未来卵
中西アルノがセンターの『アクチュアリー』がテンポの良い鎮静化された旋律から、サビでその楽曲の美しさを爆発させる――。舞い上がる火柱。大爆発の中、赤い花火の舞い上がる中、紫の花火が発破する中、火花が上がる中、彼女達は必死に巧妙な美しさをやめなかった。
齋藤飛鳥のセンターで『深読み』が始まる――。黄色から赤に変わった空間の中、数多(あまた)の松明(たいまつ)が燃える。
「飛鳥ちゃんセンターなんだよなっ!」風秋夕は喜んだ。「飛鳥ちゃんはやっぱそうでなくちゃ!」
「貴重だ」稲見瓶は、見とれながら囁(ささや)いた。
「飛鳥ちゃーーん‼」磯野波平は大声を叫ぶ。
「ダンスがさあー!」来栖栗鼠は天野川雅樂に言う。「可愛いんだよ~~!」
「飛鳥ちゃーーーん‼」天野川雅樂は叫ぶ。「飛鳥ちゃーーーん‼」
「飛鳥ちゃん殿、可愛すぎるでござるのに、セクシー! でもある、でござるな!」姫野あたる、嬉しそうに笑う。
「飛鳥ちゃーーん‼」比鐘蒼空は叫んだ。
「飛鳥ちゃーーーーーっ‼」宮間兎亜は必死になって叫んでいた。
「飛鳥ちゃーー!」御輿咲希はうっとりとしていた。
遠藤さくらの『ラストスパートで~す! みんなで盛り上がりましょ~!』という掛け声から、遠藤さくらがセンターの『太陽ノック』が開始される――。『皆さん、ライブ楽しんでいますか! この景色を見て、もっともっと皆さんに笑顔と感謝を届けて行きたいなぁと思いました! 最後まで、楽しんでいきましょう!』遠藤さくらは笑顔でそう声を上げた。ホースで水をかけ合う乃木坂46。華奢な悲鳴が上がった。
梅澤美波の激しい『まだまだ終わりじゃねえぞ~! お前らの気持ち、全部サイリュウムに込めて、出し切って行け~~!』という煽りから、梅澤美波センターの『空扉』が始まった――。クジラやイルカのフロートカーに乗り込んだメンバー達は、大きく手を振り、歌い、オーディエンスやメンバー同士に水飛沫を噴射する。――『2022年、最っ高の思い出ができました! 皆さんの気持ち、ちゃんと受け取ったよ~~!』そう曲中に梅澤美波が叫んだ。
齋藤飛鳥がセンターの『ジコチューで行こう!』が始まる――。3段式にスライドしたステージで乃木坂46は歌い、舞い踊る。与田祐希と山下美月が、齋藤飛鳥の両脇に寄りそい、齋藤飛鳥の貴重なポニーテールを持ち上げて遊んでいた。賀喜遥香と遠藤さくらは抱き合いながら、互いに涙していた。そして――。間奏のだるまさんが転んだでは、驚くべき事に、齋藤飛鳥が与田祐希の頬にキスをした――。思わず大歓声が上がり、与田祐希は嬉しそうに齋藤飛鳥に会釈していた。
齋藤飛鳥はステージを駆け抜ける。水柱が打ち上げられる。最後、巨大な水花火(ウォーターキャノン)が空へと飛んだ。齋藤飛鳥はラスト『あーちょと、……やりすぎ!』とびしょ濡れになって、困ったように縮こまっていた。
「キスした! 与田ちゃんにキスしたぞ飛鳥ちゃんがっ‼」風秋夕は大興奮する。
「チュウしたぞっ! 今の見たかけてめえらっ、チュウしてたぞっ‼」磯野波平は驚愕する。
「ああ~、今年の夏は、どうかしてる」稲見瓶は囁(ささや)いた。
「雅樂さぁーん! 飛鳥ちゃんがあ!」来栖栗鼠は眼を離さずに叫んだ。
「ああしたな! したな今!」天野川雅樂も眼を離さずに叫んだ。
「飛鳥ちゃんのチュウよ~~~っ‼」宮間兎亜は、満面の笑みを浮かべた。
「ひっさびさに出ましたわね!」御輿咲希はにこりと笑った。
「あああああ飛鳥ちゃん殿っ、しょうせ、小生には刺激がっっ‼」姫野あたるは心拍数を上げて騒いだ。
