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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2

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「つきあわせちまって悪かったなァ」
「気にすんな。あいつらには、パーティーの準備が済むまで帰らねぇでくれって、言われてるからな。サプライズだから家にいられっと困んだとよ」
 人波のなかをスイスイと進みながら、宇髄は傍らを歩く不死川にニッと笑ってみせた。双方、両手にはいくつもの紙袋。不死川のほうがちょっと多いのは、人数の差だ。
 今日はクリスマスイブ。都心とは言い難い街だが、イルミネーションで飾られた街路樹はそれなりにきらびやかで、駅前はいつもよりにぎやかだ。まだ宵の口だというのに早くもできあがった酔漢が、大きな声で笑いながらすれ違っていった。

「なんだそりゃ。本人に言っちまったらサプライズもなにもねぇなァ。てかよォ、今年も彼女三人勢揃いかァ? 喧嘩になんねぇってのは、毎度のことながらすげぇな」
「喧嘩は派手にしてっけどな。ま、あいつらの場合は、喧嘩するほど仲がいいってこったろ。それにこういうイベントは、絶対に一人も欠けねぇでってのがお約束になってんだよ。長続きのコツは平等ってな。あいつら、そこら辺は派手にキッチリしてんぞ。それより、おまえんとこのおチビなお嬢さんたち、ませてきたなぁ」
 ククッと笑う宇髄の機嫌はたいへんよろしい。顔をしかめた不死川がジロリとにらんでも、宇髄の笑みは深まる一方だ。
 小学生の妹たちが書いたサンタへの手紙を不死川が読めたのは、今朝になってようやくだそうで。泡を食って「おいっ、小学生に人気のブランドってなぁ、どこで買えんだァ!?」と宇髄に電話してきたのは、昼をとうに過ぎてからだ。
「まったくだァ。言うにこと欠いて、兄ちゃんのエッチ、だぞ? どこに売ってんのか聞き出そうとしただけなのによォ」
 人混みから頭二つは軽く飛び抜けて大柄な宇髄が、強面の不死川と並んで歩くと、モーセにでもなった気分を味わえる。人波がさぁっと分かれて、歩きやすいったらありゃしない。
 隣を歩く彼氏そっちのけで宇髄に向けられる、ハートマークが浮かんでそうな女性たちの視線と、それに追随する苛立ちと少しの怯えにやっかみを添えた眼差しは、宇髄にとっては日常茶飯事だ。気に留める価値もない。
「そりゃまたお気の毒さん。ま、女ってのはそんなもんだ。男よりはるかに早く大人になるからな、近いうちに私の彼氏とか言ってクラスの男つれてくるの、派手に覚悟しとけよ?」
「……ざけんな。んな野郎に、うちの敷居をまたがせてたまっかよ。ぶん殴ってやらァ」
 不死川の威嚇の唸り声と険悪な表情に、すれ違った歩行者が小さくヒッと悲鳴を上げサササッと遠ざかっていく。だが、自分が周囲から避けられていることになど、不死川はまったく気づいてない。人相の悪さに反して、仲間内では伊黒と並んで常識人である彼にしては、めずらしいこともあるものだ。妹の彼氏というワードがよっぽどお気に召さなかったらしい。
「んなことしてみな、派手に妹に嫌われっぞぉ? いいのかよ、兄ちゃんのバカッ、もう嫌い! なんて言われちまってもよ」
「うっせぇ! 気色悪い裏声出してんじゃねェ!」
「やっだぁ、兄ちゃんコワァイ」
「おい、マジでやめろ。二メートル近ぇ大男がシナ作ってんじゃねぇよ! 見ろっ、この鳥肌を! 寿美たちがんなこと言うわけあるかァ!」
 わざわざダウンジャケットの袖をめくりあげてわめく不死川に、宇髄はケタケタと笑った。

