トキトキメキメキ
トキトキメキメキ
作 タンポポ
1
秋の終焉を告げる北風が、冬将軍のご機嫌をとっている。一陣の風にゆれた住宅街の庭に生い茂る木々を見つめて、今年の冬は極寒の寒さになりそうだ、と岩本蓮加はすんとノーリアクションで呆(あき)れた。
小学二年生の二学期の終業式を終えて帰宅する岩本蓮加は、ふと、ちらついてきたぼたん雪に顔を上空を見上げる。
しばし脚を止めて、今年の初雪を見上げていた。
すぐ眼の前へと振り落ちる実寸大の雪と、それと相互するように、遠方に振り落ちる雪との遠近感ある見事な交差が美しかった。
蓮加は更に天空を見上げる。
天の日差しは陰り、煌々と差し込んでいた日光は今は無く、積乱雲のような雪雲がかつては青々しかった大空を支配している。荷物の充満した重めの手提げバッグを肩に乗せ直してから、蓮加は重めのランドセルに背を屈めるようにして、しょぼしょぼと歩き始めた。
ダンスレッスンが面倒臭かった……。小学一年生になるのと同時に始めたヒップホップダンスは、いわば完全なる趣味であって、楽しむべきものであった。
しかし、今は筋肉痛で、ランドセルをせおうのもだるい……。どうにかダンスレッスンをずる休みできないものかと考えながら歩く。実家まではもうすぐだが、あまりの空気の冷たさに、いまにも弱音を吐きそうであった。
岩本蓮加は、その整った童顔を、瞬時に背後へと向けた。
―――●▲■岩本蓮加で間違いはないね?■▲●―――
岩本蓮加はあせった……。何処かから、声が聞こえる。
しかも、かなりへんてこな声だ……。
一体、誰が話しかけているのかと、蓮加は必死になって周囲の風景を見回した。
―――●▲■僕はそこにはいない。僕はマスター。岩本蓮加、君は未来の、将来の夢を叶える事とひきかえに、たった今から悪と闘うヒーローならなければならない。これは君の知る、神様との契約になる■▲●―――
「え何なに何……、キモいきもいキモイ……、え、なんか聞こえる……」
岩本蓮加はとりあえず苦笑した。
重めのランドセルに背を屈めたままの体勢で、耳をふさいでみる。
―――●▲■いいかい、岩本蓮加。君は未来の夢を叶える為に、今からヒーローになるんだ。いい? 聞いてる? なんで笑ってるの? 嬉しかった?■▲●―――
「えーキモぉい……、なんっか、言ってる…すご……、え、誰ぇ? ですか?」
蓮加は苦笑しながら、周囲を見回してみたが、大きな変化に気がついて驚愕した。
路地の先に見える道路を通過しようとしている軽自動車が、止まっている。歩道で軽自動車の通過を待っているご婦人も、蝋人形のように固まったままであった。
空を飛ぶ鳩が、空中で静止しているのだ――。
「え、何ぃ! 何かが起きてる事は確かだっ……、だって止まってるもん色々!」
―――●▲■君は所将来、何になりたい?■▲●―――
「はー何言ってんのこいつ……」
―――●▲■こいつはやめようね。僕はマスター。一時的に、偉大なる神の力を一部的に与えられた、君達ヒーロー達の大いなる指導者だ!■▲●―――
蓮加は、唾を呑み込んで、顔を上空に上げた。
「神様……、いたのほんとに…うっそ……。てかねえ、何で止まってんのねー? これ時間止まってるやつ?」
―――●▲■うん。君の周囲の情報だけ、一時的に停止しているよ。とはいっても、本当は時間は進んでいて、君はヒーローの任務を終えてもう自宅への帰路を歩き始めている。君は今、それまでの時間を体感している事になる■▲●―――
「は意味わっかんね……。小2なめんなよ」
―――●▲■うん。これからね、君は仮想現実の世界である『ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー』へと召喚されて、そこで君の望む年齢、つまり未来の君の姿になり、未来の地球に起こりえる悪の可能性と闘わなければならない。これは全人類に与えられた使命であり、人類が誕生して1000年が経った頃から続けられる神の試練でもある■▲●―――
蓮加はむすっと顔をしかめた。ランドセルを雑にアスファルトに下ろした。
「あんたさあ……、もっとわかりやすくしゃべれないの? モテないよそれじゃあ」
―――●▲■……。君は、これから自分自身で能力を決めて、その能力を武器として、夢見る心を力へと変換し、その純粋な力を駆使して戦うヒーローになる。これは君のお母さんもお父さんも、近所のおじさんも、誰もかも、世界中の人間達が実は幼少期に体験する神からの指令だ。契約、といった方が正しいんだけどね■▲●―――
蓮加ははっとなって思い出す。
「あそ、蓮加ケータイ契約したいんだよね……、それも、できる? 神様の契約で」
