑戦する――。皆さん、幽霊って信じてますか? 小学生の頃のお話なんですけど、体育館に集まっていた朝礼の時、たまたま一緒にいた霊感のある女の子が、校長の話の最中に、突然えーんえーん泣き出したんですよ。あそこの体育館の角から、こっちを見てるの。血だらけの女の人が……。とそこで話は終了した。
圧倒的に青が多かった。
水色のライティングから、一瞬の白いフラッシュ――。ステージは次々とそのライティング・カラーを塗り替えていく……。和田まあやのセンターで『あの日僕は咄嗟に嘘をついた』が始まった――。紅いロングドレスで、列を成してステージを中央へと歩いていく。
その場所で、和田まあやセンターの『アンダーズ・ラブ』が開始される――。飛び交うレーザー光線。霧が立ち込め、誕生ケーキのように段を造りスライドしていくステージ上で、激しいフラッシュを浴びたメンバー達は、歌い踊り続ける。ラスト、和田まあやは、泣いていた。
「まあやちゃーーーーっん‼」風秋夕は全力で叫んだ。
「まあやちゃーーーん!」稲見瓶も全力で叫ぶ。
「まーーあーーやーーーーーっ‼」磯野波平も全力で叫んでいた。
「まあやちゃん! まあやちゃん! まあやちゃーーーん‼」姫野あたるも全力で叫んだ。
「………」比鐘蒼空は半口を開けて、『アンダーズ・ラブ』に魅入っていた。
「まあーやちゃーーーん‼」天野川雅樂は全力で叫ぶ。
「まーやちゃーーーん‼」来栖栗鼠も笑顔で、全力で叫んでいた。
「まあやちゃーーーん‼」宮間兎亜も、全力で叫ぶ。
「まあやちゃーーーん!」御輿咲希も、涙を浮かべながら全力で叫んだ。
九人のサイリュウムは、全員が黄色であった。
遠藤さくらセンターの『ごめんねフィンガーズクロスト』が始まる――。乃木坂の変換期を支えたこの楽曲を、遠藤さくらと乃木坂46のメンバー達が渾身の一曲へと築き上げていく……。