星溶け菫のカクテル
季節に合わせて変わる料理とドリンクのメニュー。ミーティングでドリンクメニューをひとつ考案するように言われた司が大量に並ぶボトルの前で悩んでいると、通りかかった泉が一つのリキュールを指差した。夜空のような美しい紫色のそれを手に取れば、隣に居る凛月が笑う。
「ス〜ちゃんの色だねぇ」
菫色、と指差されたそれに唯々顔を赤くするしかない。
ニオイスミレの香りと色を抽出して造られたそのリキュールをジンと混ぜる。アクセントに入れたレモンジュースは誰からインスピレーションを得たのかは秘密だ。グラスの底に注いだ乳酸菌飲料の原液の上に先程の液体をそっと流し込めば、綺麗なグラデーションが出来上がった。夜空に見立てたそれに銀箔の星を散らす。
「うんうん、綺麗。味も美味しいし、合格で〜す」
こうして無事にメニューに並んだカクテルは大人気となり、今ではこの店おすすめのカクテルの一つとなっている。
「瀬名先輩、カクテルお好きじゃなかったですか?」
口の付けられた様子の無いそれに首を傾げれば、目を丸くした泉がふっと笑った。
「もともとアルコールが得意じゃないだけ」
勿体ないし、と付け加えた彼が愛おしそうにグラスを眺めるのを見て司の顔が赤くなった。
「熱いねぇ」
ふふふ、と笑う凛月に泉が怒って、楽しい夜が更けていく。
「司ちゃん、今日は寮に泊まっていくの?」
「あ、いえ……今夜は実家に帰ります。明日は両親と出掛ける予定になっているので」
お祝いをしてくれるらしい、と嵐に告げれば優しく微笑まれた。
「そう、じゃああんまり遅くなってもあれだから、送ってあげる」
「最初からそのつもりだったんだろ〜!」
「れおくん、うるさい!」
顔を赤くして怒る泉は、にやにやと笑う三人から逃げる様に司の腕を掴んでその場を後にする。
「瀬名先輩、片付け……!」
「あいつらにやらせとけばいいの」
またね、と手を振る三人に頭を下げる。ロッカールームで荷物を纏めれば、車のキーを握った泉が反対の手を司の指に絡めた。
「瀬名先輩の車に乗るの、初めてです」
アルコールが苦手なのも知らなかった。司が目を輝かせれば、泉は笑う。
「お互いに知らないことが多いから、これからが楽しみだねぇ」
大きく頷いた司の頭上で、溶けるように星が流れた。