二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ここにしかないもの

INDEX|1ページ/12ページ|

次のページ
 
☆二部構成作品の第二部にあたる本作をお読みになる前に、二部構成作品、第一部にあたる『ここにはないもの』を先にお読みいただく事を強く推薦致(すいせんいた)します。タンポポより



   ここにしかないもの
           作 タンポポ



       0

 二人で来る初めてのディズニーシー。ミステリアスアイランドに響く子供の喜ぶ声に、自然とテンションが上がった。自分は、いつの間にか、ディズニーランドではなく、ディズニーシーを選ぶぐらいには大人になっていたのだ。
 慎弥(しんや)とも、初めて手を繋いだ。記念写真も、もう百枚以上は撮っただろうか。基本、思い出は眼に焼きつけるタイプなのだが、プロメテウス火山にあるセンター・オブ・ジ・アースでは、終始眼を瞑(つぶ)ってしまった。猛スピードの中でも、慎弥はずっと笑っていたな。
 こんなに楽しいのは、人生で初めてか、二番目ぐらい、かもしれないな。
 齋藤飛鳥は活火山を模したジェット・コースターのあるプロメテウス火山を後にして、キャラクターグッズなどを扱っているショップ、ノーチラスギフトにて、歩くのが遅い光葉慎弥(みつばしんや)を必死に手招(てまね)いた。

「はぁやくして、なんでそんなゆっくり歩くわけぇ?」
「酔ってんだよ、さっきのジェットコースターで……」
 飛鳥は大袈裟(おおげさ)に笑ってから、ショップの入り口付近でキャラクターグッズを物色し始める。
「歩くのおそ~い、罰ポイントだ……。すぐ来ない罰に、なんか買ってもらいますからね~」
 光葉慎弥はにこり、と苦笑して、ゆっくりと歩いてから、ショップの前に立って静かに興奮している飛鳥の頭に手をやった。
「ドナルドのものまね、うまいじゃんか。ドナルド買ってやろうっか?」
 飛鳥は光葉慎弥を軽く見上げて、怪しく微笑む。
「ドナルドなんって、あったり前でしょう。もっと買ってもらうから」
「えーもうそんな勢いなわけ?」光葉慎弥は苦笑する。「最後、おみやげ買うぞ?」
「何言ってんの、当然でしょう」
飛鳥はぷいっと、ショップのグッズへと歩み寄っていく。
光葉慎弥も、店内を見渡しながら飛鳥のそばへといった。
「なんですぐそばくんの? 自由に見ればいいじゃん」飛鳥は機嫌悪そうに、隣に立った光葉慎弥を見上げた。「腹減らした子犬か、あんたは」
「プルート、だよな…、犬って確か」光葉慎弥はにこやかに言う。「でも飛鳥がドナルドなら、俺はデイジーじゃないと」
「だったら逆じゃない?」飛鳥は、また棚のグッズを物色し始める。「私が、デイジーでしょう、だったら」
「そう、だ、ね!」
「うわあ!」
 飛鳥は跳び上がりそうになった――。光葉慎弥が、飛鳥の両脇腹を、両手の指先で突いたのであった。
「んもう、ほんっとに、ガキ! ムカつく!」
「ご機嫌ななめですね、飛鳥ちゃん」
「もうやんないでよ、やめてよね、びっくりするから」
「それってフリ?」
「はあ?」飛鳥は顔をしかめる。
「フリだよな?」光葉慎弥は、白い歯を見せてししし、と笑った。
「やめてやめて!」
「ほい!」
「わあ!」

 購入したドナルドダックのナップサックは飛鳥は背負(せお)った。ドナルドダックのナップサックの中には、ドナルドダックとデイジーダックのぬいぐるみが入っている。
飛鳥と光葉慎弥は、海底2万マイルの周囲をぐるりと回るようにして、メディテレーニアンハーバーへと向かって歩いた。
 短い洞窟(どうくつ)を潜(くぐ)り抜けると、海賊船の浮かぶ大きな青海が二人の眼の前に広がった。不思議と、他人の姿はその壮大な景色のキャストには含まれていなかった。
 二人だけの世界……。
 飛鳥は青い海にその眼を輝かせる。

