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アルスカイダルの非常階段

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「絶対やだ」
 さくらは後ろを向いたままで言った。
 そのまま給水室から一歩出る。歩き出す前に、一度だけ無音の深呼吸を消化した。
 ドアがなく、廊下の凹みに造られている給水室から、また光夫の明るいふざけた声が聞こえる。
「時代を先取るニューパワー」
「あ…、そっくり」
「うるせえ……。はは」
 光夫の声が廊下に聴こえる。
「いいじゃん、今度飯作ってやるからさ、映画でも観ながら食おうぜ」
 ふいに元に戻ったその整った顔で、さくらはちょこん、と給水室に顔を覗かせた。
「ぜ~ったい、やだ」
「俺の茶碗が無意味になんだろ~? これなんつう茶碗か知ってるのかぁ?」
「知~らない」
 さくらは給水室から顔を引っ込める。その名前入りの、二つ揃った茶碗の名前は、『夫婦茶碗(めおとちゃわん)』。
「デートに来ない奴は無視しまぁす」
「それはしょうがないだろ~?」
「聞こえません」
「お~い……」
 廊下を歩き始めたさくらの顔は、もう難しくも何ともなかった。実に爽やかに笑っている。
 それを追いかける光夫の顔は実に難しそうである。
 それに対して、やはり、さくらの顔は楽しそうに笑っている。今度その口がふんじばったのならば、例によって、それはその時なのだろう。


    完


    あとがき
           作 タンポポ


 今回は、遠藤さくらさんを主人公とした短編作品を手掛けさせて頂きました。この作品を、とてもとても、物凄く気に入っています。タンポポ乃木坂短編小説集の中で、映像化したいNO,1作品かも知れません。個人的に、わりとこういうテイストの物語は好きです。
 ただ一つ、愛する遠藤さくらさんがとにかく酷い目にあうので、書いていて心が折れそうになる瞬間が沢山ありました。いやしかし、遠藤さくらさんが主人公だからこそ、引き立つ面白みというものが絶対にあるのです。
あの遠藤さくらさんが、こんな物語に挑むのですから、それは当然ですよね。
これを書かせて頂けた事で、一つ踏ん切りがつきました。これから乃木坂46のメンバーが、恐ろしい体験をするであろう物語も、書いていけそうです。いいえ、必ず名作にしてみせますので、これから進んでこういったメンバーが辛い思いをする物語も書かせて頂きたいと思います。
遠藤さくらさんの、たまにやるあのふんじばった口元、今回はそれを書けて幸せでした。とにかく、可愛い。エントリーナンバー八番も気に入っています。
はい。とても良き物語を書けたと一安心しております。次の作品もすでに構想は終えていて、後は文字に起こすのみとなっていますので、こうご期待。
次回作もまた、良き作品をクリエイトしていきたいと思っております。それでは、次の作品でまたお会い致しましょう。タンポポでした。


            ~完~