ドリーム・キャッスル
ドリーム・キャッスル
作タンポポ
0
「真っ白なの……」
「まっしろって……、それ光の事でしょう?」
「そうだよ。化粧棚(けしょうだな)の照明が真っ白に光ってるの、もう最っ高にあがるよ。もう気分は芸能人」
梅澤美波は、その輝く瞳を天井に向け、夢を膨らませる。
「んで~、ソファは網目の細かい黒とベージュのチェック」
「ああ~、それはわっかるけど……、化粧棚が光ってるのがいまいちわからない」
伊藤理々杏(いとうりりあ)はおかしそうに首を曲げ、梅澤美波(うめざわみなみ)を見上げる。
「壁はワインレッド」美波の耳には理々杏の声が届いていない。彼女はいつものようにキラキラと輝き始めた。「あ、上品で大人っぽいやつね、下品な赤は嫌いだから」
「赤ぁ~? 赤はないでしょ~う? 壁だよ?」
「あ、さっきの化粧棚だけどね、あれは薄いオーシャンブルー。ほら、蛍光色っぽいやつ」「うん、それはわかるけどさ……」理々杏は半(なか)ばあきらめモードで首を傾げる。「壁が赤ってゆ~のは……、どうだろう?」
「天上の電気は、全部暗めで、化粧棚の明かりとか、スタンドライトの明かりはすっごく強くするの。もう、真っ白に……」
「それもあんま意味わかんない……」
「違う、すっごい綺麗なんだって!」美波は大きな瞳をより一層大きく開いた。「実際に見ればりりあんもそう思うから」
「実際にって……、見たらもう手遅れじゃん」理々杏はソファから立ち上がり、部屋の中をゆっくりと歩いた。「決定する前に見たいよね……。まあ、とりあえず、ここに化粧棚でしょ?」
「そう」美波も椅子から立ち上がる。そしてテレビのある場所を指差した。「ここにスカイブルーの化粧棚」
「オーシャンブルーじゃないの?」
「オーシャンブルーだ。オーシャンブルー。あの、蛍光色っぽいやつ」
「で? テレビは?」理々杏は隣にいる美波を見上げた。彼女達は15センチ以上もの身長差がある。「どこに置くの?」
「テレビなんてどこでもいいじゃん。そんなの理々杏が決めてよ」美波はまた天井を見上げた。「それで~、冷蔵庫は絶対あの、向こうの映画とかに出てくる、アンティーク!」
「あ、そうなの……」理々杏は美波に苦笑した。「ベッドは僕とWとか言わないでよう?」
「え、ダメ?」
「はあ~?」
「うっそぴょ~ん、あっはっは!」楽しげに笑う美波。
「……」くだらない冗談に引きながらも、まんざらでもない笑みを浮かべる理々杏。
「ああ~……、念願のお城……」
「まあ、住みやすいお部屋にしようね?」
2人の二人暮らしが始まる。
1
僕は伊藤理々杏。梅澤美波が僕の親友だ。年齢は僕より4つ上の24歳。僕たちの運命共同体の始まり、というか、僕たちが知り合ったきっかけは、某会社の主催していた歌手のオーディションだった。
僕は、幼い頃から歌手になるのが夢だった。中学生になってオーディションを受け始めて、何度悔しい涙を流したかは見当もつかない。もう、すごいいっぱいだ。高校に上がってからも、その苦闘の日々は変わらなかった。ひまとチャンスを見つけてはオーディション。歌を練習しては録音して出し、演技を磨いては、役者のオーディションまで受けた。でも、現実はそう簡単にはいかなかった。
高校3年の時、僕は最後のオーディションにするつもりで、そのチャンスを拾った。
うちのお母さんの知り合いに、それ系に強い人がいた。僕はその人の紹介で、2、3個の細かい審査を飛ばしていきなり最終審査を受けた。
人生最後だって思ってたから、もうその最後のオーディションが一番緊張したよ。
最終審査に残された受験者は20人くらいいて、可愛い子とか、歌がすごくうまい子とか、もういっぱいいるのさ。もちろん僕だって負けてないけど、やっぱりみんなすごい気迫だから、ちょっと引いてしまう。そんな中にね、梅澤美波がいたの。
美波はその中でも人一倍目立ってた。見た目は地味なモデルって感じだったんだけどね(その時はまだ)、性格とか、意気込みが普通じゃなかったの。普通、隣に並び合ったら、空いた時間なんかに、緊張をほぐすために簡単な会話をするの。「頑張ろうね~」とか「緊張する~」とか、そんな感じに。でも、梅澤美波は違った。
「待ち時間が長い……」
という感じだったの。実際にそう言ったんだ。みんなが緊張してる時に1人だけだよ?「お腹空いて歌えなくなっちゃう」て怒ってたの。
変わってる子だな、て思ったよ。でも、美波と実際に会話してたら、もっと変わった子だと思った。美波がそうやって落ち着いていられるには理由があったんだ。美波は「自分が受かる」て思ってたらしいの。それは全員が考えることなんだけど、彼女の場合、そこに「絶対」がついてたわけ。