 楽しげな街に流れるジングルベル。キラキラ光るチープなイルミネーション。気のおけない友達とともに大事な人たちへのプレゼントを抱えて歩く、そんな聖夜。家に帰ればかわいい彼女たちが、ケーキだチキンだクリスマスツリーだと、せっせとパーティの支度をしてる。
 自他ともに認める派手好きな宇髄だが、時節柄舞い込むど派手なパーティーへの誘いはすべて断っている。宇髄は、地味だけれども穏やかなこんな日常を、こよなく愛していた。
 都心に越してしまえば、今の楽しさは少なからず目減りするだろう。でなくとも、年追うごとにイベントどきの光景は、少しずつ様相を変えている。

 去年までは、ここにはいない仲間があと三人、いつも一緒だった。
 不死川と同じく三学年下の皮肉屋な伊黒は、秋ごろからやけに多忙にしている。顔をあわせる機会もめっきり減った。ベタベタと馴れあう仲ではないし、メッセージアプリでの連絡にはちゃんと返信がくるから、心配するほどではなかろう。大学生との二足のわらじでアプリ開発の会社を立ち上げた伊黒とは、アプリのアイコンやらロゴデザインなど仕事としてのつきあいもあるので、ほかの面々にくらべれば連絡は密なほうだ。
 どうにか一息ついたというから出掛けに誘ってみたが、残念ながら断られた。今夜は片想い中であるケーキ屋の看板娘を助けるべく、この寒空の下クリスマスケーキを売るのだそうな。バイトなどせずとも悠々自適な暮らしをできる収入がありながら、まったくもって健気なことだ。
 仲間うちで一番小柄な伊黒は少しばかり体が弱い。惚れた女のためなら風邪ひきも勲章かもしれないが、最後に見た顔にくっきり浮いていたクマを思えば、無理しなけりゃいいんだがと心配にもなった。せめて健気な片恋がちょっとは進展すりゃいいけど。なにも実入りがないまま寝込みでもしたら目も当てられない。
 それでも伊黒自身にとっては、充実したクリスマスであるのは間違いないだろう。奥手ばかりな仲間たちは宇髄をヤキモキもさせるが、どこかむず痒くもホワホワと温かく、勝手に顔が微笑んでしまう心持ちにもさせる。
 いま二人の仲間、ヤキモキさせられた筆頭たちはといえば、さてどうしているのやら。スポ根ばりな特訓の成果はいかほどか。宇髄は、ここにはいない友人たちの顔を思い浮かべる。

 クリスマスには至極お似合いな金と赤の髪をした少年は、愛し恋しの幼馴染兼恋人の元へと、忠犬よろしく馳せ参じているはずだ。少年とはいうものの、高校三年生という年齢はともあれ体格はすっかり大人のそれで、バイトを始めてからは以前より世慣れてきたようにも見える。
 幼稚園児だったころを知っているだけに、成長を実感するたび、宇髄はなんとなく親戚の小父《おじ》さんめいた感慨に浸ってしまうほどだ。このところはとみに成長著しいけれども、それでもまだまだ年上の恋人からかわいい弟として扱われてしまうのが、目下の悩みであるらしい。微笑ましいというかなんというか。平和な悩みでなによりだと、宇髄は小さな苦笑を唇に刻んだ。
 そんな大人の入り口に立つ少年の恋人はといえば、宇髄好みな派手さこそないが、見目の良さは宇髄にひけを取らない。佇まいは星月夜の静けさで、微笑みは春の陽だまりのように穏やか、そんな印象だ。宇髄にとっては小学校時代の後輩であり、中学高校は入れ替わりになったが、つきあいはいまだに続いている。
 当年とって十九歳の大学二年生。不死川や伊黒とは同い年で、宇髄から見れば、まだまだオコチャマ。なんとはなし危なっかしくもある。とはいえ、同年代のうわっついた大学生とは一線を画し、大人びた落ち着きをまとっている……ようにも見える。まぁアレだ、ポヤポヤしてマイペースなだけというのが、宇髄や不死川たちの見解だ。