「キス、した……」比鐘蒼空は、驚いてしまっている。
賀喜遥香が、改めてファンへと言葉を贈る。色んな愛を感じたな、と思う。どの会場でもそれは感じていたと。辛くなった時は、同期が抱きしめてくれたり、先輩が助けてくれたり、5期生が励ましてくれたりして、ここまで頑張ってこれたのだと語る。
手を振ったら、泣いて喜んでいるファンの方がいて、改めて、こんなに愛に溢れている場所は、他にあるのか、という事に気づいた。この環境は当たり前じゃなくて、先輩達が積み重ねて来てくれたからこそ、ある場所で――。その先も、この場所を大切に、守りたいと思ったし、ずっとずっと先まで繋げていきたいと思いました――。
自信がないところ、頼りないところ、沢山あると思うし、と――涙をこぼしながら、賀喜遥香は己自身を語る……。オーディエンスが、拍手で彼女を支えていた。
『改めまして今日、会場に来て下さった皆さん、そして配信で観て下さっている皆さん、本当にありがとうございます。今日はツアー最終日で、今回、全国ツアーで全国各地回らせて頂いて、本当にまず一番に思ったのは、『色んな愛を感じたな』とのを、今ここに立ってみて一番思って』
『もちろんどの会場でも凄く楽しくて、毎公演毎公演本当に楽しくて。でも、その中でも苦しくなっちゃう事があって。そういう時は先輩方だったり、同期のみんなだったりが抱きしめてくれたり、スタッフの皆さんが明るく話しかけて下さったり、後輩の5期生ちゃんが『賀喜さんのここが好きなんです』とか言って褒めたりして。自分の中のネガティブな気持ちを乗り越えて、今日最終日、ここまで走りきってこれました』
『ステージに立ってからも、ファンの方の温かさに圧倒されるばかりで、声が出せなくてもペンライトだったり、タオルだったり、拍手だったり……。そういった形で応援して下さってるし、手を振りに行ったら泣いて喜んで下さるファンの方々もいらっしゃって、そういう景色を見た時に『私達ってこんなに愛して頂いてたんだ』っていうのを、改めて知りました』
『こんなに愛に溢れている場所、他にあるのか? ってぐらい、この乃木坂46が温かくて。この環境は、当たり前じゃなくて、今まで先輩方が乃木坂の為に、スタッフさんの為に、応援して下さっているファンの方々の為に、そういう気持ちを持って活動を、積み重ねてきて下さって、そうして、私達はここに立っているし、そういう思いが詰まって、生まれたもの、…っていうのを身にしみて感じたので、この場所をこれから先も大切に、守りたいと思ったし……。これから先は行ってくる、後輩の子とか、ずっとずっと先まで繋げていきたいと、思いました』
『私は、こういう発言の場を頂いても、自身がないところを見せてしまったり、後は、頼りないところも沢山あると思うし……――』
賀喜遥香は、涙を浮かべ、声を詰まらせる……。
温かなファンの拍手が、彼女を支えていた――。
『でも……。思う事もあるけど、これからの乃木坂46を作っていく一人になりたいなと思いました。本当にありがとうございます。本当に、ツアーをやってきて、へなへなしたところが多かったかもしれないけど、この夏の間支えて下さった皆さん、応援して下さった皆さん、ありがとうございました。そして、貴重な、かけがえのない経験をさせて下さって、本当にありがとうございました――』
『改めて……、言わせて下さい……――。私は、本当に、この愛の詰まった乃木坂46が大好きです――』
オーディエンスからの盛大な拍手がわき上がった――。