―――●▲■仮想現実の世界『ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー』で、君はたぶん携帯電話を使用すると思うよ。携帯電話の契約者は神様じゃないけど……。このヒーロー任務を引き受けるという事は、将来の夢を叶える、という事になる。途中で死んでしまったりして、任務中にヒーロー契約が終了してしまうと、そこまで戦った分の成果が、未来の夢、その実現へと加算されるよ■▲●―――
蓮加は空を見上げたまま、腕を組む。
「死んだらダメなわけね……。あとケータイも使い放題、か……。んじゃやる」
―――●▲■うん。もっと驚かないとなんか、子供は嘘くさくて嫌だな……、後でやっぱやんない、とか言わない? 大丈夫? 悪は恐ろしい容姿をしているよ? 想像よりずっと怖いんだよ、三メートルの熊が眼の前に出るのよりも、よっぽど怖い体験をするわけだけど、大丈夫? まあね、それぐらいしないと、夢は叶わないって事でもあるんだろうね。ほんとにやる? 大丈夫?■▲●―――
蓮加は空中に怖い顔をする。
「やっていいのやっちゃダメなの? どっちよ?」
―――●▲■質問とかないの?■▲●―――
蓮加は顔をしかめる。
「してるじゃんだから、質問……」
―――●▲■やっていいんだよ。やってもらわなきゃ困る。未来において起こりうる可能性のある悪や災厄は多いからね。ヒーローが守らないと■▲●―――
蓮加はすっと、表情を無くして雪の降り落ちる天空を見上げた。
「蓮加セーラームーンになるの?」
―――●▲■なれるとも、なればいい■▲●―――
蓮加は、視線を下げて考え込む……。
ジャンパーを着込んでいるが、スカート姿の為、やはりだいぶ肌寒かった。
「何泊? 何泊何日?」
―――●▲■だいたい、六週間から十二週間ぐらいだと思うよ。その間、君は一般人として普通に生活し、悪が現れた時にだけヒーローに変身する……、つまり、そういうヒーローだ■▲●―――
蓮加は雪空を険しい顔で見上げる。
「家帰ってお母さんに、ちょっと会ってからでいい?」
―――●▲■何を言ってる、ダメダメ、そんな時間はないのだよ。君は今から仮想現実の世界『ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー』に即座に召喚される。僕のヒーローとして■▲●―――
「あっ‼‼ ちょっと~、ねぇーーっ‼‼ あー待ってってばぁーー‼」
作 タンポポ
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秋の終焉を告げる北風が、冬将軍のご機嫌をとっている。一陣の風にゆれた住宅街の庭に生い茂る木々を見つめて、今年の冬は極寒の寒さになりそうだ、と岩本蓮加はすんとノーリアクションで呆(あき)れた。
小学二年生の二学期の終業式を終えて帰宅する岩本蓮加は、ふと、ちらついてきたぼたん雪に顔を上空を見上げる。
しばし脚を止めて、今年の初雪を見上げていた。
すぐ眼の前へと振り落ちる実寸大の雪と、それと相互するように、遠方に振り落ちる雪との遠近感ある見事な交差が美しかった。
蓮加は更に天空を見上げる。
天の日差しは陰り、煌々と差し込んでいた日光は今は無く、積乱雲のような雪雲がかつては青々しかった大空を支配している。荷物の充満した重めの手提げバッグを肩に乗せ直してから、蓮加は重めのランドセルに背を屈めるようにして、しょぼしょぼと歩き始めた。
ダンスレッスンが面倒臭かった……。小学一年生になるのと同時に始めたヒップホップダンスは、いわば完全なる趣味であって、楽しむべきものであった。
しかし、今は筋肉痛で、ランドセルをせおうのもだるい……。どうにかダンスレッスンをずる休みできないものかと考えながら歩く。実家まではもうすぐだが、あまりの空気の冷たさに、いまにも弱音を吐きそうであった。
岩本蓮加は、その整った童顔を、瞬時に背後へと向けた。
―――●▲■岩本蓮加で間違いはないね?■▲●―――
岩本蓮加はあせった……。何処かから、声が聞こえる。
しかも、かなりへんてこな声だ……。
一体、誰が話しかけているのかと、蓮加は必死になって周囲の風景を見回した。
―――●▲■僕はそこにはいない。僕はマスター。岩本蓮加、君は未来の、将来の夢を叶える事とひきかえに、たった今から悪と闘うヒーローならなければならない。これは君の知る、神様との契約になる■▲●―――
「え何なに何……、キモいきもいキモイ……、え、なんか聞こえる……」
岩本蓮加はとりあえず苦笑した。
重めのランドセルに背を屈めたままの体勢で、耳をふさいでみる。
―――●▲■いいかい、岩本蓮加。君は未来の夢を叶える為に、今からヒーローになるんだ。いい? 聞いてる? なんで笑ってるの? 嬉しかった?■▲●―――