結局、その時のオーディションに受かったのは「大園桃子」という女の子だった。自己紹介の時にメソメソしまくってたのがかなり審査員の間では好評だったからね。 多分あの子なるんじゃないかな~って思ったよ。つまり僕と美波はオーディションに落ちちゃったわけ。
最後のオーディションだったから「合格」の報告がなかったのはかなりきつかった。でも、僕は1つだけそれを和らげるアイテムを見つけたの。それが、梅澤美波。
僕たちはそのオーディションをきっかけに、もう1年以上付き合っている。もちろん友人としてだぞ。普通で考えれば1年とは短いのだけれど、美波は東京のオーディションを受けまくるために一人暮らしをしていたの。だからその1年はもうほぼ一緒にいた。
今美波は自宅マンションの近くにあるレストランでウェイトレスをしてる。僕は自分の街にあるファーストフード店の店員さん。仕事はまだお互いにアルバイト。だから貧乏。
僕の家は美波のマンションから2時間のところにある。2人が会う時は大抵は僕の方が美波のマンションに行く。あとは渋谷とかで待ち合わせて買い物。でも、お金ない人はろくに買い物もできないから。ほとんどが美波の家。
バイトがない時はいつも遊びに行くからね~。この移動距離がめんどいなっていっつも思ってた。その矢先です。超特大のラッキーが僕たちに起こったの。あ、オーディションに受かったっていうオチはないから。
2
とある日曜日――。彼氏もいない寂しい孤独な美女2人の休日でした。
「白菜は? 買った?」一人暮らしで買い物かごがすっかり似合っちゃってる美波。
「買っ…た。うん、買った」
その日、僕はいつものように休日を利用して美波の家に泊まりに行っていた。夕食にしゃぶしゃぶを食べることになって、近くのスーパーに2人で買い物に行ったの。それもかなりのハイテンションで。
「あ、これどうする? 入れちゃう?」美波はハマグリを僕に見せる。「しゃぶしゃぶっとしたらうまそうじゃない?」
「闇鍋じゃ~ん」僕は大笑い。「確かに高価な鍋にはなるけどね、それでも、もう結構いろんなもの買ってんだから、これ以上ぶっこんだらもうしゃぶしゃぶではなくなるよ」
作タンポポ
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「真っ白なの……」
「まっしろって……、それ光の事でしょう?」
「そうだよ。化粧棚(けしょうだな)の照明が真っ白に光ってるの、もう最っ高にあがるよ。もう気分は芸能人」
梅澤美波は、その輝く瞳を天井に向け、夢を膨らませる。
「んで~、ソファは網目の細かい黒とベージュのチェック」
「ああ~、それはわっかるけど……、化粧棚が光ってるのがいまいちわからない」
伊藤理々杏(いとうりりあ)はおかしそうに首を曲げ、梅澤美波(うめざわみなみ)を見上げる。
「壁はワインレッド」美波の耳には理々杏の声が届いていない。彼女はいつものようにキラキラと輝き始めた。「あ、上品で大人っぽいやつね、下品な赤は嫌いだから」
「赤ぁ~? 赤はないでしょ~う? 壁だよ?」
「あ、さっきの化粧棚だけどね、あれは薄いオーシャンブルー。ほら、蛍光色っぽいやつ」「うん、それはわかるけどさ……」理々杏は半(なか)ばあきらめモードで首を傾げる。「壁が赤ってゆ~のは……、どうだろう?」
「天上の電気は、全部暗めで、化粧棚の明かりとか、スタンドライトの明かりはすっごく強くするの。もう、真っ白に……」
「それもあんま意味わかんない……」
「違う、すっごい綺麗なんだって!」美波は大きな瞳をより一層大きく開いた。「実際に見ればりりあんもそう思うから」
「実際にって……、見たらもう手遅れじゃん」理々杏はソファから立ち上がり、部屋の中をゆっくりと歩いた。「決定する前に見たいよね……。まあ、とりあえず、ここに化粧棚でしょ?」
「そう」美波も椅子から立ち上がる。そしてテレビのある場所を指差した。「ここにスカイブルーの化粧棚」
「オーシャンブルーじゃないの?」
「オーシャンブルーだ。オーシャンブルー。あの、蛍光色っぽいやつ」
「で? テレビは?」理々杏は隣にいる美波を見上げた。彼女達は15センチ以上もの身長差がある。「どこに置くの?」
「テレビなんてどこでもいいじゃん。そんなの理々杏が決めてよ」美波はまた天井を見上げた。「それで~、冷蔵庫は絶対あの、向こうの映画とかに出てくる、アンティーク!」
「あ、そうなの……」理々杏は美波に苦笑した。「ベッドは僕とWとか言わないでよう?」
「え、ダメ?」
「はあ~?」
