ドリーム・キャッスル
宝くじのお金は、ここに来た時にはんぶんこしていた。僕の口座には、まだ400万くらい残ってると思う。美波の残金は聞いていないけど、僕よりは何かと遣っていたみたいだから、足りないようなら貸すつもりでいる。貸すって言っても、一生取り立てしない貸すだけどね。
なにはともあれ、僕たちはいま、新しい道を歩み出していた。
11
「……」
「…………」
「……ボンジュール?」
「ぼんじゅう? もしもしって言えや」
「わあわあ、理々杏だ、うわーい」
「名乗ってないのに、よくわかったねえ?」
「理々杏しゃべりかた、超特徴あるもん、んふ。うわあ……、超久しぶりじゃない? でも、なんで電話なの? 手紙とかの方が格安なのに」
「んっふっふ、僕はお金持ちだからね~。国際電話も国内電話も一緒なのさ!」
「す~ぐ無くなるから、はっは、でも嬉し~……。ど? 元気してた?」
「元気いっぱいだよ~。そっちは? いい男でも捕まえた?」
「ふふん、そっちの方は全然ダメ、まだ言葉が全然わかんないから。口説(くど)かれてんのかなんなのか、いっつもわかってない、ふふ」
「えーでも、大体はしゃべれるんでしょう?」
「あ~、う~ん……、だ~いたい、というか~……、でもほら、結局は吉田とか楓とか、蓮加とかさ、珠美とかとばっかりしゃべってるから」
「あ~、そっちにいる日本人の子ね。ふ~ん」
「な~によ、どうした。とつぜん……、急にきたな、あっはっは」
「いや~さ~……、急に声が聞きたくなったからさぁ~……」
「え~、嬉しい……。私も理々杏の声聞きたかったよ」
「うっそだあ。その割には手紙も最近枚数が減ってますけど」
「はっはっは、最近あんまり書くことが無くってさぁ。理々杏は、今回の手紙、もう送ってくれたの?」
「うん。ちゃんと、しっかり結末まで書いて送ったよ」
「マジ? 私何気に理々杏の手紙読むの楽しみにいてんだよね。恋愛小説だと思って読んでっから」
「マジか~、はは、あそう……」
「う~ん。なに、今回で決着ついたんだ?」
「ついたついた」
「おお、なんか返事が明るいなあ」
「いや? んんまあ、それは、ね……。手紙を読んでくれ」
「おっけい!」
「………。あのさ」
「ん?」
「今の下宿って、素敵なとこ?」
「ふん、下宿じゃないから。もうアパートですから」
「あれ? あそっかあ、移ったんだったよね?」
「そぉうだよ。ちゃんと私の送った手紙読んでる~?」
「読~んでる読んでる」
「もう……、今はアパート。あ、あそうそう、だからさぁ、食事の支度が大変なんだよ。日本の食材があんまり無くてさあ、あっても高いし……。ま、私の手作りだからね、味はいいんだけど」
「ご飯ね~……。そっちの洋食とかは、食べないの?」
「食べるよ。さっきもテレビのマネして、なんか日本とは違うバターライス作ってみたんだけど、な~んかテレビの言ってるものと味が全然違っててさあ」
「あっはっは………。ねえねえ」
「ん? な~に?」
「そのいま美波が住んでるアパートってさあ、素敵なところなの?」
「もち! 私らのお城に負けないよ」
「うっそ? あっはあ、なっつかしぃ~、お城ぉ~」
「ほら、こっちってさ、街並みがもうそっちとは違うじゃんか。だからね、部屋の中の感じとかもやっぱりそっちとは違うの。家具とか、部屋の造りそのものが、だからほら、あれ、うちらの求めてたものにすでに近い状態なのよ」
「ああ~~、な~るほどね」
「貧乏生活だけど、けっこう楽しいよ。今度理々杏も遊びにきなよ。ふふん、ま~だ少し、残してんでしょ?」
「ああ、そう、そうそう。あのね、それなのよ。そっちに行きたいの」
「え! ほんとに! うん、おいで~、おっほ~いでよ~う! マジで? 会うの超久しぶりじゃない? うわーい」
「行く」
「え、いつ来る?」
「一週間くらいしてから、そっちに行こうかと思って」
「え、いや冗談とか無しで、マジで、本当に、きなよ? 絶対だよ?」
「絶対。ってゆ~かね、あの……、ちょっと長めにそっちに行きたいのよ」
「おいでって~。大歓迎ですよ!」
「うん、ってゆ~かね、そこに住みたいの」
「え?」
「ダメ? それは無理?」
「や、ちょっと待って……。それ本気で言ってる?」
「言ってるねえ」
「ダメじゃないけど、ここに2人で住むんなら、ちょっと狭いよ? あ~、住めなくはないけど……。でもどうした? とつぜん、いきなり」
「うん、じゃあさ、2人でもっと広いとこに引っ越そうよ」
「はい? 理々杏?」
「2人のお城をさ……、また作らない?」
「ふん、冗談でしょ? 私ちょ~貧乏で、食べてくのもやっとだよ」
「仕事は? モデルの仕事してるんだよねえ?」
「してるけどぉ……。こっちにいるから、こっちのお給料にこっちの物価で、けっきょく一緒だもん」
「あ~、なるほどね。じゃあ、僕が出すよ」
「はあ~? 本気で言ってる?」
「冗談に聞こえる?」
「だって、そんなことしたら、貯金吹っ飛んじゃわない?」
「ふ、ふ、ふ、お金なら任せなさい」
「ほほ~う……。太っ腹じゃんか。あでもね、こっちは楽しいよ」
「うん」
「お城かあ……。今回は色々買わなくても、すぐ実現するよ。あ、でもさ、理々杏がここにきてみて、ここで大丈夫そうだったら、ここでもいいよね?」
「うん。でも、せっかくだからさ、やっぱ、お城を作ろうよ」
「はっはっは、好きだねえあんたも~」
「今回はお城を買えそうだからさ」
「はっはっは………、え?」
「美波、僕ね」
「……うん」
「宝くじで、7億円当たったの」
2023・6・2~END~
あとがき
作タンポポ
乃木坂46三期生である伊藤理々杏さんと、同じく三期生であり、乃木坂46キャプテンの梅澤美波さんの二人にW主演を務めて頂きました。
この作品、タンポポひじょうにお気に入りです。編集作業に難航した分、とっても可愛らしい存在に感じます。
この物語は、構想自体はずいぶん前にあったもので、ようやく完成した、といいますか、やっと世に出せたといった感覚なのですが、伊藤理々杏さんと梅澤美波さんをW主演に迎える事で、二人の繰り広げる幸運を手にした夢見る女子のわくわく感を存分に堪能できる物語となってくれました。
宝くじ、タンポポは当選した事がありません。購入した事がないのです。しかし、今度ぜひとも購入しに行こうと思っています。夢を見るのも悪くないなと、この物語を手掛けて改めて思えましたので。
伊藤理々杏さん、梅澤美波さん、この物語を、お二人に捧げたいと思います。
前作の『幸福論』ですが、賛否両論あると思います。内容が内容だけに、主人公のモデルとさせて頂いた彼女に捧げます、とは言えませんでしたが、タンポポはあの幸福論へのアプローチ、嫌いではないんです。もちろん愛情もたっぷりで執筆させて頂きました。
そうですね、『幸福論』は期間限定公開かもしれませんので、ぜひお手すきの際にでも、お読み頂けたら幸いです。
作品名:ドリーム・キャッスル 作家名:タンポポ