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トキトキメキメキ

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 突如として宇宙空間に放り出されたかのような、漆黒の空間に視界が包まれると、蓮加は体感した事のない無重力空間を彷徨うような錯覚に襲われる。
「待って待って、ねえマスターーーっ‼‼」

―――●▲■やっと呼んでくれたね。そう、僕はマスター! 神様の計画である重要機密を実行する、悪をくじく正義のヒーロー達を導く約束の指導者なり!!■▲●―――

       2

 再び眼を開くと、空間がある事はぼやっと理解できるが、視界も悪く、己の姿も見えぬままに宙を漂っているかのような感覚だけがつきまとっていた。
 岩本蓮加の意識体は、イラっとした。

「つうかさー……、まだ何にも見えない、てか、眼もよく見えないんですけど……」

――●▲■眼を覚ますのが早いねえ。おほん……。こちらの世界での確立を実証するには、君が君の身体を欲する必要がある。何歳でヒーローしたい?■▲●――

「えー……。子供、じゃ意味ないし……。大人、じゃないよな、なんか……。じゃあてきとーに、二十歳前の感じで」

――●▲■ほら、じゃあ三秒待ってから眼の前をじっと、よく見てごらんよ。そこに大きな鏡があるだろう?■▲●――

 三秒間待ってから、それから岩本蓮加は眼を開いた。
「お、おおぉ~~……。なんか、綺麗な人いますけど……。これ、私っすか?」

――●▲■19歳の君。ちなみに仮想ボディと共に、仮想ブレインも君のものだから。ああつまりねえ、君は19歳の君の身体と、19歳の君の頭脳を今持っている■▲●――

 蓮加は大きな鏡から、視線を離して、周囲の光景を見回してみた。
 紅いカーテンが天空からずっと両側に下ろされていて、真ん中の細い一本通路を延々と造っている。
 視力が爆発的に上がっていると、蓮加は察知した。しかし、紅いカーテンを見上げても、一本通路を見つめても、どこまでも切りが無く、終わりは見えなかった。
「ねえマスター……、あんた、まさか、本当は悪魔でした、とかないでしょうねえ?」

――●▲■は? ないけど■▲●――

「契約さあせといて、後で私の魂をいただきますとか、マジでやめてよ?」
 蓮加は空中に可愛らしい睨みをきかせた。

――●▲■なるほどね。初めて言われたかも。大丈夫、僕は神様、仏様側の存在だから。はい、次に行こう。蓮加君、蓮加君は、一体どんな能力で悪を滅ぼしたい?■▲●――

 蓮加はきょとん、として考える。
「うーん………。ていうかさぁ、鉄砲持ってる人が勝ちじゃない? そゆのダメなの?」

――●▲■何でも有り。はい、次に、仲間は何人にする? 敵である悪は、驚異的に恐ろしい存在だよ。仲間がいないと1人で戦う事になるよ? 1人で最後まで戦うヒーローも昔は多かったみたいだけどね。大抵、皆、仲間を望む。君は何人がいい?■▲●――

 蓮加は爪(つめ)を見下ろしながら、溜息をついた。
「いや仲間とかそういうのは任せるけどさぁ……、私、今日やっとバイト無い日で、超貴重な日なんですけど……。話あるんならさっさとしてくんない?」

――●▲■いいねいいね。さっそく、この世界での生活設定と合致してきたみたいだ。仲間もこちらで君の運命と合致させよう。君の頭脳に、さきほどこちらでの記憶設定を全て送り込んだから、この世界での事は全部わかってるはずだけど、1つだけ記憶に送っていない、重要な、この世界での理(ことわり)を今から教えるね■▲●――

 蓮加は、空中から、鏡へと視線を変える。
「はい、どうぞ………」

――●▲■それは、変身だ!■▲●――

「だっさ! 嘘でしょねえ…、えええ、変身なんてすんのぉっ!?」
 蓮加は驚愕(きょうがく)して、ふてくされた態度で顔をしかめた。
「うっわ、変身っとか、きいてないよ……。だいたい何に変身すんの何にぃ‼」

――●▲■うん、落ち着いて聞いてね。まず、変身しないと、悪の出現した異次元空間へは、入れない。悪が出現すると、僕がそれを知らせる。君は変身して、悪の暴れる異次元世界へと突入する。その異次元空間はね、神様が創り出したこの世界とそっくりな異次元世界なんだ。悪が、本物のこの世界と間違えてその異次元空間に留まっているうちに、君達ヒーローが、変身してその異次元に入り、悪を倒すのが理(ことわり)だ■▲●――

 蓮加はふんふんと、わりと真剣に話を聞いていた。
「で何に変身するの?」

――●▲■それは君次第(きみしだい)。ああ、後ね、悪を滅ぼした後は、変身を解くのも約束だ。変身を解かない限り、神様の創り出したフェイク世界のまんまだからね。逆に、変身を解く以外には、その異次元空間から脱出する術(すべ)はない■▲●――

 蓮加は溜息をついた。空中を見上げる。
「大事なとこスルーかい……。でえ、どうやって変身すんの? 変身スティックとか、変身コンパクトとかあんの?」

――●▲■ぷぷ■▲●――

「笑うなや!! こっちは必死よもう!!」

――●▲■変身の仕方は、音声発進式、というか、音声入力式だね。つまり声に出して、変身する、という気持ちで何かを発声すればそれでいい。それだけで変身できるよ。ちなみに『変身!』でも変身できるよね■▲●――

 蓮加は鏡の中の己をよくよく意識して見つめた。私服を着ている。イヤリングもリングもしていた。腕時計もしている。
 腕時計を見つめると、時刻は夕刻の19時を過ぎたあたりであった。
「ねえ……。夢を叶えるって、誰の夢を叶えるの?」

――●▲■君だよ。君自身の夢を叶える事と引き換えに、君は今からヒーローをやるんだ。正義の為に戦うヒーローにね。悪質な思想を持っていてもヒーローはできるけど、そういう子はだいたい悪の方に引き込まれて、利用されるか、殺されてしまう■▲●――

 蓮加はその場にあぐらをかいた。意識してみると、あの紅いカーテンの下りた果てしなく続く一本通路ではなくなっていて、そこは蓮加が暮らすマンションのリビングであった。
 カーペットの上に、蓮加は直接あぐらをかいて、頬杖をついた。
「自分の夢か……。決まってるってわけじゃないけど……。芸能人、なのかなぁ……」

――●▲■別に今それを決定しなくても大丈夫だよ。君の夢は今、「重ね合わせ」の状態にある■▲●――

 蓮加は遠くの天井を見上げる。
「重ね合わせ? は?」

――●▲■「重ね合わせ」とはね、複数の状態が共存する事を意味する。その夢は、君がいつか具体的な何かを夢見た時に、「量子もつれ」の状態になる。「量子もつれ」とは、一方の状態が確定すると、もう一方の状態に影響する事を意味する■▲●――

「はい?」

――●▲■例えば、1枚の回転しているコインを想像してみて……。コインが回っている時、表か裏かわからないでしょう? その状態が、「重ね合わせ」。コインが止まったら、裏か表かがわかるよね? その裏か表が確定した状態が、「量子もつれ」だ。つまりは、君の見る夢は箱にしまってあって、色んな夢が詰まっていて、開けてみるまでは確定しない、て事だよね■▲●――

「あ~……。なぁんとなく、なるほど……、て言っておく。えてか、ジュース飲んでいい?」
作品名:トキトキメキメキ 作家名:タンポポ