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にゃんこなキミと、ワンコなおまえ5-1・2

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 学年こそ同じだけれども、下に弟妹が六人もいる不死川のほうが、姉一人の彼よりもはるかに世慣れている。それどころか弟扱いという点では、最年少の少年よりもいっそ彼のほうが仲間内では末っ子扱いだ。
 そう、『彼』だ。少年と、青年。世間一般的には人目をはばかる向きも大きい、同性愛というデリケートなくくりにある恋人たちだ。
 けれども、当人たちをはじめ、宇髄ら周りの者はみな、彼らの恋をごく当たり前に受け止めている。嫌悪感などまるでないし、恋人になったと報告されたときには、遅いぐらいだと安堵もした。
 家族にはまだ内緒らしいが、二人の交際を家族が知らぬわけもない。とっとと言えと内心ソワソワしながら二人が白状するのを待っていることだろう。それぐらいには、二人一緒にいるのが当然で、二人一緒に笑っていてほしいと、親しい者みな願っている二人なのだ。
 煉獄杏寿郎と、冨岡義勇。二人セットで、宇髄にとっても不死川にとっても、ここにはいない伊黒にだって、なくしたくない大切な友人だった。

 さて男同士だろうと恋人であるからには、クリスマスイブはけっして外せぬ一大イベントだ。それでなくとも義勇が少し離れた地方に進学して、高校生には少々つらい遠距離恋愛中なのだ。こんな日に逢わぬ道理はない。
 しかもこの日のためにと特訓までしたのだ。街に流れるクリスマスの定番曲よろしく義勇だけのサンタクロースにならんと駆けつけ、今ごろは気合入れまくりなデートの真っ最中だろう。終業式が終わるなり私服に着替え学校を飛び出した杏寿郎を、駅まで送り届けたのは宇髄なのだから、それは間違いない。
 預かった制服やカバンを杏寿郎が受け取りにくるのは、明後日の夜。さて、どんな顔をしてやってくるのか、宇髄は楽しみでしかたがない。

「そりゃあそうと、煉獄はうまくやってんだろうなァ。あんなくだらねぇことにさんざんつきあわされたってぇのに、失敗しましたなんて言ってみやがれ。一発ぶん殴る」
 言葉は物騒だが、不死川の顔もどことなし楽しげだ。素直じゃないねぇと、宇髄は内心小さく苦笑する。
 不死川と義勇は小一から高三まで十二年間同じクラスだ。奇妙な縁もあったものである。高校に上がったころにはもはや、同じクラスじゃなかったら天変地異でも起きるんじゃないかと、わりあい本気でみんなちょっぴりソワソワしたものだ。杏寿郎だけは少々複雑そうだったけれども。
「しょうがねぇだろ。俺様じゃ背が高すぎて、地味にうまくいかなかったんだからよ。伊黒じゃ低すぎっし、不死川なら冨岡とは三センチしか違わねぇからな。特訓には適任だろ?」
「んなもんに適してたまっか! そもそも、コートをスマートに脱がせる特訓なんかすんじゃねぇよっ。二時間も突っ立って、脱いだり着たりさせられた身になってみやがれってんだァ」
 不死川の不満は一理ある。よしんば自分が不死川の立場なら、宇髄だって盛大にごねる。コーチ役だったからこそ、ノリノリで引き受けたのだ。逆の立場なら御免被りたい。
「最後のほう、大仏みてぇに悟り開いたような顔してたなっ。いやぁ、派手におもしれぇもん見せてもらったわ」
「さっさと終わって解放されたかったんだよっ! ったく。マジでうまくいかなかったら、俺の苦労はなんだったんだっつう話だァ。冗談じゃねェ」
 子沢山家庭の長男だからか、不死川は存外世話焼きだ。人見知りで口下手、おっとりマイペースなくせにじつは気が強い義勇には、イライラさせられつつも長男の血が騒ぐんだろう。小一のころから文句を言いながらも義勇の面倒をみていたせいか、気づけば周囲から義勇の保護者扱いされていた。
 義勇の姉や――本人は認めないだろうが、不死川の初恋が彼女であるのは間違いない。宇髄からすればバレバレだ。杏寿郎や義勇はいまだにちっとも気づいてないようだけれど――まだ幼稚園児だった杏寿郎にまで、義勇をよろしくと頼まれたからというのも、あるだろう。口では盛大に文句も言うが、女子供の頼みを邪険にできぬ男なのだ。まぁ、今となっては杏寿郎を子供扱いはしにくいが。
 それでも杏寿郎のカラッとした快活で公正な性格が、不死川にとっても好ましいものなことに違いはなかろう。口ではなんだかんだと文句も言うが、二人の恋路を心から見守っているのは宇髄となんら変わらない。だからこそ、あんな珍妙な特訓に、文句たらたらとはいえつきあいもする。
 素直じゃないねぇとまた思いながら、宇髄はフフンと自慢気に笑ってみせた。
「俺様がコーチしてやったんだ。派手に成功間違いなしだろ」
「言ってろ」
 ケッと吐き捨てるように言い、それでもわずかに片頬をゆるめた不死川に、宇髄の笑みが深まる。
 成否の如何《いかん》はともかく、宇髄がコーディネートした杏寿郎の姿は、たいへん満足のいくものだった。
 大人っぽくとのリクエストに応えて選んだニットやコートは、杏寿郎によく似合っていた。スマートなコートの脱がせ方うんぬんはさておいても、エスコートの仕方やテーブルマナーは、もはや完璧である。スポンジが水を吸うように教えれば教えただけ見違えていくのだから、生徒としての杏寿郎は上等の一語だ。教え甲斐があるものだから、つい宇髄も本気になった。
 イライザを教育したヒギンズ教授はこんな気分だったのかねと、有名な映画の登場人物に自分をちょっぴりなぞらえてみたりして。もちろん、下町育ちのイライザと違い、杏寿郎はもともと行儀作法をきちんと身につけたお坊ちゃんだったりするし、ましてや恋愛感情など持ちようもないが。

 だいたいヒギンズだって、いくらなんでもイライザに性教育まではしちゃいないしな。

 杏寿郎の赤らみつつも真剣な顔を思い浮かべ、宇髄の笑みがどこか慈しむような色をたたえた。