「うっそぴょ~ん、あっはっは!」楽しげに笑う美波。
「……」くだらない冗談に引きながらも、まんざらでもない笑みを浮かべる理々杏。
「ああ~……、念願のお城……」
「まあ、住みやすいお部屋にしようね?」
2人の二人暮らしが始まる。
1
僕は伊藤理々杏。梅澤美波が僕の親友だ。年齢は僕より4つ上の24歳。僕たちの運命共同体の始まり、というか、僕たちが知り合ったきっかけは、某会社の主催していた歌手のオーディションだった。
僕は、幼い頃から歌手になるのが夢だった。中学生になってオーディションを受け始めて、何度悔しい涙を流したかは見当もつかない。もう、すごいいっぱいだ。高校に上がってからも、その苦闘の日々は変わらなかった。ひまとチャンスを見つけてはオーディション。歌を練習しては録音して出し、演技を磨いては、役者のオーディションまで受けた。でも、現実はそう簡単にはいかなかった。
高校3年の時、僕は最後のオーディションにするつもりで、そのチャンスを拾った。
うちのお母さんの知り合いに、それ系に強い人がいた。僕はその人の紹介で、2、3個の細かい審査を飛ばしていきなり最終審査を受けた。
人生最後だって思ってたから、もうその最後のオーディションが一番緊張したよ。
最終審査に残された受験者は20人くらいいて、可愛い子とか、歌がすごくうまい子とか、もういっぱいいるのさ。もちろん僕だって負けてないけど、やっぱりみんなすごい気迫だから、ちょっと引いてしまう。そんな中にね、梅澤美波がいたの。
美波はその中でも人一倍目立ってた。見た目は地味なモデルって感じだったんだけどね(その時はまだ)、性格とか、意気込みが普通じゃなかったの。普通、隣に並び合ったら、空いた時間なんかに、緊張をほぐすために簡単な会話をするの。「頑張ろうね~」とか「緊張する~」とか、そんな感じに。でも、梅澤美波は違った。
「待ち時間が長い……」
という感じだったの。実際にそう言ったんだ。みんなが緊張してる時に1人だけだよ?「お腹空いて歌えなくなっちゃう」て怒ってたの。
変わってる子だな、て思ったよ。でも、美波と実際に会話してたら、もっと変わった子だと思った。美波がそうやって落ち着いていられるには理由があったんだ。美波は「自分が受かる」て思ってたらしいの。それは全員が考えることなんだけど、彼女の場合、そこに「絶対」がついてたわけ。
結局、その時のオーディションに受かったのは「大園桃子」という女の子だった。自己紹介の時にメソメソしまくってたのがかなり審査員の間では好評だったからね。 多分あの子なるんじゃないかな~って思ったよ。つまり僕と美波はオーディションに落ちちゃったわけ。
最後のオーディションだったから「合格」の報告がなかったのはかなりきつかった。でも、僕は1つだけそれを和らげるアイテムを見つけたの。それが、梅澤美波。
僕たちはそのオーディションをきっかけに、もう1年以上付き合っている。もちろん友人としてだぞ。普通で考えれば1年とは短いのだけれど、美波は東京のオーディションを受けまくるために一人暮らしをしていたの。だからその1年はもうほぼ一緒にいた。
今美波は自宅マンションの近くにあるレストランでウェイトレスをしてる。僕は自分の街にあるファーストフード店の店員さん。仕事はまだお互いにアルバイト。だから貧乏。
僕の家は美波のマンションから2時間のところにある。2人が会う時は大抵は僕の方が美波のマンションに行く。あとは渋谷とかで待ち合わせて買い物。でも、お金ない人はろくに買い物もできないから。ほとんどが美波の家。
バイトがない時はいつも遊びに行くからね~。この移動距離がめんどいなっていっつも思ってた。その矢先です。超特大のラッキーが僕たちに起こったの。あ、オーディションに受かったっていうオチはないから。
2
とある日曜日――。彼氏もいない寂しい孤独な美女2人の休日でした。
「白菜は? 買った?」一人暮らしで買い物かごがすっかり似合っちゃってる美波。
「買っ…た。うん、買った」
その日、僕はいつものように休日を利用して美波の家に泊まりに行っていた。夕食にしゃぶしゃぶを食べることになって、近くのスーパーに2人で買い物に行ったの。それもかなりのハイテンションで。
「あ、これどうする? 入れちゃう?」美波はハマグリを僕に見せる。「しゃぶしゃぶっとしたらうまそうじゃない?」
「闇鍋じゃ~ん」僕は大笑い。「確かに高価な鍋にはなるけどね、それでも、もう結構いろんなもの買ってんだから、これ以上ぶっこんだらもうしゃぶしゃぶではなくなるよ」
作品名:ドリーム・キャッスル 作家名:タンポポ