「飛鳥……」
 光葉慎弥はスマートフォンを構えた。
 飛鳥は「ん?」と振り返った。
 シャッターを切る音が連続で響く。
「な~んでそうやって勝手に撮るの~? 相談も無しに……」飛鳥は眉間(みけん)を顰(ひそ)めた。
「ぷふ……、普通、相談なんかしないだろ」光葉慎弥は可笑(おか)しそうに笑い、またスマートフォンを構える。「飛鳥ちゃん、はい笑ってぇ~?」
「ふん」
 パシャ――。

 光葉慎弥はスマーフォンを握った手を下ろして、飛鳥を見つめてから、その背後の青い海原を眩しそうに眺めた。
 飛鳥は、そんな光葉慎弥をじいっと見つめる。
 しばし、数秒間が流れてから、飛鳥の視線に気がついた光葉慎弥は、「どした?」と飛鳥に微笑んだ。
 飛鳥は「ううん、別に?」と、つんとした態度をとった。

「腹、減らない?」
「減らない」
「でも、ディズニーっていえば、チュロスなんだってさ。工場のおっさん情報だけど、何度も来てる人みたいだったから、そうなんじゃない? チュロス探そうぜ、飛鳥」
「別に、いいけど」
 飛鳥は、先に歩き始める。光葉慎弥は、苦笑してから、飛鳥の後を追った。
 光葉慎弥は、飛鳥の隣に並んで歩く。
「飛鳥ぁ……」
「ん?」飛鳥は、光葉慎弥を見上げる。
「腕組みたい……」
 飛鳥は視線を下げて、口を強く閉じてから、小首を傾げた。前を向いて歩き始める。
「それはぁ……、ちょっと、難しいな……」
「っはは、そっか。ま~だダメか……」光葉慎弥は遠くの景色に笑みを浮かべる。「もう、付き合いはじめて、一年経つんだけどなぁ……」
「そんなん、関係ないから……」
「まあ、別に腕が組みたくって飛鳥と付き合ってるわけじゃないけどな……」
「じゃあ何で付き合ってるの?」飛鳥は、無垢(むく)に光葉慎弥を上目遣いで見上げた。
「笑顔に惚れたから」光葉慎弥はにこっと笑った。
「……ふう~ん」飛鳥は、ぷいっと、前を向く。
「あ、照れた」光葉慎弥は飛鳥の顔を覘(のぞ)いた。「マジ? チョロくね、飛鳥って、っはは」
「照れてなぁいもん……」飛鳥は唇(くちびる)を尖(とが)らせる。「うるっさぁい……」
「照れてやんの……、はは、可愛すぎん?」
「うっせえ」
「ああ、またみやげ屋があるな。何だよ、彼氏に優しくねえ国だな、夢の国って……」
「この花って、毎日お水あげてるんだよねえ? ねえ誰があげるの?」
「妖精さんだろ」
「綺麗……」

 花壇の植木の美しさに機嫌を取り戻した飛鳥は、石の地面を小走りして、ミラマーレと出されている看板まで走った。光葉慎弥はスマートフォンでそんな飛鳥を撮影しながら、ゆっくりとその路を歩いた。

「ドナルドのカチューシャってあるのかな?」光葉慎弥は、不思議そうにグッズを見渡す。
「こういう時は、見栄え的にミニーちゃんでしょ。ミニーちゃんのカチューシャ」飛鳥はをそれを手に取って、頭につけてみた。「あ、これ買う~」
「じゃあ、俺はミッキーの買う」
「えー、いやいや、リンクコーデは……、きつい」飛鳥は視線を逸らした。
「何できつい? なんてった? りんくこーで?」光葉慎弥は眉間(みけん)を顰(ひそ)めた。
「ペアルックの事だよ!」

 ミニーマウスのカチューシャをしたご機嫌の飛鳥と、ミッキーマウスのカチューシャをした土産袋で両手のふさがった光葉慎弥は、メディテレーニアンハーバーをぐるりと半周して、リドアイル前で記念撮影をした。
作品名:ここにしかないもの 作家名:タンポポ