「えーキモぉい……、なんっか、言ってる…すご……、え、誰ぇ? ですか?」
蓮加は苦笑しながら、周囲を見回してみたが、大きな変化に気がついて驚愕した。
路地の先に見える道路を通過しようとしている軽自動車が、止まっている。歩道で軽自動車の通過を待っているご婦人も、蝋人形のように固まったままであった。
空を飛ぶ鳩が、空中で静止しているのだ――。
「え、何ぃ! 何かが起きてる事は確かだっ……、だって止まってるもん色々!」
―――●▲■君は所将来、何になりたい?■▲●―――
「はー何言ってんのこいつ……」
―――●▲■こいつはやめようね。僕はマスター。一時的に、偉大なる神の力を一部的に与えられた、君達ヒーロー達の大いなる指導者だ!■▲●―――
蓮加は、唾を呑み込んで、顔を上空に上げた。
「神様……、いたのほんとに…うっそ……。てかねえ、何で止まってんのねー? これ時間止まってるやつ?」
―――●▲■うん。君の周囲の情報だけ、一時的に停止しているよ。とはいっても、本当は時間は進んでいて、君はヒーローの任務を終えてもう自宅への帰路を歩き始めている。君は今、それまでの時間を体感している事になる■▲●―――
「は意味わっかんね……。小2なめんなよ」
―――●▲■うん。これからね、君は仮想現実の世界である『ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー』へと召喚されて、そこで君の望む年齢、つまり未来の君の姿になり、未来の地球に起こりえる悪の可能性と闘わなければならない。これは全人類に与えられた使命であり、人類が誕生して1000年が経った頃から続けられる神の試練でもある■▲●―――
蓮加はむすっと顔をしかめた。ランドセルを雑にアスファルトに下ろした。
「あんたさあ……、もっとわかりやすくしゃべれないの? モテないよそれじゃあ」
―――●▲■……。君は、これから自分自身で能力を決めて、その能力を武器として、夢見る心を力へと変換し、その純粋な力を駆使して戦うヒーローになる。これは君のお母さんもお父さんも、近所のおじさんも、誰もかも、世界中の人間達が実は幼少期に体験する神からの指令だ。契約、といった方が正しいんだけどね■▲●―――
蓮加ははっとなって思い出す。
「あそ、蓮加ケータイ契約したいんだよね……、それも、できる? 神様の契約で」
―――●▲■仮想現実の世界『ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー』で、君はたぶん携帯電話を使用すると思うよ。携帯電話の契約者は神様じゃないけど……。このヒーロー任務を引き受けるという事は、将来の夢を叶える、という事になる。途中で死んでしまったりして、任務中にヒーロー契約が終了してしまうと、そこまで戦った分の成果が、未来の夢、その実現へと加算されるよ■▲●―――
蓮加は空を見上げたまま、腕を組む。
「死んだらダメなわけね……。あとケータイも使い放題、か……。んじゃやる」
―――●▲■うん。もっと驚かないとなんか、子供は嘘くさくて嫌だな……、後でやっぱやんない、とか言わない? 大丈夫? 悪は恐ろしい容姿をしているよ? 想像よりずっと怖いんだよ、三メートルの熊が眼の前に出るのよりも、よっぽど怖い体験をするわけだけど、大丈夫? まあね、それぐらいしないと、夢は叶わないって事でもあるんだろうね。ほんとにやる? 大丈夫?■▲●―――
蓮加は空中に怖い顔をする。
「やっていいのやっちゃダメなの? どっちよ?」
―――●▲■質問とかないの?■▲●―――
蓮加は顔をしかめる。
「してるじゃんだから、質問……」
―――●▲■やっていいんだよ。やってもらわなきゃ困る。未来において起こりうる可能性のある悪や災厄は多いからね。ヒーローが守らないと■▲●―――
蓮加はすっと、表情を無くして雪の降り落ちる天空を見上げた。
「蓮加セーラームーンになるの?」
―――●▲■なれるとも、なればいい■▲●―――
蓮加は、視線を下げて考え込む……。
ジャンパーを着込んでいるが、スカート姿の為、やはりだいぶ肌寒かった。
「何泊? 何泊何日?」
―――●▲■だいたい、六週間から十二週間ぐらいだと思うよ。その間、君は一般人として普通に生活し、悪が現れた時にだけヒーローに変身する……、つまり、そういうヒーローだ■▲●―――
蓮加は雪空を険しい顔で見上げる。
「家帰ってお母さんに、ちょっと会ってからでいい?」
―――●▲■何を言ってる、ダメダメ、そんな時間はないのだよ。君は今から仮想現実の世界『ザ・ワールド・ザット・リフレクス・ザ・フューチャー』に即座に召喚される。僕のヒーローとして■▲●―――
「あっ‼‼ ちょっと~、ねぇーーっ‼‼ あー待ってってばぁーー‼」