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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ1

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「そうは言っても、コンビニで売ってる避妊具では、義勇とその、そういうことをするには、あまり体に良くないと宇髄が言うのだ。義勇の体を損なうような真似はできん。それに、宅配便を受け取るのは母上か千寿郎だ。なにを買ったのかと聞かれても答えようがないのだから、しょうがないではないか」
 全国チェーンのドラッグストアで見かけたことはあるが、母の友人がいるレジに持っていく度胸は、さすがの杏寿郎にもない。
 少し離れた店でならあるいはと足を伸ばしたこともあるが「あら、先生の息子さん」と、どこに行っても声をかけられる。市内全域に教え子がいる人気講師な母の、顔の広さを甘く見てはいけない。
 おまけに県警機動隊所属で剣道の師範を受け持っている父の教え子兼同僚をはじめ、剣道がらみの父の知り合いだって、市内どころか県内どこにでもいる。パトロール中のおまわりさんに捕まって稽古の厳しさについて愚痴を聞かされるのも、日常茶飯事だ。
 事程左様に顔の広さを誇る煉獄家の長男である杏寿郎に、隠密行動など無理難題がすぎる。ちょっと買い物に出たら十分に一回は誰かしらに声をかけられ、結局目当ての店にたどり着けなかったことすらあるほどなのだ。目的のブツがブツだけに、万が一購入するところを見られた日にはどこまで話が広まっていくのか、考えるだに恐ろしい。
 ついでに杏寿郎自身、剣道の大会などで知り合った学外の知人も多いし、同じ学校ともなれば杏寿郎のことを知らぬ者などたぶん一人としていない。
 近所や最寄り駅付近はアウト。新幹線への乗り換え前も、万が一乗り遅れたらと思うと、どうしても躊躇する。義勇が住む街ならさすがに知り合いはいないだろうとも思うが、駅に着けばすでに義勇が改札で待っていてくれるのだ。避妊具を買ってくるから待っていてくれとは言えない。一緒にドラッグストアに行って買うのも無理だ。だって義勇が恥ずかしがるから。
 レジに出すだけなら気恥ずかしさもその場限りだが、避妊具を購入するところを誰かに見られるのは勘弁願いたいらしい。
 杏寿郎と恋人同士だと知られるのを嫌悪しているわけではない。ただただ恥ずかしいらしいのだ。だから、どうせ筒抜けだろうと家族にもまだ報告はしていない。お互いちゃんと大人になったら、改めてお付き合いしていますと家族にもきちんと報告しよう。そんなふうに話はまとまっている。
 それぐらい恥ずかしがり屋ではあるが、見ず知らずの他人に見られるぶんには、マイペースでもある義勇は気にもしていない。この恋を恥じる気持ちは義勇にもないのだ。けれども、知り合いに見られたら恥ずかしさのあまりに憤死しかねないと、義勇は言う。気持ちはわからないでもない。杏寿郎だって誰彼かまわず知られるのは避けたいところだ。だから杏寿郎も強くは出られなかった。
 人見知りな義勇自身は友人もあちらでは多くないが、五歳まで両隣に住んでいたという幼馴染たちには友人知人が多い。結果、彼らといつも一緒にいる義勇の顔も自然と知れわたっている。杏寿郎のように気軽に声をかけられることこそないものの、道を歩けば知人に――向こうの一方的なものとしても――気づかれる状況だ。となれば選択肢は残されていないのだ。

「え、男同士じゃゴムも特別製かよ。マジか」
 眉唾と書かれた顔を向ける不死川に、宇髄がニヤリと笑う。
「特別ってわけでも男同士専用でもねぇけどな。イソプレンラバーっていってな、そこらのコンビニにあるポリウレタンやラテックスのコンドームよりも、肌に優しい素材なわけよ。直腸ってのは膣と違って単層でかなり傷つきやすいから、なるべく肌に近い柔らかさのほうが安心ってわけだ。潤滑剤も必要なんだし、まとめて買ったほうがちったぁお得だしな。興味あんなら、おまえにも派手にオススメのやつ教えてやろうか?」
「いらねぇよっ! んな相手もいねぇわ!」
「んだよ、あの美人さんにまだ告白してねぇのか。ノロノロしてっとほかの男に取られっかもしれねぇぞ?」
「うっせェ! そういうんじゃねぇっつってんだろ!」
「はいはい、地味にそういうことにしといてやろう」

 街灯に照らされた公園に、楽しげな宇髄の笑い声がひびく。子供が遊んでいる時間でなくて幸いだ。たとえ声をひそめようと、純真な幼子の前でしたい会話ではない。というか、とうてい聞かせられない話だ。
 騒がしい宇髄たちの声をぼんやりと聞きながら、杏寿郎は無人のブランコを見るともなく見つめた。互いに背を押しあったブランコ。二人一緒に笑いながら滑ったすべり台。鬼ごっこに影踏み、運動会の前にはバトンリレーの練習だってここでした。義勇とだったらバトンパスも完璧だ。何度となく義勇と一緒に遊んだ公園には、そこここに思い出が転がっている。
 勝手にゆるんだ頬を見られるのはなんとはなし気恥ずかしくて、少しうつむく。うっそりと握りしめた缶コーヒーは、すっかり冷めていた。

 コーヒーをブラックで飲めるようになったのはいつからだったろう。ハッキリとした記憶はない。義勇に関することならば、なにひとつ忘れたものなどないのに。
 出逢った日はもちろんのこと、義勇と過ごした日々はすべてキラキラとして記憶も鮮明だ。
 義勇に初めて大好きだと言った日。義勇が初めてお泊りしてくれて、一緒の布団で眠った日。義勇と背が並んだ日。全部覚えている。初めてのキスや、初めて眠る以外の目的で同じ布団に入った日にいたっては、金の額縁に入れたカレンダーを飾っておきたいぐらいだ。
 忘れたいと願うことだって、本音を言えばなくはない。思い出しただけで叫びだしたくなるような悪夢に似た記憶だって、義勇と過ごした日々のなかにはある。
 それでも、そんなつらい思い出さえなにひとつ忘れられないのだ。義勇に関する事どもに、忘れていいものなどなにもない。忘れては駄目だとも思っている。
 初めて夢精した日のことだって、その夜に見た義勇の夢とともに杏寿郎は覚えている。思い返すと恥ずかしくて、でも、やっぱり俺は義勇が好きなんだなぁと、ちょっぴりの罪悪感とともに深く実感したものだった。
 当然というか、初めて自慰をしたのも、級友に見せられたグラビアと同じポーズをした義勇を想像をしながらだ。

 小学校の高学年ともなれば、ませた級友からグラビアやらエロ本なんてものを見せられることはままあったけれど、杏寿郎はまったく興味がなかった。女の人の裸など見ればそれなりにドキドキとはするが、触れたいだとかあまつさえ抱きたいなんて思ったことがない。ほかの男性であればなおさらだ。杏寿郎が興奮するのは今も昔も義勇にだけなのだ。
 宇髄と交友を続けられたのは、その点でもありがたい。なにしろ男同士でのアレコレなど、学校の性教育の授業でも教えちゃくれない。
 準備の手順から行為中の注意点、使用するのにオススメの避妊具やら潤滑剤にいたるまで、懇切丁寧にレクチャーしてくれた宇髄には、感謝せねばなるまい。もしかしたら大部分は面白がり気質によるものかもしれないが、からかいもせず教えてくれた有り難さに変わりはないのだ。

「おい、煉獄。休憩終わるぞォ」
「もうそんな時間か。俺も戻って仕事しねぇとな。おまえらも地味に頑張れや」
「地味は余計だァ」