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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ1

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「うむ、またな、宇髄! あ、そうだ。その、明日あたり荷物が届くと思うのだが……代金はこれで足りるはずだ」
 少し口ごもりつつ宇髄を呼び止めた杏寿郎が慌てて財布から札を取り出すと、宇髄は愉快げに笑い、不死川はなにやら表情筋が死んだ半目開きになった。
 不死川や伊黒がよくする表情だが、この顔、ほかにもどこかで見た気がする。杏寿郎は知らずパチリとまばたいた。
 感情の読めない虚無顔は義勇もよくするけれど、義勇の場合は、猫がなにもない空間をじっと見ているのに似ている。幽霊でもいるのかと怯えられることもあるが、杏寿郎からすればぼんやりしている義勇もかわいいなと、微笑ましいだけである。
 対して不死川の表情はといえば、どちらかというと諦めの境地だ。伊黒もちょくちょく見せる顔である。見慣れた表情だが、なにに似てると思ったんだろう。
 思い出せぬもどかしさに首をかしげた杏寿郎は、すぐにポンと手を打った。

 そうだ、この前のお泊りで義勇のアパートで見たアレだ。声をごまかすためにつけたテレビに映っていた、アレに似ている。チベットスナギツネだ。

 思い出せた爽快感に杏寿郎は知らず笑みになったが、口には出せなかった。さっきの今で交わす会話としては、やはりどことなし恥ずかしくはある。ついでに、壁の薄い安アパートでのあれこれも連鎖的に思い起こされ、我知らず頬が熱くなった。
「了解。ブツはいつもどおりここでわたしゃいいな? 明日もバイト入ってんだろ?」
「うむ! クリスマスの軍資金を貯めなければならないのでな! 今年はちょうど週末だし、千寿郎には申しわけないが義勇と二人きりで過ごすのだ!」
 今月は新幹線代だけでなくプレゼント代だって稼がねばならない。それに今年は義勇が免許をとったから、二人でドライブしてイルミネーションを見に行くのだ。
 義勇には内緒だが、レストランも予約済みである。もちろん、杏寿郎がおごる予定だ。
 俺のほうが年上なんだからと義勇は杏寿郎におごられるのを嫌がるが、ここはこちらの顔を立ててほしいところだ。年上の恋人に甘えきりなど男がすたる。
 だいいち義勇だってまだ学生なのだ。学費は早逝したご両親の保険金やら遺産から捻出しているが、家賃や食費といった生活費はバイトの給料でまかなっている。奨学金こそ借りてないものの、絵に描いたような苦学生だ。
 住んでいるアパートも、昔蔦子と暮らしていたのと似たり寄ったりな四畳半一間である。ユニットバスがついているぶん、まだマシといったところだ。デート費用ぐらいは彼氏である自分が出さずしてどうする。
 まぁ、いつもは声を抑え動きも抑えで隣やら階下を気にしつつなホニャララを、気兼ねなく堪能すべくホテルに泊まりたいなんていう、絶対に義勇には言えぬ予定もあったりするのだけれど。というか、もう予約してるけれども。十八になっててよかった。

 うむ、食事代は押し切られて割り勘になったとしても、ホテル代は俺が出さねば。いや、出す! 彼氏として、ここは譲れん! 予約済みだと当日に知れば、義勇だってキャンセルしろとは言わないだろうしな!

 胸中で決意の焔を燃やし張り切る杏寿郎に、なにかを悟ったのか、不死川はもはや相槌すら返さない。そのぶんというわけでもなかろうが、宇髄の秀麗な顔にはちょっぴり人の悪いニヤニヤ笑いが浮かんだ。
「へぇ。……頼んだの十個入り? クリスマスにお泊まりなら派手に盛り上がんだろ、足りんの?」
 横断歩道へ向かって歩く途中、笑う宇髄からこっそり耳打ちされ、杏寿郎の顔がボンッと火がつく勢いで真っ赤に染まった。歩みだって止まる。
 絶句した杏寿郎に、宇髄は今日一番の愉快げな声をたてて笑った。

「ま、頑張れや、恋する青少年。かわいい黒猫と暮らせるよう、派手に祈ってやんよ」
「あー……猫、な。似てなくもねぇかァ。ていうかよ、宇髄が言うと別の意味に聞こえんぞ」

 不死川の顔にも苦笑が戻る。真っ赤な顔で固まったままの杏寿郎を振り向き見た視線は、呆れを含みつつもどこかやさしい。
「お、そういやそうだな。さすが俺様、無意識でもうまいこと言うねぇ」
「アホか。ま、そりゃともかく、ありゃ保護しとかねぇと危なっかしいからなァ。首輪つけとくにこしたこたぁねぇか。オラ、仕事すっぞ。甲斐性あんとこ見せてぇんだろォ」
「……うむ! 残り時間も頑張ろう!」

 信号が青に変わる。先に渡りだした二人に追いつくべく、杏寿郎は空き缶をギュッと握り駆け出した。
 今日は九時までの勤務だ。残りは三時間。倉庫内は底冷えが激しくて暑がりな杏寿郎さえときに震えるぐらいだが、愛しい『黒猫』と過ごす特別な日のためだ、頑張らなければ。

 できることなら、春には大切で特別な、大好きでたまらぬ黒猫と暮らせたらいいのだけれど。

 ペットではないから飼いたいなんて言わない。杏寿郎は、大好きな黒猫と暮らしたい。一生、一緒に。